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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
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12話 静謐の華 (後編)

 それぞれの顔は絵画のように額縁で囲われており、王と王妃が隣り合う下には、子供たちが年齢の順に左から並べられている。そして額縁の下には、一人ひとり名前が記載されていた。


 ロアはそのうち、真ん中の子供を指差す。


「はい。これが王子の写真よ」

「ありがとう、助かるよ」


 齢17歳の王子はロアの発言通り、青空のような天色(あまいろ)の髪と、黄金色の瞳の持ち主だった。くせ毛は全体的に短く切り、耳から手前の髪だけを肩につく程度に残している。彼の瞳は猫のように凛々しく弧を描き、こちらを威嚇するように見据えていた。


 サフィラスは(しばら)く王子を注視、次いで他の4人を観察すると、率直な感想を述べる。


「それにしても――血の繋がった兄弟にしては、みな雰囲気が異なっているね」

「……ね。まるで、()()()()()()()みたい。そんなこと、口が裂けても言えないけどね」


 肌の浅黒い長男は、目鼻立ちがハッキリとした精悍な顔。目尻は高く、画像からその冷厳さが伝わってくる。そして眉が見えるほど短く整えられた髪は、母親譲りの透き通る青を携えていた。

 彫りの浅い顔の次男は目蓋を閉じており、僅かにクセのついた長髪を後頭部に束ねながら、ひっそりと微笑みをたたえている。しかしその腹の底は読めず、こちらの警戒心を呼び起こさせた。


 八重歯を覗かせる長女は未だあどけなさを残し、丸く大きな瞳を輝かせている。緩くウェーブかかった青い髪はツインテールにしており、両方の結び目には薔薇色のリボンを着けていた。

 肌の白い次女は眉を下げ、物悲しげな表情を見せている。最年少でありながら最も蠱惑的なオーラをもつ彼女は、真っ直ぐに伸びたミディアムヘアの片側を小さく縛り、控えめなアレンジをしていた。


 誰ひとりとして、同じ顔で写ることはなく。四者四様――さながら、喜怒哀楽を各々が担当しているようだった。



 サフィラスの隣で、リベラも7人の顔を順番に眺める。国王から王妃、そして子供達と一巡したあと、最後に王妃に視線を戻す。


『やっぱりこの人、何度見てもお母さんに雰囲気が似てる』


 背中まであろうストレートの髪を、三つ編みのハーフアップに整えた彼女。目尻の少し下がった瞳は、聖母が如く慈愛に満ちていた。


『……お母さんにお姉ちゃんがいたら、こんな人だったのかな。飾ってた絵、もってくれば良かった』


 後悔を覚えながら見つめていると、ロアに顔を覗き込まれる。


「リベラちゃん、どうかした?」

「ううん、二人の言うとおり、みんな全然感じが違うなって。でも、お母さんが違うと良くないの?」

「それは――」


 しかしロアは言い淀むと、一転して目を逸らす。すると、サフィラスが代わりに答える。


「親となる者の立場や思考により、善にも悪にもなり得る。この場合、明白な()だろうね」

「どうして?」

「国王及び王妃は国の象徴――つまり、その民族の特徴を継いだ、純粋な出自であることが求められる。それは王子とて、例外ではない。おかしな喩えになるけれど、“犬の王国”の象徴が、血統書付きの犬と捨て猫の雑種……犬のような猫だとしたら、リベラはどう思うだろうか」


 リベラはきょとんとしながらも、少しの間考える素振りを見せる。そして、口元に手を当てて笑った。


「犬の王国……ふふふっ、想像したらすごく面白そう。けど、たしかに少し不思議かも? 犬の国の王様って聞いて、イメージするのは犬だから。それに、好きな食べ物や過ごし方とかも違うのに、ケンカはしないのかな」

「そう。外見だけでなく、文化や領土を護る全てを含めて、国は自国の人間で治めるべきなんだ。加えて、王子の母親は未だ公にされていないらしい。反感を買うには、十分過ぎる状態と言えるね」

「でも……こういうとき、絵本だったらみんな歓迎してくれるのに。大人は許してくれないの?」


 ネーヴェはリベラの肩に上ると、力添えするかのように短く鳴く。しかしサフィラスは、変わらず冷淡に答える。


「……リベラが希望するほど、現実は甘くないよ。むしろ、絵本と対極の位置にあると言って差し支えない。一介の村娘が王子に見初められることも無ければ、蔑まれていた雛鳥が、成長の果てに最も強い鳥になることも無いからね」

「――そう、なんだ」


 リベラはうつむくと、手のひらに下りてきたネーヴェを呆然と見つめる。対してサフィラスは、一瞬顔を曇らせると仮面を着ける。


「……それでもなお、希望を見出したければ。現実を超える()()を手にしなければならない。時にリベラは、辛い状況から抜け出したい場合はどう動くかい?」

「辛い状態から、抜け出すためには――」


 リベラは目を閉じると、森と家をひたすら往復していた日々をぽつぽつと思い出す。


『……森に行けば、動物さんやマリーと会えた。家に帰れば、毎日届く美味しいごはんと、どれを読むか迷うくらいに絵本がたくさんあった。 ……いつも同じことの繰り返しで、変わるのはお天気しかなかった。楽しくなかったわけじゃない。でもお母さんもお父さんもいない、一人ぼっちのお部屋だった。 ――けど今は。サフィラスもロアも、ネーヴェもいる。あの時、宝石を拾っていなかったら。あの時、洞窟で「森に帰る」って言っていたら、今はなかったんだよね』


 そうしてリベラはゆっくり目を開くと、胸に手を当てサフィラスに訴えかける。


「自分から動く……私だったら、そうしたい。もしかしたらそのせいで、もっとひどくなるかもしれない。でも――動かなくて辛いままでいるより、ずっといいと思うの」

「リベラなら、そう答えるだろうと思っていたよ。だから私達は、その手助けをしよう」

「! もしかして――」


 リベラが期待の声を上げると、サフィラスは頷く。


「そう。殻に閉じ籠もってしまった王子に、機会を与えるんだ。件の舞踏会は、その先駆けとなるだろう。けれど作戦を成功させるには、キミたち二人の協力が必要だ。 ――ライア村と同様に、一波乱起こす覚悟はあるかい?」

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