ボッチ絵師VTuberのクリスマスSS
「ところでオフコラボっていつだったの?配信でまだ録ってないって言ってから、放送まで外出てないよね?」
「オフコラボしますって公式で発表した頃にはもう録ってたよ。じゃなきゃ、ぼく刺されちゃうしね。前の配信の後、「君が言った通り本当に爆弾予告が来たよ」って笑いながらCOOKINGに言われたよ。もう絶対あそこには行かない」
ある日の暮れ方のことである。独りの絵師が、クリスマスが終わるのを待っていた。
広い部屋の中には、この女のほかに誰もいない。ただ、所々自作のポスターが貼ってある横に長い大壁に、モモンガが一匹とまっているだけ。今日が、クリスマスである以上は、この女のほかにも、聖夜に騒ぐ友達や彼氏が、もう二三人はありそうなものである。それが、この女のほかには誰もいない。
「もも~、お前だけだよ~。こんなウチとクリスマスを一緒に過ごしてくれるのは~!!」
ウチは本業をVTuberとし、イラストレーターとしては大きな行事くらいでしか活動しなくなった。小説の挿し絵なんかの仕事は全くしなくなった。兼業はどちらの仕事も満足にこなすのは難しい。ウチの場合はイラストレーターとしての仕事を削ったわけだが、これでも配信頻度はあの化け物に劣る。天才はいる。悔しくはないが。あいつを知ったのもクリスマスだったか。
「配信するか。同じ境遇の奴しかいないでしょ」
と、いつもの動画配信サイトを開いたところで、クリぼっちというコメントが容易に想像できたので、テキトーに他人の配信をはしごすることにした。VTuber業は好きだったが、VTuber自体は特段好きというわけではなかったウチ。数分観て次の配信へ。絵を描いている裏の作業用BGMとして転々としか観てこなかったウチが、一つの配信を観て変わった。
「最近出てきた新人VTuberだっけ?」
イラストレーターとしての名前、たちつてとはよく聞く。名前だけで実際に絵を見た訳ではなかったが。配信自体は絵を描きながら駄弁るだけの内容だったが、普通じゃなかった。エグい速度で出来上がるイラスト、雑談配信のようなコメント対応。このガキ、狂ってる!
「そうか、先に絵を描いて、それを録画して早送りで流してるんだ」
作画速度にビックリしたけど、よくよく見るとそこまで絵が上手い訳じゃない。ウチと同レベルだ。ウチとどちらが上手いかは受け取り手の好みになるだろう。配信が進んでもペースは落ちない。まあ、当たり前だよな。そんなことを思っていたらリクエストなんて始めやがった。どうせ自作のコメントを見付けて、早送り映像を流すだけ。記念カキコでもと思い、カッコいい滝と打っていたところ…
『じゃあ、俺のコメントの一つ上を描くは~』
安価!?動揺して途中で送ってしまった。
:リクエスト「てと神さま」
:リクエスト「皿の上のてと様」
KOMUGI ch.:リクエスト.か
たちつてと:↑
:リクエスト「緊◯てと様が◯責めされて、絶◯地獄」
『うーん、か?一つ下ヤバそうだね当たらなくてよかった…』
:下ネタが分からないてと様の為に、敢えて◯を使うことによってヤバい文ということを伝えるのポイント高い
:↑そのせいで何描けば良いのかも分からないのほんと草
:緊張てと様が質問責めされて、絶句地獄?(純水)
:↑ちょっと日本語下手で可愛い
『か…蚊?これで良い?』
ちゃちゃっと描きあげる。リアルすぎてちょっと気持ち悪い。自分の絵に対して「これで良いのか?」と首を傾げるてとと対照的にコメント欄はウチの浮上に沸いていた。
:KOMUGI?
:本人?
:安定のクリぼっちw
:#配信しろ
:KOMUGIのOはBOCCHIのO、KOMUGIのIはBOCCHIのI
最後のほぼ関係ないだろ。
『最後のほぼ関係ないだろ!KOMUGIさん?って有名なの?』
知られてないのはそれはそれでムカつくなぁ。
『で、お前ら、KOMUGIってどんな人なの?』
:ボッチでぇ…
:ぼっち
:BOCCHI
『やべ、ボッチなこと以外分かんねっw』
:てと様と同じで、イラストレーターだよ
:てと様と同じで、VTuberだよ
:てと様と同じで、ボッチだよ
『ち、チゲ絵師。ボッチじゃねぇし。友達5万人いるし』
:子供あるある·大きすぎる数字
:【悲報】ワイ以外の登録者、全員てと様のリア友w
何で他人の配信でこんなにぼっちボッチ言われなきゃいけないのよ。それにしても、終わってみればあっという間な配信だった。元々配信時間は他の人の配信より短めなのもあるけど、何て言うか…その…楽しかった…。リクエストの後はチゲ絵師を描いて終わった。
:キムチチゲ絵師w
:しっかり広い鍋のど真ん中でポツンと一人で他の具材を描かないのポイント高い
:「チゲ絵師」のフォント好き
これからも配信観よう。勿論サブ垢で。
これがウチが鳩になったキッカケ。その頃はてとリスナーに名前は無かったけど。え?てと様が早送り?してるわけ無いじゃん。毎日配信で、しかも一つの配信でウチなら10時間を越える作業のイラストを描いたりするときもあるんだよ?もし早送りだったとしても陰の努力を隠してるだけだからカッコいいと思う。まあ、この前オフコラボで実際に見たから疑うも何もないけどさ。
「これでも結構鳩してるんだよ?ウチだってさぁ、使い道の分からないアクリルスタンドとかポスターとか買ってさあ、どうやって使うんだよぉ。飾るだけ?飾るだけなの?でも良い、てと様にお金を払ってると思えば気が楽になる」
表で出さない。鳩なのは隠す。これだけは守ると定め、際限無く推し活をしている。同じ箱のライバーの凸待ちのときに「今、気になっているライバーは?」というデッキで熱く語ってしまって向こうが引いてた気がする。今思うと恥ずかしい。だからコラボだろうとオフコラボだろうと冷静でいるんだ、そう決めた。
そのせいで少し無愛想な人だとてとに思われているがそれをKOMUGIは知らない。
0:00に間に合わなかった。もともとこの話は本編のおまけで書こうと書き始めたので長くなりすぎたので途中変更しました。
時系列
キッカケのクリスマス(約二年前)→→→オフコラボ(数ヶ月前)→→春巻きコラボ配信(数週間前)→新人ちゃんの赤ちゃん配信→→今話