クソガキ絵師VTuberとCOOKINGの受付さん
リアルの話
「ねえ、あの二人って付き合ってるのかな?」
「ね?最近、距離近いよね~」
「前さぁ、◯◯君が可愛い可愛いって連呼してて、白谷さんも満更じゃなさそうだったし、完全に出来てるね」
「この前、白谷さんが??君のこと、ママって呼んでたけど何かのプレイかな?」
「二人だけの特別なあだ名とか?」
「センスがっ、www」
「てかさー、◯◯君っていつも隅っこに居るけど、顔は可愛いし、隠れ優良株だよねー」
「最初は意外と思ったけど、お似合いな二人だよね」
「??君って実は甘いものが好きなんだよ?幸せそうに食べるのが可愛くて、ちょっと狙ってたりして…」
「やめてよー、私は◯白カプ推しだから」
「えー、白◯カプでしょ」
「大丈夫、もう狙ってないってぇ」
ネットの話
《てと様と新人ちゃんって仲が良いよね》
《リアル知り合いっぽいしね》
《もしかして:彼女》
《彼女にあんな仕打ちするか?》
《するだろ…てと様なら》
《ほとんど職場見学とはいえ、赤ちゃんプレイには変わり無いからな》
《話題変えちゃうが、ちょっと良いか?》
《どうぞ》
《良いよ》
《今、たちつてと先生とてと様の設定とか自己紹介文とか見て廻ってたんだ》
《そしたら、二次創作不可って書いてあったんだが、みんな知ってたか?》
《え、だって普通にpixivとかTwitterで…》
《知らんかっま》
《誤字ってえうw》
《オマエモナー》
《この話題はそのうちてと様が触れるんだろうな》
―――前話の二ヶ月前
「本日はどのようなご用件でしょうか」
『こんにちは。ぼくはたちつてとという名前で活動しているイラストレーターです。本日はコラボということで呼ばれて来たのですが…』
「てと様ですか!?え、えっと、本人確認って出来ますかね?」
『YouTubeの管理画面とかになりますかね…』
「あ、あの、絵を…!描いて、頂けませんか!私、鳩なんです!!」
『良いですよ。ペンと紙を貰えますか?』
「ペンはこちらを。最近、インクが切れて新しいの買ったんですよ。紙は…確か鞄の中に有名人に会ったとき用に常備してるサイン色紙が…」
今日はオフコラボの収録だ。COOKING本社のスタジオでとのことなのでやってきた。交通費は別で出ると聞いたので、使えるだけ使ってきた。
ここ、COOKING本社は白い床、白い柱に、所々蛍光色のタイルでカラフルに彩られている(COOKING意識なのか食欲減退色は無い)。デザインセンス良いな~と思うと同時に、白すぎて汚したいという気持ちが湧いてくる。そして!今!ぼくの手には油性ペンが!!やるっきゃないっしょ!足は壁に向かって走り出していた。
「あ、ありました!ってあれ?どこ行ったんですか!!」
どうせなら目立つ場所に…、入って真正面はやだな。出入り口の横。ここなら出るときに確実に目に入る。構図はどうしようかな…。ぼくが来たことをアピールしたいから『俺、参上!』で良いか…。目立つように大きく描こう!等身大(てとの設定身長)で…。ぼくは構図を決め、ペンの細の方の蓋を取り、反対側に嵌め込む。今回は一発勝負的なところがあるので、当は付けない。自分に『俺は天才イラストレーターだよ?失敗なんかするわけないじゃ~ん』と言い聞かせ、筆を入れる。目測量で123.4cmを測り、膝を曲げ、腰を落とすことを考え、記憶の壁に目安を赤色でメモしておく。後は想像した構図を目安を元にサイズを調整し、なぞっていく。
「み、つけ、ました~」
『遅かったね。分かりやすい所に居たと思うんだけど』
「てか、何してるんですか!!」
『無駄に綺麗で白い壁があったからラクガキしたくなって…しゅん』
「かわわ…じゃない!配信観てるから多少耐性があるとはいえ、この癒力。私じゃなかったら危なかったぜ…」
『あと、40秒くらいなんで待って貰えます?』
「解りましたー、じゃないんですって!本人確認は良いから通せって上から言われたので、来てください!一度、社員カフェで顔合わせするので案内します!てか、はっや!ガチてと様だ。てと様が現実におる…」
『俺はここだよ。この会社、カフェまで有るんだ。おっきいもんな~』
この間もずっと手は止めない。なんなら振り返ってすらいない。描き慣れたデフォルト衣装、比較的単純なポーズ、151種類あるぼくのドヤ顔フォルダのNo.82。指定した40秒まで残り8秒、一通りは描けた…けど、くっ、ぼくとしたことが締め切りの延長をしなければならない日が来ようとは。
『もう全員揃ってるんですか?』
「…KOMUGIさんが、まだ、ですねぇ」
『KOMUGIってここの所属ですよね?』
「その筈なんですけどねぇ…」
『じゃあ、時間ありますね♡』
「え…」
ぼくはペンを細から極細に変え、左手で右手を固定し、細かく振動しながらチョンチョン点を付けていく。色が濃いところ程、密度を高くする。
「今は何してるんですか?」
『漫画でいうトーンというものを手動で再現しています』
「それって大変じゃありません?」
『誰も俺に普通を求めてませんよ。受付さんや事務職はマニュアル通りの仕事が求められるんでしょうが、絵師にはマニュアルなんて無いですからね。どこから描こうと、何を描こうと、何で描こうと、どうやって描こうと枠内なら自由と言うのなら、その枠にも絵を描く。それが俺のスタイルです』
ペンのインクが無くなることを想定して、濃いところから描いていく。濃いところは出来るだけ敷き詰めるので間隔などは気にしない。黒い髪、黒い服、紫色の翼、青い瞳、銀色のツノ、色白の肌と順に点を打っていく。余談だが、黒髪の悪魔っ子は珍しかったりする。普通の絵師は悪魔っぽさをツノや翼で表現しようと黒色や紫などにする。それを目立たせる為に髪は白や銀、明るい色で塗る。勿論、絵に正解は無いし、黒髪悪魔っ子も全然存在する。配色も絵師の自由だとは思う。でも、流石に黒ツノ黒髪黒服黒翼は無い。あのイラストレーターまだ仕事貰ってるのかな?絵は上手いけど絵の勉強はしてなさそうだったんだよなぁ。もう辞めてそうだなぁ。
「速いし、凄いなぁ。たまにある、漫画でコマを突き抜けて、大きく強調されたキャラクターみたい」
『後は「俺、参上!」って描いて終わりにするか。「俺」ってどういう漢字だっけ?平仮名で良いか…』
ペンを細に戻し、「おれ、参上!」って書こうとしたがインクが無くなったので、「おれ」で止めた。
『よし、行きますか』
「ル◯ィのサインみたいになってますよ!ここで終わりですか!?これだけ描いて!?」
『あ、そうそう受付さん、貴女、受付向いてないんじゃない?初っ端から敬語解けかけてたし。ノリが結構仲が良い専属マネージャーくらいの距離感ですよ?』
ウチは怪しいコートなどを着てエントランスの椅子に座るのが好きだ。趣味:人間観察。別にボッチじゃないよ?コメ欄では度々ネタにされるけど。
そんなことを繰り返してたら、会社も慣れるわけで。見付かるようになって、私は考えた。一番多いスーツになれば見付からないんじゃないか。と。
で、思い立って最初の実行日として選んだのが今日!コラボ日なので遅刻厳禁な筈!こんな日に見付からないでどれだけ耐久出来るか…、これは自分のメンタルと運営の捜索能力による闘いだ。我ながらおかしなことをしている自覚はある。そして、一人また一人とコラボ相手が通っていくのをチラッと確認する。しかし、時間になっても来ないのだ。誰かって?そりゃ勿論、生意気VTuber、達津てと。事故でも遭ったのか?と心の中で心配していること約五分。堂々とやってきた。全く悪びれる様子もなく受付に直進。
彼?の奇行はこれだけに収まらなかった。受付と話し、中に案内されるだけの筈なのに、何故か受付にペンを貰い、彼?は出口に一直線に走った。と思いきや、なんの躊躇いなく壁に絵を描き始めた。
「速度えげつな…」
思わずそう呟く程に。受付の人が気付き、駆け寄っていく。ウチは聞き耳を立ててじっとした。その時に知らないおじさんと目が合ったけど、お互い苦笑いして、てとの方に視線を向けた。
「み、つけ、ました~」
『遅かったね。分かりやすい所に居たと思うんだけど』
「てか、何してるんですか!!」
『無駄に綺麗で白い壁があったからラクガキしたくなって…しゅん』
「かわわ…じゃない!配信観てるから多少耐性があるとはいえ、この癒力。私じゃなかったら危なかったぜ…」
『あと、40秒くらいなんで待って貰えます?』
「解りましたー、じゃないんですって!本人確認は良いから通せって上から言われたので、来てください!一度、社員カフェで顔合わせするので案内します!てか、はっや!ガチてと様だ。てと様が現実におる…
じゃねぇよ!壁に落書きすることについて触れろよ!この受付も大概におかしいな。上に報告しようかな。てとリスってみんなこうなのか?彼?の奇行についてはウチは理解に苦しむが、最後の言葉には全力で賛成した。
『あ、そうそう受付さん、貴女、受付向いてないんじゃない?』
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