表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
16/58

16話 思考実験の箱庭 (前編)

 半透明な光のカーテンを通り抜けると、一転して極彩色の景色が目に飛び込んできた。


 赤や青、黄色に緑。花や実をつけた植物たちは、持ち前の色を活かしながら伸び伸びと咲いており、彼らを纏う木々も同様に、降り注ぐ人工の太陽を一身に浴びている。そのうちの一本に狙いを定め、幹から葉へと視線を移動させていくと、枝が天井を覆うように複雑に絡まりあっているのが見えた。


 外とは異なり、人ひとりすれ違わぬ空間。代わりにどこからか聞こえてくる鳥の声に、リベラはきょろきょろと辺りを見渡す。そして不意に瞳を輝かせると、前方右側に出現した滝を指差した。


「見て! 建物の中なのに滝があるよ!」


リベラの声に、バラバラだった4つの視線は一箇所に集中する。始点が辛うじて確認できる高さの滝はたもとに霧を発生させており、その終点では緩やかに川が流れていた。



 リベラは真っ先に駆け寄ると、川縁(かわべり)にしゃがみ込む。すると、数匹の魚がゆらゆらと遊泳しているのが見えた。


「わあっ、これって本物のお魚――じゃない? すごいそっくりに出来た、おもちゃのお魚だ」


 顔を近付けると、水面には彼女の影が映る。その直後、ガラス玉の目をもつ魚たちは尾ビレを動かし、瞬く間に岩陰に隠れた。


「あっ……! 驚かせちゃってごめんね」


 リベラは眉尻を下げると、おもむろに立ち上がろうとする。しかし、視界の端から現れた紅色の魚に動きを止めた。


「……って、あれ? この景色、どこかで見たような――」


 周囲を見渡し、もう一度紅色の魚を見つめる。するといつの間にか隣に立っていたメアリーが、胸元に着けた小型の拡声器を作動させる。


「リベラさん、ご明察です。実はこの植物園、アーティストが実在と空想を混ぜ合わせて生み出したものでして。このエリアも、とある辺境の村をモデルにしているそうですよ」

「村を、モデルに――」


 リベラは目を見開くと、勢いよく立ち上がる。


「そうだ、思い出した……!」

「リベラさん? どうかなさいましたか?」

「ごめんなさい! わたし、ちょっと確かめたいことがあるの!」


 困惑するメアリーの横を過ぎ、リベラは滝から逸れて伸びる獣道を駆け抜ける。進むごとに靴に纏わりついてくる、ふんだんに敷かれた木の葉。時折いたずらをする、地面に埋まった石の先端。背後からはロアやメアリーの声が聞こえてきたが、リベラは一心に足を動かし続ける。



 そしてわずか数分後に、森は円を描くように大きく開ける。軽く咳き込むリベラだったが、安堵の笑みを浮かべると息をつく。


「――っ、あった……!」


 その視線の先には、劣化した茅葺き屋根が軒を連ねる――スウェルの住んでいる村があった。傷を携えながらも磨かれた井戸に、瑞々しい野菜が根を張る畑。地面からは小石が無くなり、道端の草は整然と生えている。

 村の入口から近い場所だけを軽く見て回ると、リベラは首を傾げる。


「……? あの時より、きれいになってる?」


 記憶に残る風景を思い出しながら広場を眺めていると、ロアが駆け寄ってくる。


「ふう、ようやく追いついたわ。リベラちゃん、そんなに焦って何を探してるの?」

「えっと……わたし、一回だけこの村に遊びに来たことがあるの。でもすぐにお別れしちゃったから、もう忘れかけちゃってて。だから覚えてるうちに、少しでも写真に残したいなって思ったんだ」

「そういえば、男の子の友達が出来たって教えてもらったわね。その子のお家がここにあったりするの?」


 リベラが頷くと、次いでサフィラスが問いかける。


「ちなみに、リベラには村がどの程度再現されているように見えるかい?」

「すごいそっくりだけど、少し違う。物がお手入れされてるし、お野菜もたくさんあって……うまく言えないけど、あの時より元気になってる感じがするの」

「――」


 サフィラスは広場を一瞥すると、ネーヴェをポシェットから持ち出す。そうして何かを話しかけたかと思うと、しゃがみ込んでネーヴェを地面に放った。

 その一部始終に驚くリベラをものともせず、サフィラスは端的に言い放つ。


「では違和感を拭うためにも、件の少年の生家から調べるとしよう。リベラ、案内を頼めるかな」

「う、うん」



 広場から離れ、道に沿って村の端まで歩くと、リベラは立ち止まり一軒の家を指し示す。


「ここだよ。でも、勝手に入っていいのかな?」


 メアリーは眼前の家を見つめると、数秒沈黙した後に答える。


「はい、問題ないですよ。この村もアートの一部であって、個人のお宅ではありませんから」


 周辺の家から孤立する家は、いびつながらも真新しい柵に囲まれていた。小さな畑には青々と野菜が芽吹いており、傍らには桶が置かれている。木製の壁こそ継ぎ接ぎだらけだが、それ以外は他の家と並ぶ外観をしていた。


 結論としては、内部に大きな変化はなく。違和感は外部に留まっているようだった。



 やがてひと通りの調査を終え、ネーヴェも戻ってきた頃。ロアは移動の道すがら、感想を述べる。


「一箇所だけでも、随分と見ごたえがあったわね。植物園のアートの一部というより、まるでジオラマとして別に展示してるみたいな凝りっぷりだったし。でもどうして、ここまで精巧に作れるのかしら」


 メアリーは振り返ると、再び前を向いて説明を始める。


「定期的に視察隊が現地に赴き、その都度情報を更新しているそうです。各地の現状はデータベースシステム上に公開されていますが、すべての国や村が協力的という訳ではありません。そこで王子は、危険を省みず各地に向かってはリーダーと対話をし――築いた信頼のもと、彼独自の編み上げた“友好条約”を結んだのです」


 するとサフィラスは、淡然とメアリーに明言を求める。


「なるほど。その成果が()()という訳だね」

「……はい。仰るとおりです」

「では、その手腕を確かめさせてもらおうか。未踏の地も造られているならば、ある程度の推測と対策が可能になるからね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ