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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
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3話 微睡みのトリックスター (後編)

 ディオス村長の手描きの地図には記載されていなかった、研究所と思しき建物。白い外観のソレだけは明確に壁で隔たれており、敷地内には人ひとり居ない。


『どうする……幸いにも、この国では未だ厄介事に巻き込まれていない。彼らが寝静まった後に、確かめるべきか』


 目蓋を閉じていると、背中にリベラの手が触れる。


「サフィラス、どうかしたの?」

「ああ、何でもないよ。それより、今後の動きについて話そう」

「……うん、分かった! ロアを呼んで来るね」


 リベラを見送ると、再び窓を見つめる。反射する彼女の背には、悲しみの色が宿っていた。



 少し時間は遡り、リベラがシャワールームから離れた後。ロアは、チャイムを鳴らすバトラーを迎えていた。


「こんにちは、ご歓談中に失礼します。早速ですが、ご依頼の品をお持ちしました」


 爽やかな笑顔で一礼する彼の隣には、身長と並ぶ高さの白銀のラゲッジカートが堂々と佇んでいる。


「ええ、ありがとう。荷運びはいいわ。ここに置いてくださる?」

「かしこまりました」


 バトラーはハンカチを介してドアストッパーを下げると、すかさず懐に提げた白銀の鍵で錠前を解く。そして鳥籠のようなカートの中から、濃紺の箱を3つ抱え下ろした。


「お待たせいたしました。こちらでお客様の品は全てでございます」

「お疲れさま。はい、どうぞ」


 ロアが銀貨を差し出すも、バトラーはやんわりと手で制する。


「ありがとうございます。ですが、そちらはお気持ちだけ頂戴します」

「ん? どういうこと?」

「既に貴方様のご両親から、頂いておりますから」

「……分かったわ。また何かあったらお願いするわね」

「かしこまりました。では、失礼いたします」


 一礼をしたバトラーがドアを閉めると、ロアはしゃがみ込んで頭を抱える。


「……勘弁してよね」


 箱の側面には、《親愛なる息子へ 両親より真心を籠めて》と書かれた封筒が、ひっそりと添付されていた。



 そしてようやく、時は現在に戻る。丸いテーブルを囲うように座る彼らは、地図を広げて今後の行動を決めようとしていた。

 サフィラスとリベラが会話する中、ロアはウェルカムドリンクを片手に、ぼんやりと空を眺めていた。


『……伝えるべきかしら。あの二人に、本当のことを』


 目線を下げると、都合良くリベラと目が合う。


「ごめんね、ロア。さっきのお風呂、やっぱり怖かった?」

「あ――いえ、平気よ。むしろ、前もって確認出来て良かったわ」

「ほんと?」

「ホントよホント。このホテル自体、昔から知ってて――あ、違うわ。えっと……とても有名な所だから、前に調べたことがあるのよ」

「そうなの?」

「ええ。イルミスって情報が沢山集まるから、その時に少し。確か、夜景の見えるレストランの料理が絶品らしいの。お値段は……お給料3日分くらいかしら」


 話すロアのグラスは、零れる寸前のところまで傾いており。リベラは立ち上がると、グラスに咄嗟に手を添える。


「わわっ……! ロア、具合悪いの?」

「そ、そんなことないわよ? っ……ほら!」


 ロアは人差し指で上がった口角を指すも、サフィラスにすぐさま言及される。


「それにしては、今日は随分と言葉遣いがたどたどしいね」

「いえ、その……そうね。慣れない長旅続きで疲れちゃったのかもしれないわ。二人とも、心配させちゃってごめんなさいね」

「であれば、今日は無理せず休むと良い」

「ええ、お願いするわ……リベラちゃん、案内出来なくてごめんなさいね。夕方には起きられると思うから、晩ごはんは一緒に食べましょ」


 ロアはグラスを置くと、よろめきながら自身の荷物のある部屋に消えた。リベラはついぞ減ることのなかったグラスをトレイに乗せると、僅かに開いたドアを見る。


「大丈夫かな……」

「自身の体調は、自身で調整する他ない。 ……とはいえ、限度があるのもまた事実。リベラ、新鮮な食材を見極めるのは得意かい?」

「うん! 任せて!」



 二人と一匹が向かった先は、大勢の客で賑わう市場だった。カウンターを連ねる販売員は皆、はち切れんばかりの笑顔で商品を渡しており、売買の声が途絶えることはない。

 魚や野菜、果物に肉、そして飲料と。品ごとに陳列される様は、まさにパッチワークのよう。リベラは背伸びをしながら、身近な商品に目を通していく。


「わあ……! 見たことない食べ物がたくさん!」

「目移りするのは構わないけれど、くれぐれも(はぐ)れないよう用心しておくれ」

「うん!」


 リベラはサフィラスの手を取ると、にっこりと笑みを浮かべる。


「えへへ、これで大丈夫だね」

「……そうだね。では、行こうか」


 サフィラスは仮面を正すと、雑踏を掻き分けた。



 店舗の大半を見て回り、出口目前まで進んだ頃。リベラの目に、1店の店が留まった。背中を丸めた老婆が営む、閑古鳥の鳴く店。しかしリベラは、サフィラスに笑顔で振り向いた。


「見て! あのリンゴ、つやつやで美味しそう! 最後にあのお店だけ寄っても良い?」

「ああ、構わないよ」

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