第118話 夜寒
セロの腕に抱かれたスノーは、かろうじて意識を保っている状態だった。
「すぐに手当するからな。遅くなってすまなかった」
「大丈夫、だよ……ありがとう」
介抱するセロの背後では、ダイが指笛を鳴らして馬たちを集めていた。そばで待機していたのか、数秒で駆けて来る足音が聞こえ始めた。
ダイの馬に積んだサドルバッグには、包帯が入っている。だが、傷口を洗う水はどこかで汲んで来ないといけない。
「ケガしてるの……?」
小さな声に訊ねられてセロが顔を上げると、目の前に少年が立っていた。
少年はスノーの服が血に濡れているのを見るや否や、さっと青ざめた。
「ケガしてる……!」
少年はセロの答えも持たずに、少女のもとへ駆けて行った。彼は何か必死に訴えては、少女に首を横に振られている。
二人の子どものやり取りを眺めていると、ダイがやって来た。
「押さえてはいたから、血は止まってると思うが……」
ダイが慣れた手付きで手当てを始めると、セロはまた子どもたちへ意識を向けた。
耳を澄ませると、少年の懇願する声が聞こえてくる。
「メーノ、あの人ケガしてる!助けてあげようよ!」
少女は表情を変えずに首を横にふる。
「どうして?あの人、とても痛そうだったよ?……あっ、そうだ!ケガが治る草を探して来ようよ!ぼくがケガしたとき、いつも見つけて来てくれるでしょ?」
少女はまた首を横にふる。
「ええーっ!どうして、そんな意地悪するの?今日のメーノ、なんだか変だよ?」
なかなか頷かない少女に対して、意地になったのか、少年はふいっとそっぽを向いた。
「ふんっ!いいもん!ぼくはお手伝いするから」
頬を膨らませた少年は、セロたちの前にやって来ると、おずおずと口を開いた。
「えっと……何か、ぼくにできることない?」
ダイは少年の変わりように驚いた顔をしたが、すぐに意地悪く笑った。
「へえー、助けてくれるのか?そんじゃあ、ちょっと手伝ってもらおうか……あーっと、でも、泣き虫坊主にできることは――」
「この辺りに川はないか?」
セロは大人気なくからかうダイを遮った。
「あっちに小さい川があるよ!」
少年は、焚き火の向こうを指さす。
「ここから近いか?」
「うん」
セロは少年に礼を述べた。
「教えてくれて、ありがとう。とても助かるよ」
「ぼく、案内する!」
「君は、お友達と一緒にいる方がいいと思うが……?」
セロが少年の背後に視線を移すと、そこにいたはずの少女は、いつの間にかいなくなっていた。
「あの子は、どこに行ったんだ?」
「えっ?」
少年は不安そうな顔できょろきょろしていたが、やがて明るく笑った。
「たぶん、ケガが治る草を探しに行ってくれたんだ。メーノ、怖いけど優しいから」
少女は少年の提案を受け入れたのだろうか。それにしても、この子たちは一体どういう関係なのだろう。
「そうか……すまないな」
セロは地面に転がっていた自身の剣を拾い上げて、ダイの馬に近づいた。三頭の中で最も体格の大きいハクベニーは、持ち前の力を活かして荷物を運んでくれている。
鞍の両側に下げたサドルバッグから、ブリキのバケツとランタンを取り出して、セロは夜の森へ向かう準備を整えた。
「水を汲むついでに、馬たちに水を飲ませてくる」
「おう、頼んだ」
小川へ向かうセロを見送ることもせず、ダイは少年にたずねた。
「なあ、おまえの名前は何て言うんだ?」
「ぼくは、ジン。ジン・ナシュー」
「へえ、いい名前だな!なあ、ジン。もし、俺たちが焚き火を貸してほしいって言ったら泣くか?」
「えっ、泣かないよ?」
「おお、そうか?じゃあ、ありがたく暖を取らせてもらうぜ。すっかり冷えてきやがった」




