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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
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39話 秘し隠されし心は披瀝に解ける (後編)

『よし……! 興味をもってくれました』


 ナグレインの反応に確かな感触を覚え、メネレテは意を決して会話の主導権を握る。


「いえ……その前に、ひとつ質問をさせてください。ナグレイン王子は、“魂晶師”についてどこまでご存知ですか?」

「“人の目を欺きその姿を隠蔽する、既に絶滅した筈の種族”……人伝に聞いた程度だ。それ以上のことは知らん」

「お答えいただきありがとうございます。しかし生憎と、彼の力はそんな小さなものではありません」

「何だと?」

「魂晶師である彼の力――もとい術は、奇跡といっても過言ではありません。なにしろ医者が匙を投げた不治の病を治しただけでなく、大量に血を流した瀕死の者ですら、いともたやすく生還させてしまうのです。そう……彼の術をもってすれば、何人たりとも癒やすことのできなかった、王妃のお身体も回復するでしょう」


 するとメネレテは、視線を自身の腰に向ける。


「証拠はこちらにあります。ご不便をおかけいたしますが、どうか私の懐から手紙を取り出していただけないでしょうか」


 ナグレインは彼女のポケットから封筒を引き抜くと、その場で中身を黙読する。本来であればエーテスのみに宛てられた、ディオス村長の本心。彼は計3枚に渡る他愛のない内容を文末まで確認し終えると、メネレテを見据える。


「――成程。つまり貴様らはこの“真偽の証明”もって、俺に手を組めと言いたいのだな」


 メネレテが頷くと、ナグレインは静かに問いただす。


「そうか。だが――万が一、()()()()()に至ったとき。取り返しのつかない最悪の事態に陥った場合、貴様らはどう向き合い、どう償う?」

「はい。もし、王妃の身に大事があった時には……私たちは、自身の命をもって償います」


 淀みなく話す彼女に、ナグレインは無言で剣のグリップに手を掛ける。それでもメネレテは、鋼の決意を述べ続ける。


「しかしそれは到底つり合うものではないと、皆が存じております。……そう、失敗は最初から許されていない。賭けるものが大きすぎる。しかしそれを理解していてもなお、止められぬ想いが()()にはあるのです! ですからどうか、私たちに……エーテス王子にお力を貸していただけませんか!」

「貴様は何故、自身の身を賭してまで奴に助力する? たとえ善意によるものであろうと、俺がディオス村長を内政干渉と国王に告発する可能性は考慮すべきだ。何よりこの国や奴の胸中を語るには、あまりに寸時ではないか」

「はい。私はこの国に――エーテス王子に忠誠を誓ってから、まだひと月も経っていません。ですが、人を知ることに年月は関係ありません。……どれだけ長い間近くにいようと、歩み寄らなければ永遠に分かりあえないのは、ナグレイン王子はとうにご存知なのではないでしょうか」


 両者引けを取らず。するとナグレインはひと息の間に剣の切っ先をメネレテに向け、いつになく真剣な面持ちで回答を求める。


「……後悔しないか」

「え?」

「その選択に、一片の迷いも無いか?」

「はい。ありません」


 決して目を逸らさず、両者は膠着状態に陥る。しかし程なくしてナグレインは剣を鞘に収め、枷は勝手に外れる。


「……良かろう。だが僅かでも反抗の兆しが見えた場合には、ただちに貴様らを収監する。この条件を呑めるな?」

「――はい! ……っ、ありがとうございます!」


 メネレテが頭を膝につくほど下げると、上から微かに笑うような声が聞こえた。



 救護室でくつろぐリベラたちは、バスケット山盛りのお菓子たちの感想を伝えあっていた。薬品のにおいは甘い匂いにすっかり書き換えられ、ティーカップまで並ぶ今では、カフェのような小洒落た空間になっている。


 結局小一時間の間に話したことといえば、旅の思い出話や、好きな食べ物のこと、初恋の人や日頃の愚痴だけ。腹の探り合いになるかと思いきや、本当にただのお茶会のように過ごしていた。


 ロアが壁に掛けられた時計をこっそり確認する傍ら、リベラは真ん中にゼリーがのったクッキーを手に取る。


「えへへっ、2枚目とっちゃお! いろいろもらったけど、このお菓子が一番好きかも」

「でしょ! あたしのイチオシなんだ〜! まあ、これ全部さっきネク兄からもらったヤツなんだけどねー」


 少し不満げにチョコレートを開けるミラキュリアに、リベラは不思議そうに首を傾げる。


「ミラ様はネクお兄さんと仲良くないの?」

「んー、別にフツーかな。デュゼは?」

「わたしもミラ姉さまと同じ。きれいな瞳以外は、好きでも嫌いでもない。それに……何を考えてるか分からないから、怖くて近づけない」

「好きなお菓子くれるのに怖いの?」

「まー、キョーダイって言ってもほとんど他人みたいなもんだからね〜。あ、デュゼはホントの姉妹だと思ってるよ〜!」


 そう言うとミラキュリアはデュゼリアに抱きつく。その仲の良さに微笑ましく思いながらも、ロアは人知れず訝しむ。


『彼女の発言からして、やっぱりみんな完全な血の繋がりはないみたいね。だとすると、現王妃の実の子供は最年少のこの子なのかしら……』


 デュゼリアを横目で眺めていると、不意に彼女が振り向く。


「わたしの顔、何かついてる?」

「えっ!? い、いえそういうワケじゃ――」


 ロアが動揺すると、ミラキュリアはデュゼリアを一層強く抱きしめる。


「……まさか、あんたこそロリコンだったりする?」

「違うわよ! ただ……そうね、少し気になることがあって。けどレディーの顔をまじまじと見るだなんて失礼だったわ、ごめんなさいね」


 眉尻を下げる彼の謝罪に、ミラキュリアはようやく離れる。するとデュゼリアは、無表情を貫きながらも少し苦しそうに返事をする。


「……大丈夫、わたしは気にしてないから。もしかして、何か聞きたいことがあるの?」

「……ええ。けど、話しにくいプライベートに突っ込むつもりはないわ。――ほらほら、次はどのお菓子にする? 甘いもの続きだし、今度はしょっぱいものも良いかもしれないわ」


 そうガサガサとバスケットを漁り始めるロアだったが、ひとつ目を見つける前にデュゼリアに待ったをかけられる。


「……教えてあげてもいいよ」

「えっ、ホント?」

「うん。けどその前に、ロアに質問したいことがある」

「な……何かしら」


 あらたまって両手を揃える彼女に、ロアは思わず身構える。しかし彼女は、誰もが拍子抜けするような言葉を口にした。


「あなたの作る紅茶のこと、教えて?」

「……。――ふふっ」

「どうしたの?」

「いえ、ちょっと思い出し笑いをしちゃったわ。それくらいお安い御用だけど、止めてくれないと語り続けちゃうから覚悟してよね!」

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