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ぼくらの森  作者: ivi
第四章 ―出会い―
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第120話 眠らない狼

 焚き火の温かな明かりが、スノーの青白い頬を照らしている。いくらか穏やかになった彼の寝顔を、セロは静かに見守っていた。


 メーノが採って来た薬草が効いたのか、スノーの容態はかなり良くなった。薬草を揉んで傷口に被せ、残った分はお茶にして飲ませたのだ。


 おかげでスノーの出血は止まり、顔色も戻ってきている。気持ちよさそうに眠る彼の傍らでは、ダイが仮眠をとっていた。胡座をかいて頬杖をつき、いつでも起きられるようにしている。


 夜の森では、どんなに休息しても休んだ気がしない。寝ずの番をして過ごすなら、なおさらだ。


 ましてや、子どもがこんな時間に起きているなんて……ありえない。


 セロは、もう一人の寝ずの番に声をかけた。


 「メーノ、そろそろ君も眠った方がいい。見張りは僕に任せて、休んでくれ」


 木の根に呑まれた大きな岩の上で、メーノはちょこんと座っている。彼女はスノーの手当てが終わってからずっと、そこからみんなの様子を見守っていた。


 メーノの様子を見る限り、見張りには慣れているみたいだ。ジンと二人でいたときは、彼女が一人で不寝番をしていたのだろう。


 そうだとしたら、メーノは深刻な寝不足に悩まされているはずだ。十七歳のセロでさえ、数日の疲労と眠気が蓄積しているのだから、子どもにとってはもっと辛いだろう。


 セロは、そばに置いていた毛布を手に立ち上がった。


 「ほら、降りて来るんだ」


 岩の下から呼びかけても、メーノは頑なに動こうとしない。


 スノーを助けてくれたとはいえ、彼らはまだ出会ったばかりだ。就寝中の命を預けるには、信用が足りないのだろう。


 「君とジンを見捨てて逃げたりはしない。何かあれば、そのときは僕たちが守るよ」


 無表情なメーノの瞳に、焚き火の光がちらつく。ツンと尖った目に宿る意思は、セロに負けないくらい頑固そうだ。


 「君はずっと一人で、ジンを守って来たんだろう。そうでなければ、子どもが西の森で生き延びられるはずがない。今まで頑張ってきたんだから、今夜くらいは僕たちを頼ってもいいんじゃないかな」


 灰色の瞳がじっと彼を見据えている。


 心の奥底を見透かす鋭い視線だ。


 気圧されて沈黙したセロを尻目に、メーノは音もなく岩から飛び降りた。彼女はさっさとジンの隣に横たわって、薄いマントに包まる。


 寒さや不安をじっと耐えるように。


 膝を抱えて、小さく身を縮めている。


 そうか……どんなに強がっていたって、メーノが子どもであることに変わりはないんだ。


 セロは持っていた毛布を二人にかけた。


 睨んで威嚇するメーノに、彼は短く返す。


 「風邪を引くぞ」


 秋の森は空気が冷たい。


 セロもスノーもコートを着ているというのに。メーノはワンピースに膝まで覆うロングブーツ。ジンにいたっては、色褪せた茶色いシャツ一枚に古いズボンだ。


 彼らが少しでも温まるなら、できる限りのことはしてあげたかった。


 「僕は朝まで起きているから。困ったことがあれば、いつでも声をかけてくれ。それじゃあ……おやすみ」


 メーノは警戒していたが、やがてジンの寝顔を見つめながら、眠りに落ちたようだった。


 彼女の顔に浮かぶのは安堵の表情とは言えないが、さっきよりも柔んでいる気がした。


 木の焦がれる音が、真っ暗な森に響く。ブラッドウルフの獣臭もしなければ、遠吠えすらも聞こえない静かな夜だ。


 セロは懐にしまった地図を取り出して、まだ見ぬ首都の町へ思いを馳せた。旅の最初の目的地だ。


 首都には王立図書館がある。そこには学舎とは比べ物にならないほど、たくさんの本が所蔵されているのだ。


 きっと、英雄に関する書籍も残っているだろう。


 首都ベルホーンを目指しているのは、ダイとスノーも同じ。だが、スノーが負傷した今、明日からの旅程は見直すべきだろう。


 地図を走る細い線を指でなぞる。西の森から街道へ伸びた歪な線は、地図中央に描かれた首都ベルホーンで途切れている。


 長い夜の退屈しのぎには、ちょうどいい。


 地図と向かい合ったセロは、黙々と思考を巡らせるのだった。

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