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7・口は悪いけど、優しいママ。

「さぁ挨拶も済んだことだ。色々教えていかないといけないけど、今日はやめておこう。ひとまず私は厨房に戻るよ。あんたはエラードにこの村の事でも聞いておくんだな。」



エラード?このおじさんの名前か?



「あれ?お仕事は・・?」



「今日はできることがない。足手まといだよ!

明日の朝からきっちり教え込むから、今日は店の雰囲気になれておくれ。」



そこまで言って、ママさんは奥に引っ込んだ。



思い切り足手まといと言われてしまったな。

クビにはならずに済んだけど・・・、ショックだな。



「ハハハ。兄ちゃん足手まといだってさ。最初のうちは誰だってそうだ。あんまり気にするなよ!」励ますのか笑うのかどちらかにしてほしい。



「笑ってられないですよ・・。無一文ですから・・。」



「なんだ・・?どっかから逃げてきたのか?

まぁ野暮な事を聞くのはやめておくわ。だったら汗水流して働くこったな。」



「そうですね・・。」わしは苦笑いしかできなかった。



「焦ったって仕方ないぞ。ひとまず座ったらどうだ?わしが飯を食ってる間だったら、なんでも聞いてくれていいぞ。ママに言われたから断るわけにもいかないからな。」



「ありがとうございます。」わしはエラードさんのむかいの席に座って、話を聞いた。



「ところでエラードさんとおっしゃるんですね?」



「ああ、そっか。わしの名前を教えていなかったな。

わしの名はエラード。ママにはガキのころから世話になってるのさ。」


「え!?そんなに昔からですか!?」



どう見ても40か50になっていそうなおじさんだ。


ママさんは一体何歳なんだ・・?バンダナの横から見える毛は白髪混じりとはいえ、水色の綺麗な髪の色をしていたな。昔はさぞかし綺麗な人だったんだろう・・。



「ママがまだ若い時、ちょうど兄ちゃんぐらいかもう少し若かったかな?旦那さんと一緒にこの店をやっていたのさ。わしは子供の頃に親が魔物に襲われて死んでんだ。当時は今よりも魔物は凶暴なのが多かった。

10歳くらいの頃だったか?他に血縁者もいなかったわしは行くあてもなくさ迷っていた。食い物の匂いにつられて、この店にやってきたが金はない。わしはこの場から動けなくなった。」



「そうだったんですね・・。」わしは経験ないが魔物に親を殺されるのは辛いな・・。この世界にはそんな人達が一定数はいると考えるべきか・・。いかに日本が平和だったかこんな形で理解すると思わなかった。



「入り口の横で座りこんでいたわしは、そのまま動けずに店の入り口近くで空腹に耐えながら眠ってしまっていた。店を閉める時に若かったママが声をかけてきてくれたのさ。」



残り物でよければ、食べる?



「ママがそう言ってくれた。ありがたかった!

わしには天使の声に聞こえた。なんであんなところに眠っていたのかと聞かれたわしは親が死んだ事とかいろいろ話をしたさ。」



そっかぁ。君も大変な思いをしていたんだね。

親の代わりにはなれないけれど、残り物で

よければ、毎日食べにきてもいいよ。



「ママがそう言ってくれた。当時のわしには食い物を買う金もなければ、今後どうすればいいのかも分からなかった。わしは何度もお礼を言って、それから毎晩閉店の頃にやってきては残り物の食事を頂いた。

ママは残り物だと言っていたが、わしのために毎日違うメニューが残るように調整をしてくれていたのさ。厨房で旦那さんと喋っているのが聞こえちまったんだよ。」



(なんだか今と雰囲気が違う感じだな・・。)



「わしは店の周りを掃除なんかしていたな・・・。せめてなにかの恩返しをって、んん?なんか言いたげな顔してるな・・?」



「いえ。ただ、今のママさんの喋り方と雰囲気が違うかなって思って。」



「ああ、旦那さんがわしが大人になる頃に市場に行く途中で、魔物に襲われて亡くなられたんだ。料理のほとんどを旦那さんが作っていたので、残されたママは1人で店を切り盛りするようになった。」



「そうだったのですか・・。でもここの魔物って

それほど強くないとおっしゃっていませんでしたっけ?」



「今はそうだ。わしの親やママの旦那さん、他にも何人もいる。昔は襲われてきた人達が多かったのさ。

村に侵入されたら大事になるのでな。村がギルドに依頼して対処しだした。冒険者を多めに雇い入れてな。わしも親の仇とは言わないまでも、ママさんの寂しそうな顔を見るのが辛くてな。冒険者の人に戦い方を教わり魔物退治に加わった。」



エラードさんは剣を振り回す仕草をした。



「ママの喋り方が素っ気なくなっていったのは、その頃からだな。わしは、ママにずっと食い扶持を世話してもらっていたからよ。魔物を討伐して稼げるようになれば、自分で料理を注文してちゃんと金を店に払うようにしたわけよ。」



(確かにそれだけを聞いていれば、ママさんに少しでも

お金を渡して恩返しをしようとしているように思う。

しかし、それでは雰囲気が変わる理由にはならない。何かがあるのだと思った。)



「みんなで協力して強い魔物は徐々に数を減らしていった。今出てくるのはほとんど小物の魔物さ。ギルドの人間は他の地域に冒険者達を派遣した。

生態系とかに詳しくはないがここの魔物は数だけは多い。だからこそわし達ここの村の人間たちで、強い魔物が育たないように討伐するようになっていった。討伐した魔物の素材を売りなんとか生活していくぐらいの収入を稼げているんだからそれだけ魔物が多く出現する場所だっていう証でもあるな。」



「じゃぁここの村の男は家事をしないと言うのは・・?」



「ガッハッハ。そんな事言うのはリサさんだな。

日中はほとんど森で魔物退治をして稼いでいるのさ。

わし達が魔物退治をしてるのが危険だとよく言ってやがるのよ。わし達は魔物が強い力を持つのを防ぐために弱いうちにどんどん倒していこうとしているのに、

あまり良く思ってくれてねーんだわ。」そう言ったエラードさんは大げさなぐらい大きくため息をついた。



「ちなみに今この店に食いにきている男どもは

ほとんどママさんに助けられて大人になってきた人間ばかりだ。さっきオススメは何かと聞いてきていたろう?

正直に言うと、普通の家で食べる料理と味は変わらん。

同じ金を出すならもっと上手い店はいくつもあるさ。

わし達にとってはこの食堂はな、実家のようなものさ。

おふくろの味を食べるために毎日通っている。口は悪いけどよ。たまに見せる姿で安心しちまうんだよな・・。」



エラードさん達にとってこの食堂は、実家か。

ママさんに亡き親の姿を思っているのか?

なんとも泣けてくる話だな・・。エラードさんを始めとしてこの店に来る人達はママさんの元気な姿を見にくる

口実に食事をしていると言ったところなのかもしれない。



「なんだい?エラード。まだいたのかい!?食べ終わったならさっさと帰ってくれないと片付かないじゃないか・・。」



厨房が落ち着いたのか、ママが出てきて言ったセリフだ。たしかに口は悪いな。初対面でこの態度を見せられたら余程のもの好きでないと2度目はこないだろうな・・。



「その言い方はないだろ!?ママがコージに教えてやってくれと言ったんじゃないか。だから親切にこの店の事を教えてやってたのに・・。」



「ああ。そういえば、そうだったね・・。変な事を言わなかったろうね?」



「何も変な事なんて言ってないぜ。ママは昔、俺たちを助けてくれたって話をしていたんだ!!なぁ!?」



急にこっちに話がむいた。ママさんが睨んで見てきたので、わしはコクっと頷くことしかできなかった。



「フン。私はあんたを助けた覚えなんてないね。私が助けたのは可哀想な少年だ。魔物を倒すのに夢中になっている男なんて知らないね。私は奥でちょっと休んでるよ。食べ終わったならさっさと帰っとくれ。」



ママさんは奥に下がっていった。周りの席の人達を見ていると、確かにママさんの姿を目で追っている感じだ。

苦笑いをしている人もいるぐらいだ。



口は悪いが・・・優しいのだろうな。



ママさんの目がそう語っていた。



同じぐらいの年齢を経験していたわしだからこそ

気付けたのかもしれないが・・・。



「可哀想な少年だって成長してるってのに・・・。

相変わらずひどい言い草だ。さて、わしも言われた通り帰るかな。」



よっこいしょと言って、エラードさんは立ちあがった。



「コージ、頼みがある。」急に真面目な顔をしてエラードさんが見てきた。



「はい?」何を言ってくるんだ?



「ママは見ての通り、もう年だ・・。わし達が何を言っても聞こうとしない。倒れるまで店を続けるつもりだと思う。無茶をしないように助けてやってほしい。」



「その頼みなら、俺たちもお願いする。ママに何かあれば知らせてほしい。」



他の客も立ちあがって、頭を下げてきた。



「皆さん頭を上げてください。皆さんの気持ちは十分分かりました。自分はこの店で働くことになっているだけですけど働くからにはできる限りの事はしますよ。」



「そう言ってもらえて助かるってものだ。

この店は男手が必要なんだ。重たい物もあるのに、

ママはわし達が手伝おうかと言っても、うんとは言わなかった。できるだけでいい。助けてやってくれな。」



「はい。まかせてください。」


話は一区切りして、会計して出て行こうとするエラードさんを見ていた。



会計役はカリンさんだ。



「じゃあまた明日くるわ。頑張って仕事覚えろよな。」


「はい。ありがとうございます。」


出て行こうとするエラードさんがドアに手をかけた時、

奥のドアがバンッと開いた!!



みんながそっちを見ると・・・、

眠そうに目をこすりながらペロが立っていた。



「じいじ。ここどこ・・!?おら寝てた?分からない・・。」



「ペロ・・。やっと起きたな。ここはわしがこれから仕事をする場所なんだよ。よく眠っていたから起こさずに連れてきたんだよ。」



「じいじここで働く?おらも働く?」



ペロが首を傾げている。ペロにできることってあるのだろうか・・?そもそもペロが働くなんて考えてもいなかったんだけど・・。



「ペロは・・どうなんだろう・・?近くで遊んでいてもいいけど・・。とりあえず働かない事には生活していけないからな。わしが頑張って働くからな。」ペロの頭を撫でておいた。



「じいじが働くなら、おらも手伝う。何する?」



「そうだな・・・。」わしが考えていると、



「なんだか、騒々しいね。おや?犬の少女は起きたのかい?とてもかわいい子じゃないか・・。お腹空いてるんじゃないかい?」



「じいじ。このばっちゃん誰?おら・・お腹空いてる・・。」


クゥーーー。ペロのお腹が鳴った!鳴り響いたといったところか・・。



店内が笑いの渦に包まれた。



「お腹空いてるようだね。食事の用意をしてくるからちょっと待っておくれよ。」



ママさんがそう言って中に入っていった。



あまりの態度の違いにエラードさんや他のお客さんも目を丸くして驚いている。やっぱりママさんは優しい人なのだろう・・・。



ただ言葉が足りないだけなのだと思う。

まぁわしも似たような経験をしてきたからだろうな・・・。



見たらリサさんもクスクス笑っていた。



「ママったら本当に分かりやすいなぁ・・。あんたら男達には分からないだろうけど・・・」



そう言って笑っていた。



わしも一緒にされているのだろうか?、まぁいいか。

今日ここにきたばかりのわしが口を出す必要もないだろう・・。



「ペロさっきママさんが言っていた通り、ここで食事の世話もしてもらうことになったんだ。ひとまず落ち着くまではここにいさせてもらうつもりだよ。

わしは仕事頑張るからな。ペロは自由にしてくれたらいいよ。」


「分かった。おらもできることあれば、手伝う!!」


「じゃあペロもママさんが戻ってきたらちゃんと挨拶をしような。」



「うん!!」元気よく返事をするペロを見ていると心がほっこりしてくるな。



「犬の嬢ちゃん、さっきは笑って悪かったね。

私はリサと言うんだ。コージと同じでここで働いてるんだ。よろしく!」



「う、うん。分かった。よろしく!!」


良かった。ペロはさっきの事は気にしていないようだ。

素直に謝ってくれたおかげか、さっきの服屋の店員さんのおかげか?どちらもあるかもしれないな・・とにかく人間を嫌いにならなくて良かった。



「コージ。わし達はそろそろ帰るわな。また明日くるから、その時にちゃんとこの嬢ちゃんを紹介してくれな。

ママが戻ってきたら、また怒られそうだしな!」



わし達!?

振り返ると他のお客さんも帰ろうと立ちあがっていた。



「ぜひ俺たちにも紹介してくれな。犬の嬢ちゃんなんて

初めてだからな。」


「はい!これからよろしくお願いします。」


「・・・?お願いしまします!」



ペロは首を傾げながらもわしの真似をして頭を下げた。



可愛いやつだ・・。



食事を運んできてくれたママさんに挨拶をして、

みんなで食事をすることになった。



リサさんだけは既婚者だという事で帰っていった。

晩御飯はいつも残りを持って帰って食べるとの事で、

弁当箱のようなものに詰めていた。



ペロは初めて人の食事をするという事で、スプーンやフォークの持ち方を教えていくことから食事が始まった。



スープを飲むのに口を近づけて飲もうとしたのは

犬の時の癖だろう・・。



ペロが食べた場所だけが料理がポロポロこぼれていたのは言うまでもなく、料理の後片付けがわしの仕事だと言われても反論できない悲惨な状況だった・・。



後片付けと言っても洗い物は無理だから空いた皿を運んでテーブルや床を拭くしかできなかった。



そうしてわしの異世界での生活初日を終えた。



体が若くなったからか分からんが、前向きな気持ちが湧いてきていた・・。



明日も頑張ろう・・。

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