6話 誘いの手紙 (前編)
そう言うとロアはペーパーナイフを用い、手紙を取り出す。しかし、いくら待てどロアは内容に目を走らせるばかりで、一向に声を発する気配はない。
「どうかしたのかい? 何か記載事項に問題でも?」
サフィラスの問い掛けに、リベラもロアの背後に回って覗き見る。そして彼女は、簡潔に真実を述べた。
「えっと――「サフィラスも参加してね」って書いてあるよ」
「……そうか、ならば誘いに乗ろう。明日の朝、“白百合の舞踏会”について教えて貰えるだろうか」
時計は既に23時を指しており、リベラは欠伸を手で隠す。ロアは手紙を折り畳むと、ポシェットから寝顔を覗かせるネーヴェを一瞥した。
「分かったわ。 ――そうそう、晩ごはんありがとね。明日の朝は期待しといて頂戴?」
微笑むロアは、すっかり普段の様子を取り戻していた。
そして翌朝。爽やかな日差しを受けながら、彼らは活力を得る。テーブルに並ぶのは、ホテルに勤めるコックが調理した、王道ながらも手の込んだ朝食。
オムレツとサラダ、焼き立てのパンにフルーツヨーグルトと彩り豊かな品揃えに、リベラは手を止めることなく食べ進めていく。
「ん〜、美味しい! このオムレツ、デミグラスソースが中に入ってるんだ!」
「ね! “秘密のオムレツ”って書いてあるから、何かと思ったけど……切ってから分かるワクワク感がたまらないわ!」
2人が談笑する傍らでは、ネーヴェも一生懸命に口を動かし、その小さな身体にオムレツを詰め込んでいる。しかし一方でサフィラスは、カトラリーを動かすことなく思案に耽っていた。
『市場での老婆といい、尾行していた彼女といい、仮面が効力を発揮していないのは何故なんだ? 事実、複数の店に立ち寄ったが、皆リベラしか認識していなかった。 ……あの二人は、此方の情報を知り得ているのだろうか。だとすれば、出処は一体――』
仮説に辿り着く直前にリベラ達の視線を感じ、サフィラスは温くなったオムレツを胃の中に片付ける。
やがてテーブルの上がティーカップのみになると、雑談は本題に変わる。朝食と共に運ばれてきた、2通目の緑蝋の付いた封筒。サフィラスは1通目と合わせて目を通すと、端的に所感を述べた。
「……随分と一方的だね。これでは選択肢など、端から無いも同然だ」
1通目に書かれていた内容は、要約すると以下の通りだった。
《みな、よく来てくれたね。話はディオス村長から聞いているよ。なんでも、世界中を旅して回っているそうじゃないか。興味深いから、ぜひ一度ボクと会ってもらいたい。国で最も高級なホテルに泊まらせてあげたんだ、それくらい安いものだろ? という訳で、全員分の衣装を送っておく。当日を楽しみにしているよ》
そして2通目に書かれていた内容は、舞踏会の説明だった。開催日時や場所、ドレスコード等、欠けていたメインの情報が補われている。
2通目にも目を通したロアは、溜め息と共に頬杖をついた。
「何というか、ディオス村長を思い出すわね。類友なのかしら……」
「とはいえ、好都合でもある。人脈を拡張すれば、今後の旅もより円滑になるだろうからね」
「ふふっ。気付いたら、顔パスで国を行き来できるくらいの地位に居たりして。 ――さて、昨夜の続き“白百合の舞踏会”について、知ってる範囲内で説明させてもらうわ」
ロアはテーブルの上にはめ込まれた端末を取り出すと、空間に映像を映し出す。手を取り合い踊る人々は、目元こそ仮面で覆われているが、誰もが唇に微笑みをたたえていた。
「“白百合の舞踏会”は、性別も身分も国籍も、全てを仮面で隠して楽しむダンスパーティーよ。人気が高くて、毎回チケットが取り合いになるほどなの。では、何故人気なのか? 理由は開催元がハッキリとしている上に、毎回必ず1組、運命の出逢いを果たしているからなの」
リベラは華やかな衣装に身を包む老若男女に、興奮気味に質問する。
「昨日のお話みたいなことが起きてるの?」
「ええ。だから純粋にパーティーを楽しみたい人と、運命の人を目当てに来る人と二分されてる感じね」
「運命の人……」
しかしサフィラスは、懐疑心を露わにする。
「であれば、何故我々は招待されたのだろう。冒険譚を語るには適さない場である事くらい、流石に理解している筈だ。 ……因みに、この舞踏会には王も参加しているのかい?」
「う〜ん……アタシにも分からないわ。けど主催者の子である以上、何らかのチェックはしていてもおかしくないわね。この手紙の送り主ーー王子様はまだ独身らしいし」
ロアは端末の電源を切ると、再びテーブルに押し込む。そして壁に掛けられた時計を確認し、次いで窓を一瞥した。
「……さて、と。開催まで少し時間もあるし、街を観光しに行かない?」
観光の2文字に、リベラは期待を言葉にする。
「どこに行くの? もしかして、昨日話してた絵本のたくさんあるところ?」
「当たり! 目指すはアラカ図書館よ!」
そうして彼らはネーヴェをポシェットに隠し、市街の中央に建設された図書館に辿り着く。遠方からでも目に留まる高さであったため、緑帽隊の手を借りることはなかった。




