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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
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19話 時々刻々の行く末 (前編)

 両手に余るほどの袋を店に残し、一行は草原に向かう。それはかつて彼らが訪れた、触れ合い広場への道だった。メアリーが複雑な表情を浮かべる背後では、ロアが満足げにリベラに笑う。


「ふふっ、沢山買い物しちゃったわね。でもこれで、今後の旅もバッチリよ!」

「うう……早く、新しいお洋服着てお出かけしたい」

「ええ。明日が来るのが楽しみね!」

「うん!」


 二人が手のひらを合わせて喜ぶ傍ら、サフィラスはマイペースに所感を述べる。


「それにしても驚いたよ。外観の何倍もの広さの空間が、地下に存在していただなんてね」


 するとロアはイタズラっぽく口角を上げ、意気揚々と人差し指を立てる。


「ふふっ、ステキでしょう? なんでも、お店のコンセプトが“ワンダー・グラウンド”って言ってね。母親を探しに出た女の子が、道中とある不思議な地下帝国に迷い込む物語を表現しているそうよ」

「地下帝国、か。この国及びイルミスの技術面から推察するに、十分実現可能だろうけれど。あくまで空想上の代物という訳だね」

「ええ。今の世界の科学だと、地下どころか空中にも国が作れると言われているわ。でも――」


 ロアが言い淀んでいると、メアリーが足を止めて振り返る。


「ルベールとプネレペンの2カ国が反対しているために、建立は未来永劫見送りとなっているのです」


 そう言い切る彼女は、腕を握ってサフィラスに向き直る。するとサフィラスは、飄々とメアリーの瞳を捉える。


「おや、キミから答えてくれるとはね。どういう風の吹きまわしかな」

「……観光客の疑問に答えるのも、緑帽隊の務めですから。話を戻させていただきますと、それは国家の仕組みにあります。この世界に国が7カ国あるのはご存知ですよね?」

「……ああ、そうか。先日目を通した記録によれば、国同士で牽制しあっているんだったかな」

「はい。ルベール筆頭の過激派、ラランジ筆頭の穏便派。そしてスティア筆頭の中立派の、3つに分かれている状態なんです。加盟国の2/3以上の賛成で、万事は施行されるのですが――」

「ルベールがそれを赦さない、と」


 メアリーは目を伏せると、拳を作って悔しさを滲ませる。


「そうです。……あの国は、あまりに強大で残忍極まりない。下手に反論しようものなら、有無を言わさず()()させられる。おかげで、誰にも手がつけられない状態になりつつあります。今はまだそれでも大々的に動いてはいませんが、いつタガが外れて暴走するか……」

「そうか。それならば、こちらとしても好都合だ」

「……? どういうことですか?」


 メアリーが顔を上げると、サフィラスは静かに問いかける。


「私は、ルベールの王を討つ為にこの生命を維持している――そう答えたら、キミ()はどう思うかな」

「な――正気の沙汰とは思えません! あなた、それが何を意味しているのか分かっているんですか!?」

「重々承知だとも。けれど、キミも心の底では彼が(たお)れることを望んでいるのではないかな」

「そんなこと――!」

「喩え話を一つしよう。キミは幼子を人知れず(かどわ)かし、自国の手駒にする輩を眼前にした。勝機は充分にある上に、自身しか為せる者はいない。この場合、どう行動するのが正しいと踏むだろうか」


 サフィラスは視線を動かすと、彼女の背後の先を見据える。いつの間にかロアとリベラは遥か先を歩いており、その姿を消そうとしていた。メアリーは目を丸くして振り向くと、足早に道を突き進む。


「……そんなの、放っておける訳がありません。この身に代えても、その子を助けてみせます」

「だろうね。孤児から貰った手製のナイフを、肌身離さず携帯していたのだから」

「……何のことでしょうか。私はただ、緑帽隊の隊長として悪事は見過ごせないとお伝えしたいだけです」


 メアリーは吐き捨てるように言うと、駆け足で二人の後を追った。



 サフィラスとメアリーが着いた頃には、既にロアとリベラは広場の散策を始めていた。不思議と観光客はおらず、鳴き声だけが規則的に木霊している。

 その最中、メアリーは広場の柵を越える手前でサフィラスの隣に立つと、前を向いたまま話し始める。


「……ところで、あなたは気が付いていますか? この国の異様さに。ロアさんは早速発見したようですが」


 ロアは広場の入り口でサフィラスたちを手招くと、自身の傍に佇む真新しい看板を指差す。


「見て。どうやらコレ、アタシたちが出発した後に立てられてた看板みたいよ。 ……しかも、つい昨日のことみたい」


 そこには、日付と併せて“スティアから新しい子がやって来ました! みんなと遊べるようになるまで、もう少しだけ待っててね!”と宣伝文句が記載されていた。

 それに目を通したサフィラスが広場に立ち入ろうとすると、リベラが早速出迎える。彼女の両手には、青い翼をもつ小鳥が一羽乗っていた。


「ほら、見て! あのとき遊んだ子たちがいるの!」

「これは――随分と精巧だね。動作や羽の質感といい、限りなく本物に近い。ちなみに、当時顔を合わせた全員は揃っているだろうか」

「ううん、誰か足りない気がするの。もしかして、ずっとすみっこで寝てた子かな? えっとね、毛が白くてもこもこで長いから、みんなに“センニン”って呼ばれてたんだ」


 リベラが記憶を辿っていると、後からやってきたロアが会話に加わってくる。


「ああ、その子ならアタシも知ってるわ。たしかここで一番長生きして、た……」

「そっか、ロアも知ってるんだよね。ねえ、あの子がどこに行ったか分かる?」

「! ……それは」


 ロアが視線を逸らすと、頭上がふっと暗くなる。一行が見上げた先――天井からは、遠くからでもはっきりと視認できるほど太い枝が複数伸びていた。

 警戒するサフィラスをよそに、枝は手のように繊細な動きを見せる。ある枝はベンチを覆う布を剥がしたかと思えば、ハケを用いて綺麗に洗浄し始める。またある枝は柵の中の動物を次々と天井へと吸い込み、作りたての動物に入れ替えていた。


 まるでパフォーマンスのような光景を楽しそうに眺めるリベラだったが、やがて表情を曇らせてロアを見上げる。


「……ねえ、ロア。もしかして……センニンは死んじゃったのかな」

「――」


 ロアが眉尻を下げると、リベラは口を歪ませ顔を覆う。その傍らでサフィラスは、リベラに寄り添うネーヴェを一瞥すると後方へと引き下がる。


『あの枝は、何者かが操っているのだろうか。 ……それにしても、ここまで()()()()()に心血を注ぐ必要性はあるのだろうか。仮に緻密に再現するのであれば、国と村だけで良いはずだ。わざわざ生物を生み出し、縮尺を大幅に変えてまで周辺地域を描く理由は――』


 メアリーはリベラに駆け寄り、背負ったリュックから小さなぬいぐるみを取り出す。その僅かな隙間からは見覚えのある黒い服が覗き、サフィラスは定位置へと戻る枝を見上げる。


『いや……そもそも、ジオラマ作製のためだけに王子自ら動くことは考えにくい。費やしている技術面等も過剰に見える。 ――どうやら、まだ把握していない裏が山積していそうだ』

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