第115話 焚き火
真っ暗闇の森を見渡して、ダイは訊ねた。
「なあ、セロ。俺たちは今、どの辺りにいるんだ?」
「……わからない。地図で確認できればいいんだが、暗すぎて周りの景色が見えない」
「じゃあ、これ以上は動き回っても無駄ってことだな」
ダイは大げさにため息をつくと、馬を止めて耳を澄ませた。近くに川があればいいのだが、そう都合よく流れていない。
松明の火がパチパチと音をたてる。
周囲の様子を伺っていたセロは、視界の端に光を見た気がして、木々の先に目を凝らした。
見間違いかと思ったが、よく見ると遠くの茂みに小さな光がちらついている。あの感じだと、家の明かりではないだろう……ランプか何かだろうか。
「ダイ、あそこに灯りが見えないか?」
「どこだ?」
セロが指差すと、ダイも木々の隙間で瞬く光を見つけたようだ。
「もしかすると、人がいるかも知れない」
「行ってみるか。魔界軍の奴らが、火を使うとは思えないしな」
ダイが手綱を繰ると、馬たちは一列に並んで歩き始めた。
木立を進むにつれて、光は少しずつ大きく、明るくなっていく。夜目の効くセロが、真っ先に光の正体に気がついた。
「誰かが焚き火をしているみたいだ」
「こんな場所でか?随分と呑気だな」
ブラッドウルフに追われていた場所から、距離はそう離れていない。ブラッドウルフの遠吠えは、ここにいた人にも聞こえただろう。
「まあ、流石に逃げたか。荷物も馬も見当たらないぜ」
ダイは木陰から、小さな焚き火を眺めて呟いた。
火を起こした人は、危険を察知して場所を移したのだろう。火を消す暇もなく逃げ出したのだとすれば、焚き火だけが残されているのも納得できる。
「……どうする?」
「ひとまず、ここで休憩しようぜ。スノーの手当ても早くしてやりたいし。それに、ここがどこかわからない間は、無闇に動いたって仕方ないだろ?」
何だか、他所様の焚き火を横取りするようで気が引けるが……そんなことを言っている場合ではないか。
セロは罪悪感を感じる間もなく下馬すると、ダイからスノーを受け取った。
苦しそうに呻くスノーを背負うと、ヴェルーカが薄桃色の鼻で彼の背中を優しく擦った。そっと寄り添うヴェルーカは、まるでスノーを励ましているみたいだ。
「ヴェルーカも、心配しているんだな」
セロが馬を見守っていたそのとき、焚き火の方から微かな気配を感じた。
「俺が先に行くから、おまえは後から来いよ」
どうやら、ダイも焚き火周辺に漂う気配を察したようだ。彼は背中の鞘に収まる剣の柄に手をかけて、ゆっくりと歩き出した。
森の木々が開けた場所。草の生えていない、地面が露出する空間の中央では、相変わらず温かな火が揺らめいている。
ダイが草地から一歩踏み出したときだった。
突然、小さな人影が焚き火の前に立ちふさがった。




