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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
14/58

14話 N/A_IF (中編)

 時は少し遡り、サフィラスがナイフを片手に胸中を吐露していた最中。端末越しにメアリーを見下ろす、白衣を着た露草色の髪の女性がいた。眼鏡で双眸(そうぼう)を隠す彼女は、薄暗い部屋でひとりドーナツをむさぼっている。

 そんなことは露知らず、メアリーは簡潔に報告を行なった後、彼女に指示を仰ぐ。


「――ということになったのですが……ターゲットと行動をともにすべきか否か、その答えを頂けますか」

「ん〜、そうだなあ。今のキミは緑帽隊という立場だ。よって、断るのは簡単だけど――彼、()()()()()んだろう?」

「……はい。おそらくは」


 女性は最後のひとくちを押し込むと、ボトルの中身を飲み干す。そして砂糖でベタベタになった手をナフキンで拭いながら、メアリーに指令を下す。


「じゃあ、もう答えは一つしかない。段階的に接触したかったけど、ここはあえて乗ろう」

「承知しました。期限はあちらの提示する、丸一日でよろしいですか?」

「うん。で、もし延長を望むようであれば、そのまま傍で監視を続けてほしい」

「かしこまりました。では、失礼します」


 メアリーが淡々と連絡を断つと、女性は次いで現れたエリンに、恨みの籠もった愚痴を吐き捨てる。


「はあ……コミュ力強いヤツは羨ましいよ。気後れすることもなく、最短で打ち解けられるんだからさ」

《マスターハ、友人ガ欲シイノデスカ?》

「んー、別に。どうせ裏切られるし、頼まれたとしてもこっちから願い下げだよ」

《安心シテ下サイ。私ハ最期マデ裏切リマセン。ズット、アナタノ傍ニイマス》

「エリン、お前――」


 真っ直ぐに向けられる、至誠の眼差し。女性は恐る恐る手を端末に伸ばすも、触れる直前でピタリと止める。そして代わりに自身の顔を覆うと、力なく笑う。


「いや……ははっ、そりゃそうだ。ボクが作ったAIなんだ、ボクにとって都合のいいように答えてくれるよな。 ……まあ、それでも礼だけは言っておくよ。ありがとう、エリン」

《……ハイ。全テハ、マスターノオ望ミノママニ》


 エリンは瞼を閉じると、静かに口を(つぐ)んだ。



 視点は、4人で行動することが決定した直後のサフィラスたちに戻る。メアリーは中腰になると、リベラに一等晴れ晴れしい笑顔を向ける。


「……さて! 早速ですがリベラさん、どこか行きたいところや食べたいものなど、ご希望はありますか?」

「えっとね、全部! 全部見て回りたい!」

「全部、ですか? 叶えてあげたい気持ちは山々なのですが――今日一日だけでは、頑張っても5か所くらいになっちゃいます」

「じゃあ、今日だけじゃなくって明日もお姉さんと一緒にいたい! ……だ、だめ?」

「……それは」


 メアリーが視線を逸らすと、今度はサフィラスと目が合う。しかしすぐさま目を伏せ、何事もなかったかのように立ち上がった。


「はい、リベラさんがお望みでしたら! 先ほど上の人に聞いておいて正解でした!」

「ほんと? ……えへへ、お姉さんありがとう!」


 リベラはサフィラスのもとに駆け寄ると、嬉しそうにやり取りの結果を伝え始める。ロアはその様子を一瞥すると、手持ち無沙汰になったメアリーに話しかける。


「無理言っちゃってごめんなさいね。ちなみに、ホントに全部周るとしたらどのくらいかかるの?」

「えーと……厳選して、おおよそ二週間というデータがありますね。隅々まで見て回るのでしたら、その倍のひと月は必要になります」


 メアリーは腕に巻いた端末を操作し、空中に表示された画面とともに答える。


「なるほどね……でもアタシたち、ワケあってあまり長居できないのよ。だからあの子には悪いけど、案内はひとまず今日だけにしてほしいの」

「あ、そちらについてはご心配なく。上の者に掛け合ったところ、「希望の期間だけ延長する」とのことでした」

「えっ? ……ねえ。さっきの連絡相手って、もしかして――んぶっ!」


 メアリーは咄嗟に端末の画面を消すと、目にも留まらぬ速さでガイドマップをロアの顔面に押し付ける。


「では初めに、最寄りの観光名所からご案内させていただきます! その名も“幽世の花園”――花々が咲き乱れる、世界有数の広さを誇る植物園です!」


 そしてメアリーは、高らかな声で明後日の方角を指した。



 目的地は壁を隔てた先にあるらしく、一行は、メアリーの手配した小型車に乗って移動する。丸みを帯びた外装には、緑色の帽子をかぶるエンブレムが飾られており、すれ違う車からは度々視線を浴びた。

 一方で内装は、ダークブラウンを基調とした落ち着いたデザインになっており、座席は気まずい空気を緩和させるほど柔らかかった。



 やがて適当な話題も無くなり、軽やかなBGMが車内に流れる頃。車窓の向こう側に、白く極大な建物が見え初めた。丘一面が淡い桜色と空色の花に覆われた景色では、観光する人々も絵画の一部のように溶け込んでいる。


「わあ……っ!」


 リベラが窓枠に手を添えて顔を出すと、隣で運転するメアリーは微笑みを浮かべる。


「ふふっ、綺麗ですよね。良いお天気ですし、到着したら皆さんのお写真でも撮りましょうか」

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