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ぼくらの森  作者: ivi
第四章 ―出会い―
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第117話 茶番

 スノーを人質にされているせいで、セロは下手に動けない。


 「落ち着け……!」


 セロの呼びかけに、少女は目を細めて嫌悪を顕にした。


 少年よりも、この子の方が武器の扱いに慣れているらしい。睨んで牽制しながら、ナイフの刃先は確実にスノーの首を狙っている……恐らく、素人じゃない。


 スノーの命を守るためにも、少女を刺激しない方がよさそうだ。


 「おまえのお友達か?」


 背後でダイの声が聞こえる。


 もし、彼らが友達なら。少女は少年を開放させるために人質を取ったのだろうか。


 そうだとしたら、話は早い。


 「ダイ、その子は友だちだって?」


 セロは少女から目を離さずに問う。


 「そうみたいだぜ?」


 「……わかった」


 セロは剣を鞘ごと外すと、手の届かない場所へ投げ捨てた。


 怪訝な顔の少女に、両手を広げて見せる。


 「君たちに危害を加えるつもりはない。君のお友達は返するから、その人を傷つけないでくれないか」


 少女は無言で睨み続けている。


 セロはわずかにふり返ると、ダイに少年を離すよう促した。


 「メーノ……ッ!」


 ダイの手から逃れた少年は、一目散に駆けて、少女の足元に崩れ落ちた。


 泣きじゃくる友達の無事を確認すると、少女はゆっくりと後退ろうとした……が、彼女の足には少年がしがみついていて動かせない。


 身動きが取れなくなってしまった少女は、動かないスノーと号泣する少年を交互に見つめている。


 その様子が何となく気の毒に感じて、セロは思わず声を掛けた。


 「えっと……助けが必要かな?」


 少女は警戒心を隠すこともせず、敵意に満ちた目でセロを睨みつける。


 対峙する二人が、各々に頭を悩ませていたそのとき。


 かすれるような、小さな声が聞こえた。


 「大丈、夫……?どう……したの?」


 はっとして少女の腕中に視線を戻すと、寝ぼけ眼のスノーと目が合った。


 騒ぎに気づいて目を覚ましたようだが、状況を理解できていないらしい。


 「スノー!大丈夫か?」


 ダイの大声に驚いて、少年がビクッと肩を震わせた。泣いている少年が気になるのか、スノーはゆっくりと顔を向ける。


 「ごめんな、スノー。ちょっと言いにくいんだけどさ、おまえ人質になってるんだよ」


 ダイは簡潔に伝えたつもりのようだが、それでは余計に混乱させるだけだろう。


 セロが呆れている間に、スノーは手を伸ばして少年の頭を優しく撫でていた。


 「泣い、てる……の?」


 大泣きしていた少年が、嘘のように大人しくなる。


 たとえ、自分が人質に取られていても。スノーは泣いている子どもを放っておけないみたいだ。


 スノーをじっと見つめていた少年が、ちらっとダイを見る。


 「あいつに泣かされた。」と言いたげに。


 「えっ、俺っ!?」


 少年の声なき告げ口に、ダイは珍しく素っ頓狂な声を上げている。そんなダイの姿から何かを察したのか、スノーは眉をひそめた。


 「ダイ、ちゃん?」


 「ええっ?いやいや、だって、あれは!」


 『何だ、この状況は。』


 そう思っていたのは、セロだけじゃない。少女も訳がわからないと言いたげな顔で、ナイフを持つ手を下ろしている。


 こちらに敵意がないことは、もう十分通じただろう。今ならスノーを返してもらえるんじゃないか。


 セロが一歩踏み出すと、動きに気づいた少女は再びナイフを構えてしまった。


 しかし、その刃先はスノーに向いていない。自身の胸の前で構えているだけだ。


 攻撃の対象がスノーからセロへ変わったようだが、茶番に巻き込まれた今では、少女の脅し方は何とも中途半端なものだった。


 対立する少女とセロを見て、スノーは少女を優しくなだめ始めた。


 「大丈夫だよ……セロを信じて、あげて。嘘をつく人じゃ、ないから……」


 痛みに顔をしかめながら、スノーは懸命に少女を説得しようとしている。白い手袋をはめた少女の手を、血の気の失せた手でそっと握りしめて。


 「僕たちは敵じゃない。スノーを離してくれるかな?」


 少女は俯いて、ナイフを腰のポーチにしまった。本当は信用できないのだと思うが、この状況が無意味であることは、彼女も理解しているのだろう。


 セロはゆっくりと少女に歩み寄り、スノーを抱きかかえる。腕に感じるスノーの体温に、ほっと深い息をついた。

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