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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
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50話 掉尾の勇は神品を降ろす (中編)

 ここは、緑帽隊率いる野営地。国壁を背に眠れぬ夜を過ごす国民たちは、怪物の咆哮に頬を叩かれる。


「お、おい……! 何だあれは!!」

「ねえパパ、あれって図鑑で見た恐竜?」

「んー? 知らねえけど、野鳥か何かだろ」


 地瀝を蹴る者、夜空を翔ぶ者、大河を渡る者。最初はみなテント内で楽観視していたものの、怪物たちが接近するにつれ、徐々に不安が伝播し始める。すると耐えかねた女二人組が、出入り口に立つ緑帽隊を問い詰める。


「ちょっと、この国はどうなっちゃうの!?」

「そうよそうよ! 何が起きてるのか、いい加減説明して!」

「皆さん落ち着いて! 事情は必ず後日お伝えしますから、今はご自身の安全の確保に徹してください!」


 混乱する国民を背後に、その他の緑帽隊は、迫りくる怪物を長銃で出迎える。彼らの視界の範囲内では、大地からは四足歩行の獣が突進し、空からは鉤爪をギラつかせた鳥が飛来していた。


「怯むな! 陣形を乱さず殲滅するのだ!!」

「はい!」


 ルーキーもベテランもないまぜになった、数多の少数部隊。使用する武器も多岐にわたり、ある者は槍を振り回して牽制し、またある者は投網で獣を拘束する。その統率力は見事なもので、一枚岩となり怪物をみるみるうちになぎ倒していった。


 しかし怪物も馬鹿ではない。あるルーキーの銃弾をひらりとかわした怪鳥が、武器を持たぬ民に飛びかかる。


「うわあああっ!」

「っ、この――!」


 すぐさまルーキーが銃口を向けるも、照準の先の男に、引き金にかけた指が硬直する。……“計画通り”。そう言わんばかりに初音を鳴らす快鳥の爪が、男の頭上で大きく弧を描く。――はずだった。


「――ムーンサルトキック!」


 男が目をつぶった瞬間。怪鳥の背後から、一閃の青い稲妻が走った。直後、絹を割くような怪鳥の断末魔が聞こえる。


「ギャァァァア!」


 羽ばたく音は落下の音をもって止み、この場だけ切り離されたような静寂が訪れる。


「……? 何が起きて……」


 男が恐る恐る目を開くと、青髪を二つに結んだ少女が前に立っていた。ボロボロに裾が千切れたドレスを着ているが、足を覆うローラーシューズは、新品同然に輝いている。


「おい、無事か!」


 騒ぎを聞きつけたベテランが駆け寄るが、男は構わず華奢な背中に声をかける。


「あの、あなたは……!」

「へーき?」

「は、はい!」

「おっけー、ならよかった。まだ来るっぽいから、最後まで油断しないようにね〜」



 ミラキュリアは振り向きざまに手を振ると、金属製のやぐらの階段をのぼる。道中は見張りと指示役、護衛役の数人しかすれ違わず、挨拶もほどほどにてっぺんに到着した。壁に設置された画面には、地上の様子が映し出されている。


「う〜ん、結構ギリギリの戦いっぽい……?」


 国は森に囲まれているため、視界がどうしても制限される。それは怪物側も同じではあるが、攻めに徹している分有利なのだろう。国民が一箇所にまとまっていて護りやすいことが、不幸中の幸いだった。


 彼女は周囲をぐるっとひと回り見ると、緑帽隊の一人からマイクを借りて胸元に挿す。そうして軽く咳払いし、背筋を伸ばして微笑みをたたえた。


「あーあー、マイクテストマイクテスト〜」


 すると声が届いたらしく、下からは男の不満げな反応が返ってくる。


「チッ、誰だ? こんな時に騒ごうとしてるヤツは――、って」

「はいはーい、みんなちゅうもーく! あたしのことを知らない人はいないよね? だから自己紹介なんかしないで、ササッと本題に入らせてもらうよ~」


 彼女にもカリスマ性があるのか、はたまた未確認の音に警戒しているのか。怪物たちはみな攻撃を止め、その場で大人しくなる。一方で目が点になっている国民らをよそに、ミラキュリアはアイドルを演じる。


「民ちゃんたちには、今からかくれんぼをしてもらうよ〜! 制限時間は一時間! その間にモンスターに見つからなかったら、全員に何でも欲しいものプレゼントしちゃうよ~!」

「はあ? こんな時にかくれんぼ……って、えっ!? ホントに何でもくれるのか!?」

「そ! あーでも、もちろん限度はあるからその辺は考えてほしいかな〜?」

「よ……よし! オレやるよ! 最後まで生き残ってみせる!」


 単純な男がやる気を見せる中、今度は荒れた髪の女が冷や水を浴びせる。


「はあ? プレゼントったって、その金はどっから出てくんのさ」

「それは――」

「どうせ、あたしらから毟り取った金だろ? よくもまあ自分のモノみたいに言えるねえ。毎日好き勝手贅沢してマヒしちまったのかい?」

「あ――、あたしは違うもん。別に遊んでばっかじゃ――」

「じゃあその高そうな服は何なのさ! こちとら明日の食い扶持すら分かんないんだよ!」


 睨む彼女は、毛玉だらけの服で画面に詰め寄る。ミラキュリアがたじろぐと、遠くに立つ別の女も非難の指を向ける。


「そうよそうよ! 大体、こうなったのもあなた達のせいじゃなくって!?」

「静粛に! それ以上の暴言は不敬罪とみなしますよ!」


 見かねた緑帽隊が槍を構えるも、ミラキュリアは瞬時にそれを制する。


「待って! ……もう少しだけ、話させて」

「ミラキュリア王女……」

「……たしかにあたしは、あんたたちからもらったお金を使ってる。でも、ただ使ってるだけじゃない。それを元手にして、自分たちが使う分は自分たちで稼いでる。稼いで余った分は、いつかあんたたちに返せるように貯金だってしてる」


 口をついて出るは、止まらぬ愚痴。その切実さにいつしか反論の声は鳴り止み、ただ彼女の心境だけが森にこだまする。


「……それでも文句があるっていうなら、代わってよ。あたしだって、フツーに生きてみたかった。将来どんな仕事しようかなってユメ見たり、おこづかいもって好きなもの買ったり。同い年の子の家に遊びに行って、お菓子食べながら恋バナしたり。友だちとイミわかんないことでケンカして、けどすぐ仲直りして。……ここじゃ話しきれないくらい、色んな思い出が欲しかったんだから」


 溜まり始めた涙に、唇を噛み締めてうつむく。そのまま床を濡らしていると、老年の男性が彼女の傍らに跪いた。


「顔を上げてくだされ、ミラキュリア王女」

「! ……じいや、どうしてここに」


 色褪せた青髪の男性は、ふっと笑みを浮かべ立ち上がり、舞踏会の時と同じタキシード姿で民衆に向き合う。


「まずは皆さま。この度は夜分遅くに避難にご協力いただき、心より感謝を申し上げます。おかげさまで、誰ひとりとして欠けることなくお顔を見ることができました」


 ミラキュリアは呆然とみつめる。穏やかながらも威厳のある立ち振る舞いは、まさしく若き日のゲルディナ国王そのものだった。


「ですが、あとひとつだけ。不躾ではありますが、わたくしからお願いごとがございます。……どうか今だけは、ミラキュリア王女のお言葉に耳を傾けていただけませぬか」

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