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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
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48話 自己犠牲は美徳となるか (後編)

 サフィラスは仮面越しに、デュゼリアと目を合わせる。


「……瞳を収集する、か。その口振りだと、他の()()()もいそうだね」

「うん。家族にも瞳がきれいなひとがいたから、ひとつもらった」

「それは――隣の彼かい?」


 無言で頷くデュゼリア。加えて自然と集まる視線に、ネクフィスはにっこりと口角を上げる。


「ふふ、そういうことです。取引とはいえ、体の一部を奪われるとは思いもよりませんでしたが」


 そう言うとネクフィスは、焦らすようにゆっくりと両目を開く。一見すると、左右にはローズクォーツにも劣らない美しい瞳が並んでいる。しかしよく見ると、右目には無機質な義眼がはめられていた。


「どうでしょう。人工の瞳とはいえ、中々美しい仕上がりになっていると思いませんか?」


 ようやく明かされた、頑なに眼を隠していた理由。四者四様の反応を示す中、真っ先に驚愕の声を漏らしたのはナグレインだった。


「な――貴様……っ! 正気なのか!?」

「ええ、正気ですよ。何せ、国を護るために必要な布石として差し出したのですから」

「国を護る……だと? この惨状で、よくそんなことを抜かせたな」

「そちらに関しては、僕も良心が痛みました。無辜の国民を蔑ろにし、彼らが築き上げたものを破壊したのですから。……しかしナグレイン。貴方はひた隠された事情を知らない。僕が強行策を取らざるを得なかった、某国の詐術を」


 諭すように。あるいは挑発するように陳述する彼に、ナグレインはムッと目尻を釣り上げる。するとネクフィスは、「困りましたね」とでも言いたげに自身の顎に手を当てる。


「では鈍感な貴方に、“鍵”をお渡ししましょう。この国の研究所は、どういう経緯で作られましたか?」

「……ルベール国が、我が国の頭脳に目をつけた。“研究費を全て負担する。その対価として、成果を逐一報告すること”とのたまってな。我らが父、ゲルディナ国王はそれを受諾し、30年ほど前に研究所が建てられたはずだ」

「ふふ、正解です。では次の“鍵”です。……4人の母君の相次ぐ不審死。貴方は死因を調査したはずですが、詳細は何処まで把握していますか?」

「それは――」


 これまで流暢に答えていたナグレインは、はたと言葉を詰まらせる。泳ぐ視線。その様は台本を失った役者を彷彿とさせ、ネクフィスは苦笑をひとつこぼす。


「……ナグレイン。貴方は真面目すぎたのです。為政者でありながら、権威に染まるのを良しとしない」

「だったら何だ。背任行為をするよう(そそのか)すつもりか?」

「いえいえ、むしろその逆。貴方には、最後まで義を貫き通していただきたいのです」

「……どういうことだ」

「“必要悪”というものをご存知ですか? 早い話、僕はナグレインの代わりに“悪鬼”になったのです。そう――友人のために罪を負った、昔話の鬼のように」


 結末を語ることはせず、ネクフィスは寂しげに目を細める。



 代わりにナグレインは“ひとつ屋根の下、寝食も苦楽も共にしたふたりの鬼の物語”を思い起こす。



 人里から少し離れた位置に暮らす、ふたりの鬼。彼らは最初こそ怖がられたが、人助けを重ねるにつれ、次第に信頼は厚くなっていった。


 だが、それを良く思わない者がいた。わざと人々を困らせ、窮地に陥る寸前で手を差し伸べようとした者である。困難を幾度降らせど、鬼に祓われる。遂に痺れを切らしたソレは、事もあろうに“全ての災いは鬼の仕業だ。奴らはお前達を洗脳すべく、自作自演をしているのだ!”と触れ回った。


 するとどうだろう。今まで開いていた門は、ひとつ残らず錠が掛けられた。人を救ったはずが、人から迫害を受けてしまったのだ。無実を主張する手段すら失われた鬼たち。だが片方の鬼は、現状を打壊できる策があった。


 ――それは“自分が首謀者であり、もうひとりの鬼を利用していた単独犯である”と、吹聴を上書きすることだった。


 翌日。提案した鬼は強行し、晴れて()()()()()()()が訪れた。嘘を撒き散らしたソレと、ひとりの悪鬼。たったふたりの犠牲で。



 我に返ったナグレインは、爪が食い込むほど拳を握る。そして、物語を知らぬ傍観者に聞こえるように声を張る。


「……つまり、お前が担わなければ俺が()()()()()()というのか?」

「ええ。何故そう断言できるのかを含めて、話を続けましょうか。それとも、この際僕を蔦とともに葬ります? 勿論、遺書は既に自室に置いてありますよ」


 ひりついた空気から一変して、広場には同情にも似た困惑が漂う。しかしそれを打ち壊したのは、開扉の音とともに響き渡った、情けない獅子の声だった。


「――ま、待って!」


 一同が振り向いた先には、国王がひとり――ではなく、今にも倒れそうなほどに衰弱した女性の姿があった。車輪のついた椅子に座る彼女は膝にブランケットを掛けているが、顔面は青白く生気がない。そして白い花が咲く青髪は胸の位置まで伸び、まるで幽霊のように痩せ細った身体にまとわりついていた。


 必死な形相の国王は、彼女に寄り添いながらネクフィスに訴える。


「ぼ、ぼくから話をさせて! これ以上、いらない争いを増やしたくないんだ!」

「おや、父上ではないですか。王妃もさることながら、自ら渦中に足を踏み入れるとはどういう了見でしょう。いくら口約束といえど、()()()()を違うのはいかがなものかと」

「えっと……口約束って、何のこと? ぼく、あんまり物覚えが良くなくって。だからいつも大事な話は書面に書き残してること、ネクフィスは知ってるでしょ?」


 傍から聞けば、あからさまな脅し文句。ところが国王は、不思議そうに首をかしげた。ネクフィスは目を丸くするも、フッと短く笑う。


「おやおや、これは一本とられましたね。ではその聡明さに免じて、お望み通り会話の主導権をお渡ししましょう。シュラピュテ王妃、こちらまでお越しいただけますか?」


 ネクフィスが手を床に示すと、女性は椅子を広場の中央まで前進させる。その速度は蝸牛の如く緩やかだったが、誰一人として急かす者はおらず、ただ無事に着くよう見守っていた。


 やがてネクフィスの真正面に椅子を停めると、彼女は軽く握った手を胸に当てながら、ゆっくりと口を開く。


「ネクフィス……。あなたはいつまで、()()()()()()()()を続けるつもり?」

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