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4・洋服選び。

「ペロどうだい?まだ美味しそうな匂いは離れてるかい?ペロみたいに匂いを感じられたらいいんだけど、

人間にはそんな能力はないからなぁ。」



川辺で腰かけてわしはペロに訊ねた。



「さっきよりは匂い近い。でもまだ離れてる。」



ペロは鼻をクンクンさせている。小さな鼻がひくひく動いているのも可愛いもんだ。



「ひょっとして、匂いはこの川の下流からきてるかな?」


「じいじ。凄い。なんで分かった!?」



「昔の人間は水の確保のために、水辺に村を作ったりしたものだよ。ここでも同じかなと思ったまでの事だ。

明るいうちに着きたいからそろそろ出発しよう。」



「分かった。出発!出発!」



川の下流にむかって歩き始めて一時間程だろうか・・?

体感だから分からないがそれぐらいだろう。

森が終わりそうな雰囲気になってきた。



先の方が少し開けて明るくなってきたのが分かった。

道と呼べる道を歩いていたわけではなかったので、

正直若返ってなかったら途中で倒れていたかもしれんな。



見習いさんに感謝すべきだろうか?



若返ったのはありがたいが、彼のせいでどことも知れぬ森を彷徨っている。



1人だったらどうなっていたか分からん。



じゃが、わしの手を握っているペロの存在が希望の光のように感じる。



きっとわしは幸せなのだろう。



若返って新たな人生を歩むチャンスを得て、なおかつペットだった犬がこんなに可愛い子に姿を変えたのだ。



「じいじ。煙もこもこ見えた。匂いあっちの方からする。早く行く!」



わしが考え事をしている時にペロの声が聞こえた。



足元に注意して歩く癖がついているな。

ついさっきまで年寄りだったのだから仕方ないが慎重すぎるとまたペロにダメ出しされそうな気がするし注意しないと・・。



ペロに言われた通り少し上の方に目をやると、確かに煙があがっているのが見えた。



「ああ。わしにも見えたよ。人が住んでおる証拠じゃな。行ってみよう。」



わしが手を離せばペロは1人で先に走っていきそうだ。

わしも気になるから早く行ってみてみたい気持ちはある。



しかし気になる点もある。


ペロの姿を見て、怪しまれたりしないだろうかとかじゃな。見慣れぬ2人だけでも怪しまれる可能性もあるのに、1人は幼い人の姿をした犬じゃ。



一応警戒しておく必要もあるじゃろう。



そう考えているうちに、森が終わった。見えたのはのどかな村のようだ。ペロに手をひかれて村に近づいていく。車も走っていなさそうな静かな村だ。



村の中に入ってみると、どこか海外の田舎にでもきたような気分になった。



ほとんど人が歩いていない。



下ってきた川が村の中心を通るように流れていた。



国境などがあったりすればどう説明するかも悩んでおったが必要なかったな。



大通りのような道に出るとお店が並んでいてちらほら人の姿が見えるようになった。



ここでも海外の田舎のイメージだな。わしだけ服の種類が違う。嫌でも目立つな・・。



お店看板に文字が書いてあるが読めない文字だった。「何を売っているんだろうなぁ?」思わず声が出てしまった。



「じいじ。何か買う?」


「そうだな・・・。とりあえずペロの服を買わないと

だめだな。いつまでもそんな格好させていられない。」



一応毛が全身を包んでくれているから、

大事な部分が見えているわけではないけれど、

わしの上着を1枚羽織っているだけでは可哀相に思えた。


「おらこの格好平気。じいじの匂いする服だけでいい。」


「コラコラ。ペロはもう人の姿をしているんだから、

それなりの格好をするようにしないと笑われるぞ。」



「でもじいじ。服買う。お金かかる。お金足りる?」



「う~ん。どれぐらいかかるか分からんからなんとも言えないな。とりあえず服を売ってるお店を探してみるか。」



「おや?見かけない顔だねぇ。」


どっちにむかおうか悩んでいるところで声をかけられた。振り向いてみると、人の良さそうな中年のおばさんがいた。買い物してきたのだろうか?

バッグの中から野菜が顔を出している。



この世界での初めての会話か、緊張するのう。



「こんにちは。わし達は今村に着いたところなんじゃが、どこかに子供用の服を売っているお店ありませんかのぅ?」



わしの言葉にクスクス笑うおばさん。失礼な人だ。



ペロがわしの袖をちょいちょいと引っ張る。


「じいじ。老人の言葉でてる。変。笑われた。」



あ!つい緊張して普段通りの言葉で喋ってしまった・・。時すでに遅しだ。ペロの言葉で笑いを我慢するのに必死になっているようだ。



どうせなら思い切り声を出して笑ってもらいたいものだ。余計に恥ずかしくなるわい。



「ハハハ。笑ったら失礼だよね。ごめん。ごめん。

ちょっと年寄りみたいな喋り方だったからついね。

それで子供服だったね。そこを真っすぐ行けば洋服屋さんがあるよ。」



「ありがとうございます。ちょっと行ってみますね。」



失礼だと思うなら言わなければいいのに、

しっかり笑った理由まで教えてくれた。

どうせわしは何時間か前まで年寄りだったさ・・。



「お嬢ちゃんは獣人さんかい?かわいいねぇ。私は獣人さんは初めて見たよ。」おばさんが獣人と言っている。魔物とは違うのか?ペロはどういった種類になるのだろう?



「おら獣人?違う。おらはただの犬。ちょっと前に人の姿になった。可愛い。言われるの嬉しい。ありがと。」

ペロの中では犬は犬のままだった。当たり前の事を言っているように感じるが、本来の犬の姿ではないのだ。



「ちょっと前だってかい?珍しいこともあるもんだねぇ。どうやって人の姿になれたんだい?私の家も犬を飼っているんだけどお嬢ちゃんみたいに人の姿になれたらステキだろうねぇ。」



「テレビ出てた。変な喋り方の人。おらの事を人にした。じいじも若返った。おらも若返った。」



「ぺ、ペロ!?そこまで言う必要は・・・」普通に住んでいる人達に言っても信じてもらえないだろう・・。



「じいじ。おら嘘は言っていない。本当の事言ったまで。どうやってなったか聞かれたから答えた。」



まぁ確かに嘘は言っていない。ペロは聞かれたことに答えただけだ・・・。でもおばさんは声に出して笑い出した。



「ハハハ。お嬢ちゃん面白いことを言うものだね。

そんな簡単に人が若返ったりするもんか。」



「おら嘘言ってない!若返った。本当の事・・・」



わしはペロの口を塞いだ。

これ以上ペロが言っても信じることはないだろう・・。



「あははは。ちょっとこの子は夢でも見ていたんだと思います。この道を真っすぐでしたよね?ありがとうございました!!」



ペロはまだ何か言いたそうにバタバタしてるけど、

口を押えてペロを抱きかかえて、洋服屋さんのあるほうにむかって歩き出した。


「気をつけていきなよ。」


おばさんの声が聞こえたので、振り向いて頭を下げておいた。



少し離れたところでペロの口から手を離した。


ペロが顔で不満を物語っている。



「じいじ!なんで!?おら嘘言っていない。夢も見てない!!なんであんなこと言った?なんで言い返さない!?」



「ペロ。人はね、自分が信じられない事を聞いて

すぐに納得できるような人はめったにいないのじゃよ。

わし達は本当に体験したから、嘘ではないと分かる。

じゃが、見ていないものからしたら、犬から人の姿に変化などするわけない。人が若返ったりするわけない。そう思ってしまうものなのだよ。

あのままペロが説明を続けても、きっと信じてもらえなかったよ。」



ペロは頬を膨らませて文句を言いたそうにしている。

可哀想だけどそれが人間というものだ。

経験していってもらうしかない・・。



「ほらそんな顔をしていないで、服を探しに行こう。

いつまでも引きずってないで・・、忘れた。忘れた。」



ペロは頬を膨らませたまま歩き出した。

我慢しているんだろう・・・。涙目になっている。



なにか違うものに興味をひかせて、忘れてもらうしかないな。



そう考えていたけど、目的の洋服屋をすぐに見つけることができた。


果たして手持ちの金で足りるかどうか・・。



「こんにちは。」と言って店内に入った。



店自体そこまで大きいものではなかった。

「はぁい」と言って、奥から女性の声がした。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


「この子のサイズに合う服を探しているのですが・・・。」



ペロは人に不信感を持ってしまったように、わしの後ろに隠れていたので無理やり前に押し出した。



「きゃぁ。可愛いですね。獣人さんですかぁ?」



「おら獣人違う!おらただの犬!!さっき人の姿になれた!!本当!!」



ペロは不満をぶつけるように大きな声を出した。



奥から出てきた若い店員の女性は目を見開いて驚いている。少々気まずくなるかもしれない・・。



「あの、すいません。ちょっと嫌なことがあって・・・。」わしがそこまで言った時に、


「あらあら、そっかぁ。ワンちゃんだったのかぁ。

それは、ごめんなさいね。それで、どんな服がいいかな?」


若い女性の店員さんは何も気にすることなく、そのまま会話を続けた。



「おまえ。おらのいう事信じてくれる!?」


「ええ。信じるわよ。あなたは嘘を言うような

目をしていないもの。何があったのかは分からないけど、事情があるのよね?あなたお名前は?」


「おらはペロ。」


「じゃぁペロちゃん。どんな服がいいかな?

子供服はこっちの方だから一緒に選ぼうか?」



ペロは嬉しそうに店員さんについて行った。



鏡を持ってきて自分で体にあてて試させるようだ。



ペロはかけてある服を鏡の前で全て試している。



気をよくして楽しんでいるので、しばらくかかるだろう・・。



わしは店員さんに一応謝っておこうと思い、ペロに聞こえないように小声で話始めた。



「あの・・さっきはこの子が大きな声を出してしまってすいません。」



「あら?気にしなくて結構ですよ。ちょっと驚いちゃったけど、それに私も動物が喋れるようになれば、

楽しいだろうなぁと思っていた時期があるんです。

それを見れたみたいでとても幸せです。」



笑顔で答えてくれた店員さんを見て、嬉しくなった。

信じたかどうかは別として、ペロを人として受け入れてくれたのが嬉しかった。



「じいじ。おらこれが良い!!」



選んできたのはとても地味な感じの服だった。


どう見ても子供用ではない。農家の人が作業着に着てそうな服だった。



「ペロちゃん。それは子供用じゃないかな・・。

もっとこっちの方のにしたら?」


店員さんも苦笑いをしながら、ペロの服を預かって掛けなおした。


「おらそれでいい。じいじと一緒みたいな服それしかなかった。」


どうやらペロはわしの着ている服に似ているのを探していたようじゃ。喜んでいいのか、情けないやらなんとも言えない気持ちじゃな。



わしも若くなったんじゃから、少しは着る服を変えた方が良さそうじゃ・・。



「ペロ。わしも若くなったんじゃから、着る服を変えようと思う。だからペロももう少し子供用の服を選んでくれた方がいいかと思う。」



変えようとは思うけども、収入を得てからじゃないと

金がどれだけかかるかも分からんのは辛いところじゃが・・・。


「分かった。じゃあじいじも新しい服選ぶ。

おらも新しい服選ぶ。」



「あっ!男性用でしたらそちらのほうに掛かっていますよ。ご試着したければ、お声かけ下さいね。」



笑顔の店員さんに言われて、金が足りるか分からんとも言えなかった。わしは渋々言われた通り掛かってある服を選び始めた。値札が貼ってあれば、検討がつくのじゃが、ここは何も貼っていなかった。貼ってあったとして読めるのかといった問題もあるが・・。



「今若い方に人気の服はこちらに飾ってある感じですね。冒険者の方や、力仕事をされている方がほとんどですので、こういった服が好まれています。」



そういって紹介されたのは丈夫そうな生地で作った服だ。汚れても目立たない茶色や黒っぽい色服が多かった。つなぎになっている建築業の人達が着ている様な服もあった。



よく見ると同じ服のサイズ違いは存在しないようだ。


「これってひょっとして手作り?」確認のために聞いてみた。


「よく分かりましたね。全て私の両親が作ったものです。新しい服を買うより、服を直すことが多いので

今はあまり新しい服って作ってないんですよね。

それほど大きな村でもないので買う人も少ないんですよ。」



笑って言っているけど大したものだと思う。



一から新しい服を作って売っているなんて、日本ではほとんどなかった。わしの着ている普段着も式などに着ていく礼服もオーダーメイドは1着も持っていなかった。



待てよ。それだけ手間がかかっているんだから、金額高いって事じゃないか・・?



「じいじ。いいのあった?おらこれがいい。」


そう言ってペロが見せてきたのは白を基調にした服だ。


ワンピースと言うのだったか?

ズボンでなく、スカートなのが気にいったようだ。



「ペロちゃんシッポを出す穴私が作ってあげようか?」


「いいのか?これなら中に隠せると思って選んだ。」


「いいよ。私も裁縫習っているし、これぐらいだったらすぐにできると思う。サイズだけ図らせてもらうね。」



奥から定規のような物を持ってきてペロのシッポを計測している。


ちょっと待て。金額も分からずに、穴を開けてもらってお金が足りませんじゃ、話にならないぞ。



「あの洋服代っていくらですか?

手持ちで足りるか不安でして・・・。」


「あ!この服でしたら10リンです。」


10リン?どれなのだろう?

台があったので袋の中にある硬貨を出してみた。


「あの・・・これで足りますか・・?」


(足りなければあきらめるしかないな・・・。)


「え~と、はい!ちょうどですね。お預かりします。」


おお〜!!。足りて良かった。

でも持ち金が無くなってしまったな・・。


袋の中には短剣と角ウサギの角だけになってしまった。


「じいじの服は・・?」


ペロに言われて、わしも選んでいたのを思い出した。

しかしお金がないことにはどうしようもない。



「わ、わしはもう少し選ぶことにするよ。とりあえず今の服があるしのぅ。今日はペロの服だけにしておこう・・。」悩むふりをしてやり過ごした。なんとかお金を稼がないと飢え死にする未来が頭をよぎった。



「それじゃあこちらの洋服に、シッポを通す穴を開けさせてもらいますね。お時間は1時間もあれば終わると思いますが、どうされますか?」



「ちょっと、その辺を見てきてもいいですか?

後ほど取りに戻ってきますので。」



「じいじ。おらここで見ててもいい?おらの服、見ててもいい?」


てっきりついてくるかと思ったけど、自分の服がどうなるのか気になるようだ。



「ペロがそう言ってるんですが、作業見せてもらっててもいいですか?」



「私は結構ですよ。見られてる分集中して作業する練習になるので。お子さんには退屈に感じるかもしれませんが・・。」



「ではお願いします。ペロ邪魔しないように見ておくんだよ。」


「分かった。じいじ。大人しく見てる。」



ペロは夢中になれば、ずっと見ているタイプなのかな?

大人しくしていることを祈ろう。



さて1人になれたのは好都合だな。

なにか職でも探すか・・・。


わしはおもむろに村の中を歩きはじめた。

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