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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
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21話 時々刻々の行く末 (後編)

 翌日、彼らは再び花園へ向かう。しかし得られた情報は、既にロアの部屋には誰かが住んでいたということと、ウ・ライア村には特段変化がなかったということの二つのみ。奇しくも彼らが未踏の地は、臨時の改修工事のため封鎖されていた。



 違和感を覚えつつも花園の探索を切り上げ、彼らは市街に引き返す。軽く汗ばむ陽気の中、人々は談笑しながらテラスに座り食事をしている。


 しかし道中、メアリーは肩を落とすと、三人に沈んだ声で謝罪する。


「その……折角楽しみにされていたのに、ご案内出来ず申し訳ありません……」

「いやいや、いいのよ。メアリーちゃんのせいじゃないし、機材トラブルなら仕方ないわ」


 ロアがメアリーの肩に手を置くと、リベラはメアリーの前に回り込んで笑顔を見せる。


「うん、わたしも気にしてないよ。それよりも、メアリーと一緒にお出かけできるほうがうれしいな」

「リベラさん……!」


 メアリーが嬉々としてリベラの手を握ると、ネーヴェもポシェットからよじ登り身体ごと手を合わせる。


「ふふっ、ネーヴェもうれしいって」

「うう、ネーヴェさんまで……!」


 涙を浮かべた笑顔を見せながら、メアリーは冷静にネーヴェを俯瞰する。


『それにしても、この子の毛色……彼の髪によく似ている。瞳の色は違うものの、昨日の不自然な割り込みといい、彼に関係があるとしか思えない。今日こそ少しでも多くの情報を引き出して、彼女の機嫌を直さなければ――』


 傍らに立つサフィラスの髪をまじまじと見つめていると、やがて彼と目が合う。


「ネーヴェの正体が気に掛かっているという顔だね」

「!? いえ、ただ可愛らしい子だと思って。私、動物が好きなんですよね!」


 メアリーが咄嗟に手を離すと、バランスを崩したネーヴェがリベラの裾に掴まる。するとサフィラスは彼をポシェットに戻し、リベラに目配せをする。


「ふふ、白々しい演技も疲れるだろう。双方の早期決着のためにも、私と取り引きをしないかい?」

「――生憎ですが、それはお受け致しかねます。公人として、賄賂は一切容認できませんので」

「おや、昨日はあれだけ強気だったというのに。何か心境の変化でもあったのかな。さながら――」


 サフィラスは歩み寄ると、メアリーの首に掛けられた端末を見据える。


「……この会話を第三者に盗聴されていて、事と次第によっては自身の立場が危うくなる。それを回避するべく、必死に笑顔を取り繕っているように見えるね」

「! ……何のことでしょうか。私は緑帽隊の中のひとりです。連携のためにも、他の隊員と常に連絡を取り合うのは当たり前だと思うのですが」

「その割には、声が震えているように感じるけれど。まあ、それに関してはどうでもいいんだ。私は――」

「しつこい方ですね。あなたに渡す情報なんてありません」


 メアリーがその場を離れようとするも、サフィラスは平静に会話を続ける。


「無論、リスクに応じた報酬は用意してある。キミの切なる願いを、ひとつ叶えてあげよう」

「……は?」


 突拍子もない言葉に、メアリーは目を白黒させる。しかしすぐさま、普段の調子で冷たく言い放つ。


「あなた、とうとう気でも触れたんですか? おとぎ話じゃありませんし、真面目な顔して馬鹿みたいなことを言わないほうがいいですよ」

「――キミはどうやら、人里離れた僻地で幼子を幾人も養っているらしいね」

「どう、して、それを……」


 サフィラスは胸元に下げた宝石を摘むと、自身の顔の近くへ持ち上げる。


「対価は私が創る宝石だ。その価値は、一国の王が跪き懇願する程と言われている。ひと粒でも所持していれば、キミを含めたすべての子供達が、生涯悠々自適な生活を送れるだろうね」

「――」

「信頼を得るためにも、これはキミに返そう。 ――では、色よい返事を待っているよ」


 サフィラスはナイフをメアリーの手に置くと、リベラたちのもとに踵を返す。一方でメアリーは暫く絶句していたが、我に返るとナイフを抱きしめる。


『ああ、無事で良かった……! 国中探しても見つからないと思ったら、彼が持っていたなんて』


 最後に頬ずりをするとリュックに仕舞い、サフィラスの言葉を反芻する。


『それにしても、王ですら跪くほどの価値がある宝石って一体……? 理解できない上に、仮に彼と取り引きをしたところで、本当にそんなものが貰えるとは思えない。だからリスクを考えれば、現状を維持したほうが圧倒的にいい。でも――』


 メアリーはリベラたちを一瞥すると、「少し席を外します」と会釈し路地裏に入る。そして周囲を見渡した後、端末を口元に近づける。


「お忙しいところ恐れ入ります。こちらメアリー、エリンさんのマスターに繋いでいただけますか」

《――声紋、本人ニ相違無シ。承知シマシタ、少々オ待チ下サイ》


 端末越しにエリンの淡々とした声が聞こえたかと思うと、すぐに女性の声に切り替わる。


「ああ、メアリーか。彼の言う通り、話は全て聞かせてもらった。キミが尋ねたいのは、さしずめ「そんな宝石が実在するのか」だろ?」

「はい。確かに宝石は、古来より多くの人を魅了してきました。ですが、一国の王が簡単に膝を屈するものなんて存在するのでしょうか?」

「ああ、ある。なにせボクが彼に目をつけたのも、それが理由だからな」

「! まさか、本当に……」


 メアリーが言葉尻をすぼめると、女性の不機嫌そうな声が耳に届く。


「……おい、どうした。まさか、ボクを出し抜いて宝石をせしめようって魂胆か?」

「い、いいえ! ひとつ策を思いついたので、ご相談をさせていただきたいのです」

「ほう……何だ? 言ってみろ、出来栄えによっては乗ってやる」


 牽制するような声に、メアリーは身体を強張らせながら口を動かす。


「っ……はい、その策とはですね――」

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