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ぼくらの森  作者: ivi
第三章 ―旅立ち―
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第107話 英雄の弟

 ずっと会いたいと願っていた、英雄の弟。


 憧れの存在を前にして、タークの頬が桃色に高揚していく。

 

 「えっ、それって……すごいじゃないですか!まさか、セロさんが英雄の弟さんだったなんて、夢みたいです!どうして、今まで教えてくれなかったんですか?もっと早く教えてくれていたら、英雄さんのお話をたくさん聞けたのに!」


 なぜ、ジアン・オルティスの弟であることを黙っていたのか。


 あの日、ケリーが憤怒していたのも同じ部分だった。


 「ターク、君には本当に申し訳ないことをした。だから、君が聞きたいことには何でも答える。難しい話になるかも知れないが……よく聞いて欲しい」


 セロは額縁に閉じ込められた兄に目配せをした。絵の中の兄は、いつもと変わらない微笑を浮かべている。


 「僕が英雄の弟であることを隠していた理由は二つある。一つは僕自身を、もう一つはタークを守るためだ」


 「えっ、ぼくを?」


 セロは頷いた。


 「そうだ。僕の過去を明かせば、タークに危険が伴うと思って話さなかった。英雄に関する黒い噂や非難の声を、聞いたことがないか?」


 タークはぶんぶんと首を横にふった。


 「英雄として名が広まれば、同時に影も生まれる。二人の才能を妬んだ人たちが、遠征で生き残った彼らの馬とドラゴンを、心無い噂の種にしたんだ。その影響で、第一回大草原遠征から四年経った今でも、学舎には黒い噂が蔓延っている。……逃げ出した英雄という、穢れた呼び名を広めたのも彼らだ」


 「そんなっ!英雄さんが悪く言われているなんて……ひどいです!」


 タークは本当に何も知らなかったようだ。


 彼は泣きそうな顔で、話に聞き入っている。


 「英雄を嫌う人たちからすれば、弟である僕も目障りな存在だ。セロ・オルティスの後輩というだけで、タークが傷つくのは嫌だった。

 だから僕は、君に自分のことも兄のことも、学舎で生きる上で不必要なことは、何も話さない道を選んだ。身勝手な言い訳になるが……僕は、無知が身を守ることもあると思ったんだ」


 「セロさんの名前、ケリーさんやルディアさんにも内緒にしていたんですか?」


 セロが黙って頷くと、タークは悲しそうに眉をしかめた。


 「セロさんは……セロさんは、傷つかなかったんですか?ずっと一人で隠してたんですよね?それって、とても辛くなかったですか?」


 セロは窓の外に目を向けた。


 予想外の問いだった。


 「……わからない」


 感受性が豊かなタークは、セロの身に起こった出来事を、自分に重ねて受け止めているのだろう。


 正直に答えることで、タークを辛い気持ちにさせてしまっている。話しても、話さなくても、お互いに苦しい思いをすることに変わりはないのか。


 複雑な気持ちを抱きながら、セロは次の質問を静かに待つ。


 長い沈黙のあとで、タークはやっと口を開いた。


 「でも……どうして急に、こんな話をしようと思ったんですか?セロさんなら、いつ首都や地方の警備隊に呼ばれても、おかしくないですし……学舎を出るときまで、ぼくに内緒にしておくこともできたはずなのに」


 この質問への答えは、簡単だ。


 「タークのおかげだ」


 「えっ?」


 困惑顔のタークに、セロは正面から向き直った。


 この話の先に、本題を繋ごう。

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