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ぼくらの森  作者: ivi
第二章 ―目覚め―
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第44話 妨害者

 夕日に染まる廊下を、セロは全力で走っていた。


 古びた床には窓枠が影を落とし、赤と黒の格子模様が廊下の奥まで続いている。


 遠征軍が帰還してから早くも二週間が経ったが、学生たちはまだ、遠征失敗のショックから抜け出せていない。


 絶望に沈んでいた彼らに、面会の知らせが届いたのは三日前のことだ。


 面会日が発表されてから、学舎はそれまでの暗い雰囲気とは打って変わった。誰もが今日を待ち望み、新しい紙が張り出されるたびに群がった。


 掲示板や竜舎の壁に貼り付けられた紙には、帰還者がどの部屋にいるか、細かく記載されていた。どうやら、負傷の度合いによって部屋が分けられているようだ。


 ケリーはどこにいるのか。傷の具合はどうなのか。集う学生たちが落ち着くのを待って、セロも掲示物に目を通した。


 どうやら、ケリーは騎士の学舎の大広間にいるようだ。ここには軽傷者が集められているらしく、セロはほっと胸をなでおろしたのだった。


 しかし、安心してばかりはいられない。


 重傷者は別の部屋に隔離されており、まだ面会の目度はたっていない。


 軽傷とはいえ、ケリーが負傷したことには変わりない。彼が心身に負った傷は計り知れない上に、面会を望んでいない可能性もある。


 帰還者と学舎に残った学生。両者の傷が癒えていない今、面会を拒む人も少なくないと聞く。


 会いに行ったとしても、ケリーが会ってくれるかどうかわからない……面会に行くべきか、落ち着いて向き合えるまで時間を設けるべきか。


 『ケリーさんが、セロさんに会いたくないわけないじゃないですか!ほらっ、早く行ってください!』


 セロはついさっきまで躊躇していたが、タークに背中を押される形で騎士の学舎へ向かったのだった。


 ケリー……どうか、少しでも元気な姿を見せてくれ。


 帰還者との面会は夕刻の鐘が鳴るまで。まだいくらか時間はあるが、今日は顔を合わせたらすぐ帰ることになるだろう。


 階段を駆け上がったセロの心臓が、早鐘のように打っている。彼は息が追いつかなくなっても、廊下を駆け続けた。


 しかし、先を急ぐあまり注意が欠けていたようだ。


 突然、柱の影から現れた足を避けることができず、セロはバランスを崩して躓いた。


 「すみませんっ!」


 転びそうになる体を立て直してふり返ると、そこには柱にもたれかかるルディアがいた。


 「廊下を走ると危ないですよ、オールティースさーん?」


 ルディアはにやりと口を歪めて、セロを冷たく見下す。歌うように語調を伸ばして名を呼ぶ声に、セロは強い不快感を覚えた。


 「ルディア……!」


 セロが名を口にした瞬間、ルディアの顔からふっと笑みが消える。彼はセロに名前を呼ばれることを、快く思っていないようだ。


 ……わざと妨害しようとしているな。


 ルディアの思惑を察したセロは、あえて下手に出ることにした。廊下を走っていたこと。そして、きちんと前を見ていなかったことは、こちらに落ち度がある。


 「すまない。少し考え事をしていて……怪我はないか?」


 ルディアは鼻で笑った。


 「別に、どこも怪我してないが?」


 「そうか……君も帰還者に会いに行くのか?」


 ルディアは黙ったまま、廊下の窓の外を眺めている。聞こえていないのか、それとも無視しているのか。理解しがたい行動に、セロは静かにため息をついた。


 ルディアが自分を毛嫌いしていることは、ずっと前から知っている。だが、彼がなぜ敵意を抱くようになったのかは、未だによくわからない。


 理由を聞いたところで、適当に誤魔化されてしまうだろう。ルディアが素直に答えてくれるとは思えない。


 「さあな?おまえがそう思うなら、そうなんじゃないか?」


 不敵に唇を歪めると、ルディアは鋭くセロを見据えた。


 彼のお遊びには付き合いきれない。


 「……失礼するよ。ちょっと急いでいるんだ」


 セロの背中を見送りながら、ルディアは呟いた。


 「お先にどうぞ……オルティスさん」

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