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フィリアの柩  作者: 禄星命
第三章 スティア国編
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10話 静謐の華 (前編)

 サフィラスが覚悟を決めたその頃、ロアはリベラを引き連れ、公園で遊ぶ人々に紛れ込んでいた。


 着席するベンチから見えるのは、カテゴリーごとに点在するカラフルな遊具たちと、園内の中央に咲く一基の噴水。受け皿から無数に放たれる水は弧を描き、絶え間無く表情を変えていた。


 ロアは2本のボトルから垂れる水滴をハンカチで拭うと、その片方をリベラに差し出す。


「はい、どうぞ。さっきはいきなり走らせちゃってごめんなさいね。疲れちゃったでしょう?」

「ありがとう。ううん、平気だよ。それより……どうしてサフィラスを連れてっちゃったんだろ」

「そうね……あえて図書館に入らせて逃げ場を無くしたのだとしたら、断れないようにしたい()()があったと見ていいと思うわ。あるいは、サフィラスちゃん自身がどこかで異変を察知して、自分から仕掛けたか……」


 ロアの言葉に、リベラは彼の行動を振り返る。


『そういえば……昨日市場でお買い物してるとき、サフィラスはたまに後ろを向いてた。売り物を見てるだけだと思ってたけど、もしかしたら、私が気づいてなかっだけで誰かが――』

「入国審査の彼女の言動にも違和感があったし、もしかしたらここでも厄介事に巻き込まれるのかしら……」


 難しい顔をして頬に手をあてるロアに、リベラも表情を曇らせる。


「ねえ、私たちにも何か出来ることはないかな? イルミスやライア村で、みんなで役割分担したみたいに」

「ええ、きっとあると思うわ。どんなに遅くても今日の夕方には戻るって言ってたから、その時に聞いてみましょ」

「うん! よーし、今日の晩ごはんは何作ろうかな」


 リベラが中身をキャップに注ぐと、開栓の音を聞きつけたネーヴェがポシェットから身を乗り出す。


「わわっ! ま、まって、こぼれちゃう……!」


 リベラは急いでベンチにキャップを置き、ネーヴェも降ろす。大人しくなったネーヴェは、キャップを両手で器用に傾けながら飲み始めた。


「ふふっ、おかわりもあるからね」


 ネーヴェに微笑みかけると、リベラもボトルに口を付ける。


「んんっ、思ったより酸っぱい……! けど、すごく美味しいね」

「気に入ってもらえて良かったわ。スティア産のフルーツを10種類も使ったミックスジュースなんだけど、輸出してないからここでしか飲めないのよ」

「そうなの? じゃあ、次の場所に行くまで毎日飲もうかな」

「美容にも良いし、アリだと思うわ。けど、お腹壊さないよう程々にね?」



 会話は一段落し、二人の間には静寂が訪れる。しかしネーヴェがポシェットに戻ると、リベラは遠慮がちに言葉を漏らす。


「……ねえ、ロア。ずっと気になってたことがあるんだけど、聞いてもいい?」

「んー?」

「村では色んな髪や目をした人がいたけど、イルミスやスティアは、同じ組み合わせの人ばかりなのはどうして?」

「それはね、遺伝子――身体を作る情報が、国ごとに違うからなの。だから自分と同じ見た目をしている人は、出身も同じだと思ってもらって間違いないわ。そして、村に色んな見た目の人がいた理由は――」

「……!」


 薄々感じ取っていた事実が遂に裏付けられ、リベラは目を見開く。そして、森で自身に剣を向けてきた人物を呼び起こした。


『そっか……だからあの怖いおじさん、私のことを知ってたのかな。でもそうだとしたら、私はもう生まれた国に帰れないのかな……』

「リベラちゃん? どうかしたの?」

「あ――ううん、なんでもないよ。いつかロアの生まれた国にも行きたいなって。そういえば、ここからどのくらいのところにあるの?」


 リベラの神妙な視線が向けられると、ロアの瞳が僅かに揺らぐ。


「……そうねえ、今まで移動してきた距離の何倍も遠いところにあるわ。どのくらいかかるか分からないけど、辿り着いたその時は、アタシの実家に案内しちゃおうかしら。しばらく帰ってないから、お部屋が荒れていたらごめんなさいね」

「ううん、その時はお片づけ手伝うよ」

「ホント? ふふっ、じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかしら」


 ロアは静かに微笑むと、空になったボトルを、傍らのダストボックスに投入した。

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