表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼくらの森  作者: ivi
第一章 ―はじまり―
16/122

第16話 増援

 「大丈夫か、ターク」


 見上げると、セロが手を差し出していた。タークはその手を握り、力を借りて立ち上がった。


 「もう駄目かと思いましたよ、セロさん」


 「本当にすまなかった」


 セロは申し訳なさそうに謝ったが、ふと右腕の痛みに顔をしかめた。


 「痛い……な」


 汚れた袖をめくると、セロの腕には二つの手形がくっきりと刻まれていた。タークが引き止めたときについたものだ。


 痣をさすりながら、セロは力なくため息をついた。


 「うわあっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!わざとじゃないんです!あのときは、必死で……!」


 セロは首を横に振った。


 「あのとき、タークが止めてくれていなかったら、今頃どうなっていたか……。ありがとう、おかげで助かったよ」


 ――グワアアアアアーッ!


 大地を揺るがす咆哮にふり返ると、巨大なブラッドウルフの動きが鈍くなっていた。しかし、同時に戦う学生たちにも疲労の色が見え始めている。どちらが先に力尽きてもおかしくない。


 セロは破壊された門の上に視線を移した。


 『おまえは……まだ、そこで高みの見物をしているんだな?』


 「……行ってください」


 セロは驚いて、タークを見つめた。


 「ごめんなさい。暗すぎて、ぼくには不死身の少女が見えないんです。だから、引き止めてしまって……。ぼくはセロさんほど、夜目が効かないんです」


 タークは顔を上げて、セロと目を合わせた。彼の茶色く透き通った瞳に、強い意志が宿っている。


 「不死身の少女を見つけたのは、ぼくたちだけ。少女に不意打ちを仕掛けるなら、今しかないですよね!」


 ――ドンッドンッ!


 また、衝撃音が響く。


 『ブラッドウルフの増援だ!』と身構えるタークに、セロは微笑んだ。


 「……どうやら、増援に来てくれたのは騎士団のようだな」


 セロが指さす先では、太い木のかんぬきで閉ざされた扉が、ガタガタと揺れていた。ドラゴン乗りと騎士の訓練場を繋ぐ扉から、怒鳴り声が聞こえてくる。


 早く開けないと、学舎の扉がまた一つ壊されることになるだろう。


 「ターク、頼みがある。あの扉を開けられるか?」


 「はい!」


 タークの返事は頼もしい。


 セロは橋を見つめた。


 さっき、我を失っていたときに思いついた方法を、頭の中で再確認する。階段から跳び移れば……壁の上へ行けそうだな。


 「行くぞ、ターク!」


 セロに続いて、タークも走り出す。倒れた松明や横たわるブラッドウルフの亡骸を、いくつも跳び越えた。


 階段が目の前に迫ったとき、セロはタークの背中をそっと押した。互いにふり返ることなく、セロは階段を駆け上がり、タークは扉へ辿り着いた。


 太い木のかんぬきは鉄の留め具にはまり込み、簡単には外れそうにない。今にも破壊されそうな扉に向かって、タークは叫んだ。


 「今、開けます!」


 かんぬきに手をかけて、横に引っ張る。


 タークの声が届いたのか、壁の向こうから聞こえる騒ぎ声は小さくなり、扉の揺れがぴたりと止まった。


 「誰かいるのかっ!」


 すぐそばで、男の声が聞こえる。扉に体を押し付けていたタークは、ふと隙間から見える人影に気が付いた。


 「あの、騎士団の方ですか!」


 タークは声を張り上げて、人影にたずねた。扉の向こう側で小さなざわめきが起こる。


 「ああ、そうだ!そっちが大変なことになっていると聞いて来た!一体、何があったんだ!」


 息を止めて板を引っ張るタークには、質問に答える余裕はなかった。


 力任せにかんぬきを引く腕が痛い。


 こんなに硬いなんて……!いつも門の開閉をしている人たちは、どうやって外しているんだろう。


 限界を感じたタークは、かんぬきから手を離した。息が上がり、膝についた手は小刻みに震えている。


 「おい、どうした?なぜ答えない!」


 少し怒気を含んだ男の声。しびれを切らした騎士たちが、不満そうな声を漏らしている。


 「かんぬきが……かんぬきが、外れません!」


 タークは扉をじっと睨みつけた。


 騎士たちが力任せに押し開けようとしたため、扉はこちら側に歪んでいる。そのせいで、太いかんぬきも、くの字に曲がっていた。これでは、いくら引っ張っても動かないはずだ。


 もしかして……!


 ひらめいたタークは、鉄の留め具を見つめた。留め具はL字になっていて、上からもかんぬきをはめ込めるみたいだ。


 再び板に手をかけて、今度は力いっぱい持ち上げてみる。かんぬきが少しずつ外れそうになっていることに気が付かず、タークは渾身の力で押上げ続けた。


 扉の向こうで、男が指示を出す声が聞こえた。


 「おい、扉を壊せるものはないか!何でもいい!斧でも何でも持って――」


 「うああっ!」


 突然、かんぬきが外れ、タークはバランスを崩して尻もちをついた。


 開いた扉から眩しい光が差し込み、タークは思わず目を細める。


 ザッザッと砂を踏みしめる蹄の音……かんぬきを抱えたタークの前で、足音はぴたりと止まった。


 「君か?さっきから、ここで苦戦していたのは」


 頭上から聞こえる声に顔を上げると、馬に乗った大きな影がタークを見下ろしていた。松明の灯りのせいで、その人の顔は見えない。よろよろと立ち上がりながら、タークは返事をした。


 「はい、そうです」


 「そうか、ご苦労さん。早速だが、状況を聞かせてもらいたい」


 タークは一生懸命に話した。


 「大きなブラッドウルフが暴れています。小さいブラッドウルフの群れは、全滅しま――」


 ――ウオオオオーーーーン!


 タークの声を掻き消すように、ブラッドウルフの遠吠えが響く。一瞬にして、騎士たちの間に緊張が走った。


 「よし、わかった。あとは我々に任せろ。……行くぞ!」


 先頭の馬に続いて、大勢の騎士たちが駆け出した。どの馬も、タークをするりとかわして走り抜けていく。


 馬たちが巻き起こす風にもまれて、タークの髪はぐしゃぐしゃになった。


 砂を蹴る馬の足音が遠のいて行き、遠くから歓声に似た叫び声が聞こえてくる。


 これで、きっと大丈夫だ。


 タークの口から、深いため息が漏れる。


 手に持っていたかんぬきを捨てて、彼は壁を見上げた。闇に包まれて全貌を見ることはできないが、セロは今、あの壁のどこかにいるはずだ。


 しばらくすると、タークは開け放たれた門に背を向けて武器庫へ走った。


 闇に沈んだ訓練場に、まだ夜明けは来ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ