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ぼくらの森  作者: ivi
第三章 ―旅立ち―
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第112話 セロとターク

 セロは部屋の鍵を開けて、タークのために扉を押さえた。


 「おじゃまします……。」と、やや緊張気味に一歩を踏み出したタークは、部屋に入った瞬間、興味深そうに辺りを見回した。


 「ここが僕たちの部屋だ。左側のベッドに君の制服とブーツが置いてある。それから、外靴はここで脱いで履き替えるように」


 セロは説明しながらブーツを脱いで、扉のそばに置いておいた別の靴に履き替える。タークは荷物を掻き回して部屋靴を取り出すと、彼の後ろに続いて部屋に上がった。


 「まずは、制服に着替えてみてくれ。大浴場やお手洗いは後で案内する」


 部屋の中央にある丸いテーブルと二つの椅子。その向こう側にある本棚には、本が数冊だけ置かれている。


 セロは何度も読んだその本を読み飛ばしながら、タークが着替え終わるのを待った。


 部屋に砂やゴミが落ちるのを嫌って、セロはいつも帰って来てすぐに着替える。こうして制服のままでいるのは、少し変な感じがした。


 ああ、そうだ。タークには洗濯する場所や、食堂についても説明しなければならない。教えることは、まだまだ山積みになっている。夕刻の鐘が鳴るまでに間に合うだろうか。


 「あの……!」


 セロがふり返ると、青い制服に身を包んだタークが、落ち着かない様子で立っていた。彼の胸元では、金色のドラゴンの紋章が光を鈍く反射している。


 「これで、合ってますか?」


 ボタンの掛け違いもなく、ベルトもきちんと通っている。ズボンはブーツの中に入れ込んであり、丈が余っている様子はない。頭から爪先まで一通り見たセロは、心配そうなタークに頷いてみせた。


 「ああ、大丈夫だ。制服を着てみて、何かおかしいところはないか?採寸が合っていなければ、すぐに交換して来る」


 「ぴったりです!ありがとうございます!」


 セロはタークに手招きをすると、自分のベッドのそばに置いてある鏡の前に立たせた。大きな茶色い瞳で、自分の姿に見入るタークに、セロは優しく微笑んだ。


 「よく似合ってる」


 「本当ですか?ありがとうございます!」


 嬉しそうにふり返ったタークの視線が、セロの制服の紋章の上で止まる。自分のものとは違うその紋章を、彼は不思議そうに見つめていた。


 「僕は三年生だから、君の紋章とは少し違うんだ。君も二年生になったら、翼が一つ刺繍される。翼の数を見れば、その人が何年生なのか、わかるようになっているんだ。

 だが、四年生以上になると翼の数は増えない。学舎には特別な事情を抱えた先輩もいるから、それだけは注意しておいた方がいいかも知れない」


 「特別な事情……?」


 首を傾げるタークに、セロは頷いた。


 「四年生の冬には、ほとんどの学生が自分が所属したい外部の団隊に入るんだ。実力がある人は、首都や地方の警備隊から勧誘されることもある。だが、中にはその誘いさえ断って、学舎に残る人もいる。理由は様々だが、単に実力不足という訳ではない。学舎の指導者になるために、特待生として残る人もいれば、自分の後輩が一人前になるまで見届けたいという人もいる」


 「優しいんですね。その先輩たちはきっと、みんなから尊敬されていますよね」


 タークの言葉を聞いて、セロは無意識のうちに頷いていた。


 ケリーとエダナをそばで見守るため、学舎に残る選択をしたクウェイのことを、肯定してもらえた気がしたのだ。


 この少年と一緒にいると、なぜか心が落ち着く気がする。油断すれば、今のみたいにお喋りが過ぎてしまう。


 セロは窓の外に目を向けて、空の色を確かめた。日は随分と傾いてしまっているが、まだ夕日の赤には染まっていない。これなら、夕刻の鐘が鳴るまでに案内を終われそうだ。


 「さてと……次は宿舎と学舎の案内をするから、そのままついて来てくれ」


 セロはさっさとブーツに履き替えて、ドアノブに手をかけた。


 「あっ!あの……ちょっと待ってください!」


 慌てて呼び止めると、タークはおずおずと訊ねた。


 「ぼく……まだ、あなたの名前を聞いてないです」


 「ああ、そうか。自己紹介が遅れてすまない」


 セロは扉の前で背筋を伸ばし、後輩の見本となるような姿勢で名乗った。


 「僕の名前は、セロ」


 「セロ……さん?」


 「そうだ」


 先輩の名前を忘れないように、タークは小声で何度もセロの名前を呟いている。


 やがて、納得したかのように頷くと、タークはやわらかい笑顔を浮かべた。


 「よろしくお願いします、セロさん!」


 「こちらこそ。一緒に頑張っていこう」


 扉を開けて、二人は部屋を後にする。


 誰もいなくなった部屋には、タークの大荷物とセロの運んだ荷物だけが残されている。


 生活感のない閑散とした彼らの部屋が、学舎生活の思い出で染まるのは、きっと、まだまだ先の話だろう。

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