8・朝の出来事。
次の日の朝、夜明け前だと思うが目が覚めた。
目が覚めたら、全てが長い夢を見ていただけだった・・・。
なんてことはなく、何もない部屋で目覚めた。横になったまま見えた窓の外は少し明るくなりかけた空が見えた。
昨日の夜食事の後片付けを済ませたわしとペロはママさんの住まいに案内された。
とはいっても店の隣がママさんの家だった。無口なメアリーさんと姉のカリンさんも同じくママさんの家にきた。
「男のあんたは2階に行きな!全ての部屋が空いているから、どれか一室使ってくれて構わないよ。1階の部屋は女性達で使ってるから入ったら駄目だよ!野暮な真似しようとはしない事だね。無口な子だからって意思はあるんだからね!」ママさんにそう言われた。
「そ、そんなことするわけないじゃないですか!!ペロの前で変な事言わないでください!!」わしは一応反論しておいた。
「じいじ。おらがどうかしたか?」
「なんでもないよ。じいじが若い女子を襲わないように忠告しておいただけさ。ペロちゃんはどの部屋を自由に出入りしてくれてもいいからね。」
ママさんがペロに説明しているけれど、襲うわけがない・・。食事に住むところまで世話になっているのに、そんなバチあたりな事を出来るわけがないのだ。
それよりも気になったのは、ママさんがペロの真似をしてじいじと呼んだことだ。別に構わないのだが、他の人にじいじと呼ばれるのは・・・
まぁいいか・・。さっきまで本当に爺さんだったのだから。
「じいじ、襲ったらダメだぞ。」腕を×印にしてペロが言ってきた。テレビのクイズじゃあるまいし・・。
さすがテレビをわしよりも見ていただけあるな。
ちゃんと理解してテレビを見ていた証拠かもしれない。
そんなことを考えている時じゃないな。
「襲うわけないだろ!!これからお世話になるような人達にそんな失礼な事できるか!!」
「ばっちゃん。じいじこう言ってる。許してあげて!」
(待て待て待て!!それじゃぁわしが襲おうとした後みたいじゃないか。)
「ペロちゃんはいい子だね。大丈夫だよ。まだ何もしていないからね。襲おうとしたらダメだからじいじには2階で寝泊まりしてもらうんだ。」
ママさんは階段を指差した。
「分かった。おらも上で、じいじと一緒に寝る!!
じいじ、早く行く。」
「分かった。分かったから、引っ張るなって・・。
じゃあ、おやすみなさい。失礼します。」
2階の部屋を見てまわったけれど、どれも似たような部屋だ。広さは4畳半ぐらいだろうか?(家は木でできているが表現が分からないので分かる言葉で表現した。)一応各部屋収納スペースもある部屋が4室あった。
ただ問題があった。
ここでもスイッチはあるのだが、灯りがつかなかった。
廊下の光で部屋に何もないのは確認できたが、どの部屋のスイッチもつけられなかった。
(わしこの世界で生活できるのだろうか・・?)
不安に思っていたが、「じいじ。おらこの部屋!!」
ペロが先に入った部屋にわしも入った。暗くて何もすることもできない。1日中動き回ってお腹も満腹近くなっていたのでわしも不安より眠気が勝ってくれそうだった。
「おやすみ!」そう言ってペロと2人雑魚寝で眠ることになった。
わしの腕を枕に眠るペロの可愛い寝顔を見たかったが、
ドアを閉めたら、真っ暗になったので何も見えないのを
悔みながら、眠ることになった・・。
そうして朝をむかえたわけだ。
布団もないので床に雑魚寝で眠り続けたわしは
体がカチコチに固くなっていた。
(若返ってなければ、起きられなかったかもしれない。)軽く体をストレッチしながらそんな事を考えていた。
ペロは疲れているのかまだ眠っていた。日本で住んでいた頃はわしが起きると目を開ける事が多かったのだが、人の姿になり変化があるのかもしれないと寝かせたままにしておいた。
ドアを開けると下から物音がした。
どうやら誰か起きているようだが、部屋に入るなと言われているのだ。時間も分からないのに外から声をかけるのも忍びない。
ドアの向こうに誰がいるのかも分からないので、部屋から誰かが出てくるのを階段に座って待ち続けた・・。
階段と廊下の灯りだけはついていたので助かったな。
しばらくすると奥から2つ手前のドアが開いた。
中から出てきたのはメアリーさんだ。
まだ目がちゃんと覚めていないようで下をむき、目をこすりながら部屋から廊下に出てきた。
メアリーさんは無口だから、返事が返ってくるとは思わなかったが「おはようございます!」と普通に挨拶をした。
立ち上がりはしたが普通に挨拶をしただけだ・・。
それなのに・・・。
「キャアアアアーーーー」と家の中全体か、外にも聞こえそうな声で驚き叫ばれた。
「待って!!待ってください!!」慌てて両手を前に出したわしは必死に言ったが手遅れだった。
みんなが慌てて起きてきた。
「何事!?」カリンさんは寝癖がついたままの頭で・・
「どうした!?」ママさんはなぜか箒を握りしめて登場した。
メアリーさんが怯えたような表情をしていたのを見て、
「あんた!!やっぱりメアリーを狙ったのかい!!」
そう言ってわしの事を箒でバシバシ叩き始めた。
「待ってください!誤解です・・・!!痛いっ!!」
「問答無用!!!」
逃げ出すわけにもいかない。逃げたら本当に襲おうとしたみたいになる。ママさんの力はそれほど強くはないが、必死になって叩かれているので、さすがに痛い!!
助けを求めたわしはメアリーさんを見た。
カリンさんに大丈夫?と心配されているのが見えた。
ママさんは手を緩めずに叩き続けている。
わしが何を言ってもママさんには通じない・・。
メアリーさんが止めてくれるしかない!!
その願いだけで、わしはメアリーさんを見続けた・・。
「待って・・・ママ。」
先ほどの叫び声とは違う、小さな声でメアリーさんが待ってと言ってくれた。
でも思い切り箒で叩くママには声が届いていない。
叩かれ続けているからわしの耳にも叩く音ばかりが響いている。
(まずいぞ・・。腕が痛くてしびれてきた・・・。)
カリンさんだけは驚いた表情でメアリーさんを見ているけど、ママさんはそちらに意識をむけていないのか
叩く手は止めなかった。
「ママ!!やめてあげて!!」
メアリーさんが大きめの声を出したことで、ようやく叩くのが止まった。
すでにボロボロになっているわしは、腕がジンジン痛んでいた・・。
「わしは挨拶しただけですよ・・」気分は泣きそうだった。
「メアリー。そうなのかい?」コクっと頷いているメアリーさんを見て、ようやく誤解が解けたとホッとした・・。
「メアリーさん、ちゃんと声出せるじゃないですか?わし返事がこないかと思っていたのに、予想外だったよ。」コージは痛む腕を軽く振りながらメアリーを見た。
「そうだ・・。そうだよ!メアリー!!ちゃんと喋れたじゃないか!?」ママは怒っていた表情はどこかへ忘れたように驚いた表情をしていた。
(喋っていたことに今まで気づいていなかったのか!?
どれだけ怒ってたんだよ・・!)
「私はそれだけ怖い思いをしたのかと思ったよ。
メアリー、本当になにもされてないんだね?」
(カリンさん。それはひどい!わしは信用がないのだな・・・。女性の中でわし1人男だから、仕方がないのか・・?)
「あの・・私のせいで、ごめんなさい。」
さっきと同じ小さな声で、メアリーさんは謝ってきてくれた。
「大丈夫・・とは言えないかな?ボロボロだな。
こんな所で待っていたのが悪かったな。驚かせて申し訳ない。」コージは頭を下げて謝っていた。
「そうだよ!なんであんたこんな所で、待っていたんだい!?」
「ママさんが1階は女性専用だって言ってたからですよ!誰がどの部屋にいるのかも分からないから、待っていたんです!!」
「ああ・・。そういや私が言ったんだったね。
廊下の奥が食事の部屋なんだよ。言ってなかったね。
明日からは先に起きたら、そっちに行っていたらいいよ。」
「そういう事は最初に言ってくださいよ・・。」
わしは肩を落とした。
「あの・・・腕腫れてきてますよ。」
メアリーさんが指さした先はわしの左腕だった。
「えっ!?腕・・?」
見てみると手首のあたりが、腫れだしていた。
「うわぁ・・。痛そう・・。」カリンさんは目をそらした。
「多分捻挫かな?骨は大丈夫だと思う・・。」わしは冷静でいようと思った。メアリーさんが心配そうに見ているから強がっているだけだが・・・。
それより腕ではないが、捻挫をしたことがある記憶が
ぼんやりと残っている。いつだっただろう?
「ちょっとやりすぎたかね。すまないね・・。」
申し訳なさそうに言われたら何も言えない。
表情を見れば分かった。
「ママさんわしは大丈夫なので、ちょっとペロを見てきてもらえませんか?これだけ下でバタバタやっていたのに、起きてこないのは不思議なんですよね?
あと包帯とかあったりしませんか?」
メアリーさんが私が取ってきますとすぐに行ってくれた。
「私はペロちゃんの寝顔を見に行ってこようかね。」
ママさんは少し嬉しそうに2階に行った。
「あの犬の嬢ちゃんは、なかなか起きないの?」
「まさか・・。元々普通の犬ですよ。
わしと同じように朝早起きしていたんですから・・。
それこそわしより早くに起きている時もありましたよ。」
「それなら起きてこないのは不思議だね・・。」
カリンさんと2人になったけど、気にせず話かけてくれた。不審人物のような目で見られたら、気まずい・・。
そして2人で上の様子を気にしていたら階段からバタバタと降りてくる音がした。
「ちょっと!!ペロちゃんが血を出してる!!」
ママさんの声で腕の痛みを気にせず勢いで立ちあがった。腕がズキズキ痛むけど、今はそれどころじゃない。
わしは慌てて寝ていた部屋にむかった!!
「ペロ!!」ドアが開いていたので、呼びかけた!!
ペロが仰向けにひっくり返っていた。寝ているわけではなさそうだ。鼻血が出ていた。
頬を軽く叩いて声をかけてみる。
「ペロ!ペロ!」一瞬体を痙攣させて、目が開いた!
「じいじ!!悲鳴聞こえた!!大丈夫!?」
普通に起き上がったペロを見てホッとした。
「う、うん。それは終わったけど、ペロなんでひっくり返ってたの?鼻血が出てるじゃんか・・?」
「おら・・。悲鳴聞いて飛び起きた!
慌てて出て行こうと思ったら、暗くてよく見えなくてドアにぶつかったみたい。そのままひっくり返ってたかな?」
メアリーさんが包帯とタオルを持ってきてくれていたので、先にペロの鼻血を拭いてあげた。
「暗かったもんなぁ。ごめんなぁ。驚かせちゃって。わしが起きた時に起こしておけば良かったな・・。」
左腕が腫れていることにペロは気づいた。
「じいじ。腕どうした!?腫れてる!?」
「メアリーが悲鳴をあげたから、襲おうとしていると思ってしまったママに散々箒で叩かれて腕を腫らしたじいじさんでした。」後ろで見ていたカリンさんがそう言ってきた。
なんだか笑いをこらえてそうな気がするのは気のせいか?
「じいじ?襲うダメ、言われてた。守らなかったから叩かれた?」
ペロが悲しい目で見てくる・・。
わしが悪いことをしたみたいになってる!?
「違う!違う!!わしは襲ってない。
暗がりで、急に挨拶したから驚かれただけだよ。」
「私が早とちりしてしまってね。やりすぎちまったんだよ。ペロちゃんも大したことなくて良かったね。」
わしからタオルを取りあげて、ペロの顔を優しく拭いたママさん。
「あんたはひとまず包帯を巻いてしまいな。見ていたら、痛々しくなってくるよ・・。私は朝食の準備をしてくるから。」
そう言って、ママさんは下に降りて行った。わしの怪我はママさんのせいなんだが・・・放置されてしまった。
「おらもご飯の支度手伝う!!」ペロがママさんを追いかけて行った。さっきまでひっくり返っていたのに元気なものだ。
「私も手伝うかな。ペロちゃんが何をしようとするか気になるし。」そう言ってカリンさんも降りて行った。
カリンさんはペロに興味があるようだな・・。
部屋にはコージとメアリーだけが残った。
「あの・・私のせいだから、手伝います。」
コージが悪戦苦闘しながら包帯を巻いてたのでメアリーが声をかけてきた。
(なにか会話をした方がいいのだろうか・・?)
「まさか立ちあがって挨拶をしただけで、悲鳴をあげられるなんて思ってもいなかったですよ。」
「すいません・・。いつも私がいちばん最初に起きるんです。だから急に声をかけられて、驚いてしまって・・。情けないのであまり言わないでほしいです。
ママもこんなに腫れるまで叩かなくてもいいのに・・」
「それだけメアリーさんが大事という事じゃないですか?愛されてますね。」コージは微笑みをむけながら言った。
メアリーは照れたように笑い頬が少し紅潮した。
「笑っている方が黙っているより似合いますよ。ちゃんと挨拶していなかったですよね?改めてコージと言います。よろしく。」
「コージさん・・。メアリーです。えっと、私の方こそよろしくお願いします。」
「わし昔からの癖で朝は早くに起きていると思います。
なのでこれからは驚かないでくださいね。」
「うぅ~~。はぃ。ごめんなさぃ。」
消えていきそうな小声で、メアリーが返事をしたので、コージは思わず笑いそうになった。
(無口な子だと言われていたけれど、喋ってみると案外返事をくれるものだな・・。)
そういえば、わしが妻と出会った頃、怪我を治療してもらった時があったな・・。
いつだ・・・?
たしか・・自転車で走っていたわしが、曲がり角を曲がった先に人がいて、ぶつかりそうになって避けた時に転んだのが原因で・・、
そっか!その時に捻挫をしてしまったんだった。
その時にぶつかりそうになったのが妻との出会いだった。なんで忘れてたんだろう?
転んだわしに気遣ってくれ、家が近くだからと連れて行ってもらい包帯を巻いてもらったな・・。
その時のお礼に食事に誘い、何度か会ううちに付き合うようになったんだ。
そうそう。わしを助けてくれた妻の手がとても小さかったのが印象に残ったんだ。
隣で歩いている時に、身長もわしの肩ぐらいしかなかったんだよな。
若返ったおかげなのか?
昔の事を思い出せるようになってきた。
心が安らぐような温かい記憶だ。
他にも何か思い出せるだろうか・・?
「あの、巻き終わりました。どうですか・・?」
そうそう。わしはあの時初めての足の捻挫の痛みから立ちあがれずにいたんだ。
その時に差し出された手で初めて女性の手をつかんだ。
こんな風に・・・。
「・・・・・・!?」
「じいじ。ばっちゃんがご飯の支度できたから降りてこいって・・・。どうした・・?メアリの手握ってる?」
コージは思い出に浸っていた。
年のせいで忘れていた記憶を似たような出来事で思い出し始めていた。ひとつ思い出せると、いろいろと懐かしい思い出が蘇ってきていた。
「じいじ?」
妻が呼んでいる声が聞こえてくるようだ・・・・。
「じぃーーじぃーーー!!!」
耳元で急に大きな声がしてコージは驚き目を瞬かせていた。コージはペロの声で現実に引き戻された。
コージが見るとペロは首を傾げていた。
「えっ!!あれ!?ペロ・・?ごめんごめん。
ちょっと昔を思い出してた。どうした?」
「ばっちゃんが食事できた。ホータイ巻けたら降りて来いって!それでじいじ。なんでメアリの手握ってる?」
「えっ!?わしは手なんて握って・・・」
コージは無意識にメアリーの手を掴んでしまっていた。
いや握ってしまっていたというべきか・・。妻との記憶を再現するような行動をとってしまっていた。
メアリーは動揺して何も言わずに顔を下にむけていた。
「あっ!すまない。まったく無意識にその・・・あの・・・この手が勝手に・・・。」
コージは慌てて手を離した。昔のことを思い出せたのが嬉しくて行動を意識していなかった。
(さっき襲おうとしていた疑惑をかけられたばかりで
何をやっているんだ。自分のことが情けなくなるな・・。)
「あの・・・、包帯巻き終わっています。大丈夫ですか・・?」
目を合わせずに下をむいたまま、メアリーは言った。
(わし・・・嫌われてしまったかもしれないな・・。
急に何も言わずに手を握られたらおかしな人に思われても仕方がない。日本なら間違いなくお縄になっている出来事だろう・・。)
(過ぎてしまったことは仕方がないか・・。言い逃れはできないし、今回は完全にわしが悪いのだから・・。)
コージはひとまず手首を見ると、しっかりと固定してくれていた。
「あ、ありがとう。大丈夫だよ。」
一瞬ほっとした顔をしたメアリーさんが恥ずかしそうにまた俯いた。
「フ〜ン。さっきから見てたけど、じいじさんは積極的なのかな?メアリーは残念ながらあまり見られるのに慣れてないんだよ。じいじさんが見つめて手を握ったりするから、顔が赤くなってるじゃん。」
(えっ!?わしそんなに見つめてしまってたのか?)
いつの間にか部屋に戻っていたカリンがコージに教えてた。
ママに見られていたら、また叩かれていたかもしれないと思うとカリンで良かったのかもしれない。コージはそう考えて安堵した。
「姉さん、やめてよ。恥ずかしい・・。」
顔を両手で隠す仕草をしメアリーさんは、そのまま立ちあがって下に降りて行ってしまった。
「あらら。行っちゃった・・。まぁいっか。
じいじさん。ありがとうね。」急にカリンがコージにお礼を言ってきた。
(わしはお礼を言われるようなことは何もしていないが・・。)
「あの子があれだけ感情を出して、喋ったのいつ以来だろう。今はあんな感じだけど、昔はよく笑う子だったんだよ。これをきっかけに昔みたいに、笑う子になってくれれば私も肩の荷が下りるんだけどなぁ・・・。」
そう言って笑みを浮かべたカリンは少し寂しそうに見えた。
(ここにいる人たちはみんな訳ありだと言っていたっけ。カリンさんとメアリーさんには昔何があったんだろう・・?)コージは2人の過去に興味を持った。
「おーい。何やってるんだい?さっさと食事を済ませて朝の仕込みをするんだからね。
早く降りてきて食べちまっとくれ!!」
ママの声でみんな一斉に下におりて食事を始めた。
普段はどうなんだろう?みんな無言で食事をしている。
メアリーさんも食事をしているが、顔をあげないので表情が分からない。
カリンさんはニコニコしているけれど、そんなに気分がいいのか?
ママさんも同じことが気になったようだ。
「カリン。何かいいことでもあったのかい?
いつになく笑顔になってるじゃないか?」
「感情を無くしていた妹が、感情を取り戻しかけてるんだ。嬉しいに決まってるじゃん。」
「そうだね。じいじのおかげかも知れないね。」
荒療治ということか?考えてやっていたのなら
褒められて喜べるが、あれは狙った事ではない。
怪我をしているのだから、嬉しくもない。
「そのおかげで、できることが少なくなりましたけどね。」
左腕をみんなに見せるようにしたわしは、肩を落とした。
「じいじ。痛い?」
「まぁ我慢できない程じゃないから、大丈夫だよ。
利き腕じゃないし、生活も問題ない。
食事もペロよりは綺麗に食べられるよ。」
ペロの周りはスープがスプーンからこぼれていた。
「んんー。じいじ嫌い!」ペロが頬を膨らませてすねた。
「ハッハッハ。」とみんなが笑うと、つられてペロも笑っていた。
「あんたはとりあえず、水をちゃんとだせるようになる練習からだよ。小さい子でも、練習をしてすぐにできるようになるんだ。片手でもできるから、ちゃんとやるんだよ。」
「はい。分かりました。」
「メアリーがじいじさんのサポートしてくれるんだって!!」カリンさんの発言に一番驚いているのはメアリーさんだった。
「姉さん。私・・そんなこと言ってない・・。」
顔を赤くしながら、下をむいてしまった。
「いいじゃん。じいじさんと一緒にいれば、メアリーにも笑顔が戻るような気がするのさ。いいだろ?ママ。私がメアリーの分まで頑張るからさ。」
「カリンがそこまで、言うなら私は文句はないさ。
じいじ。メアリーに変な事するんじゃないよ。」
「だから、わしはそんなことしませんって。」
カリンさんが何か言いたそうだが、気にしない。
手を握っていたじゃないか!?と訴えるような目を気にしたら負けだ。
「メアリーもそれでいいかい?嫌だったら
無理にとは言わないよ。」
下をむきながらも、コクっとメアリーさんは頷いた。
わし達は朝食を済ませた。
「いつもより、遅くなっているから先に仕込みに行くからね。じいじは今日中に水を使えるようになって、ここの後片付けをする事!メアリーはちゃんとできるように、手助けできることがあればやっておやり。」
そう言って、ママさんは家から出ていった。
「じゃぁ、ペロちゃん私達も行こうか?」
「うん。分かった。」
カリンさんがペロと一緒に家から出て行き、わしはメアリーさんと2人きりになった。