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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
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56話 想いは年月を経て (後編)

 ロアたちは、揃ってテーブルを端に寄せ、部屋の中央に椅子を並べていく。一列目は床にそのまま、しかして二列目は、何処からともなく運ばれてきた台の上に。いずれも万が一のことが起きぬよう、一脚一脚丁寧に固定していった。


 暇そうに佇む花瓶を台の両脇に置き、先端に撮影機のついた三脚を、それらと向き合うように設置する。デュゼリアがレンズを覗き込むと、彼女の瞳には、まるで舞台の終幕を飾るワンシーンのような光景が映った。


 そう――リベラが提案したのは、“記念撮影”だった。



 意外にも、席はスムーズに決まった。国王と王妃を中心に、その後ろを年上組、両隣を年下組が腰掛ける。彼ら7人を収めようとロアが奮闘する最中、国王は王妃に笑顔を向ける。


「えへへ、家族全員で写真とかどのくらいぶりかな」

「確か、ナグレインがまだ10歳の頃だから……。もう10年以上前になるかしら」

「えっ!? そんなに!? た、大変だ……もっとオシャレしておけばよかった」

「たまには飾らない家族写真も良いんじゃない? ありのままのあなたを手もとに残しておけるなんて、私嬉しい」

「! し、シュラピュテがそう言うなら……」


 堂々と二人の世界に入ろうとする両親に、ミラキュリアとナグレインは気まずそうに目を泳がせる。しかしネクフィスとデュゼリアがちょっかいを出すと、すぐに普段通りに戻った。



 一方でエーテスは、自身の隣に一台の機械を置く。それはホテルにも携帯していた、エリン専用の端末だった。彼女がカタカタと音をたてていると、違和感に気付いた王妃が振り返る。


「エーテス? どうかしたの?」

「ああ。コイツも仲間に入れないとなって」


 首をかしげる王妃。その視線の先には、間もなくエリンが浮かび上がった。王妃が目を見張ると、エリンは申し訳なさそうに目を伏せる。


《……マスター、エリンハ生命体デハアリマセン。タダノAIデス。肉体モ無ケレバ、感情モ存在シマセン。貴重ナ撮影スペースヲ奪ッテシマイマスノデ、ログアウトヲ推奨シマス》

「そんなの関係ない。機械だろうが植物だろうが、撮りたいものと撮るのがボクのポリシーだ。それに……今まで最も寄り添ってくれたのは、他でもないお前だ。だから、その――」

《マスター……!》

「〜〜ああクソッ! いいからさっさと正面向け!」


 乱暴に腕を組む彼女の耳は、真っ赤に染まっていた。するとネクフィスは、口もとに手をあてて微笑む。


「ふふっ、本当に素直ではありませんね」

「ふん、お前だって似たようなもんだろ」

「おや。でしたらその汚名、今この場で返上させていただきましょう」

「はあ? ――って、おい馬鹿! 無闇矢鱈に接触するな! セクハラで訴えるぞ!!」


 そんな調子でウルイヤ一家が戯れていると、ロアが控えめに手を挙げる。


「その――皆さま、撮影準備ができました。お顔をこちらにお願いします」


 だがいざ目を向けられると、彼はぎこちない笑顔を見せた。するとミラキュリアは、ウサギのぬいぐるみを持ち上げ操り出す。


「も〜、今更そんなかしこまんなくてもいーのに。はーい、みんなくっついて〜。じゃないと顔見切れちゃうんだからね~」

「うん。ミラ姉さま」

「きゃっ! ちょ、デュゼってばくっつき過ぎ! ウーサが潰れちゃうからー!」


 彼女らを真似し、エーテスに肩を寄せるネクフィス。ナグレインは眉間にシワを寄せたが、ロアの掛け声で表情を切り替える。そうして撮影機には、仲睦まじい家族のワンシーンが写った。



 かくしてサフィラスたちは、薄暗い城の地下を移動する。他愛もない雑談をしながら歩を進め――やがてタイルの床が橋に変わり、人工の壁が岩肌に変わった頃。彼らの視界は、突如として眩い光に覆われた。


 ゆっくりと(まぶた)を開けると、陽の光が差し込む洞窟が目に映る。だがそれよりも彼らを驚愕させたのは、悠々と水面を揺蕩う一隻の巨大な船だった。両サイドに砲台を潜めた船体、たたまれた真っ白な帆。まるで新品のような輝きを放つそれは、ゴツゴツとした岩壁に守られ出番を待っていた。


 リベラはネーヴェとともにはしゃぎ、サフィラスは腕を組んだまま佇む。一方でロアやメネレテが困惑していると、国王は照れくさそうに頬を掻く。


「えへへ、かっこいいでしょ? 昔に流行った、ノランシェ号をモデルにしてるんだ」

「え、ええ。たしかに素敵です。ですが、何故私たちをこちらに案内してくださったのですか?」

「うん。良かったら、これをもらってほしいなって」

「!?」


 あっけらかんと言ってのける国王。対してロアはあんぐりと口を開けるが、それもそのはず。旅客船規模の船を持てる者など、一握りの貴族か王族だけだからだ。しかしメネレテは首を大きく振ると、貼り付いた笑顔で返答する。


「その――お気持ちは大変嬉しいのですが、いただくにはあまりにも大きすぎます!」

「そうかな? これでも1/20のスケールなんだけど……」

「い、いえ、そう言う意味では……」


 メネレテは言葉を詰まらせたが、代わりにサフィラスが疑問を投げかける。


「近隣で、海を経由しなければ行けない国はあるかい?」

「うん。途中には孤島の村もあるし、持ってて損はないと思うんだ。使わないときには連絡をくれれば回収するよ。でも、その……いらなかったら、別の方法で案内するから安心してね」


 気まずさに耐えられず、泳ぐ視線。不器用なアプローチに国王がはにかんでいると、サフィラスはため息混じりに答える。


「……いいや、受け取ることにするよ。リベラたちも惹かれているようだからね」

「ほんと!? え、えへへ……用意しておいてよかった。――それとね、きみ個人へのプレゼントがあるんだ」


 王妃に見守られる中、国王は手のひらサイズの箱をサフィラスに差し出す。


「えっと、その……本当にごめんなさい。昨日、どうしたら償えるかずっと考えてたんだ。でも……色々考えたけど、ボクに贈れるのはこれしかなかった」

「――。この場で確認してもいいかい?」

「も、もちろん!」


 サフィラスはリボンを解き、蓋を開ける。その中には緩衝材が敷かれており、粒揃いの宝石たちが等間隔に眠っていた。淡い橙色を纏うミツアゲートや、目が醒めるほどに濃い青を放つトバリサファイア等。しかしサフィラスが沈黙していると、国王は不安そうに眉尻を下げる。


「えっと……。も、もしいらなかったら、売ってお金にして」

「いいや、全て手もとに置いておくよ。これだけ良質の石は、滅多に入手できないからね」

「……!」


 サフィラスが僅かに目を細めると、国王の声は上擦る。


「う、うん! えへへ、こっちも喜んでもらえて良かった!」

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