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2・わし若返る。見習い神との遭遇

見渡すばかり木が立ち並んでいるな。

どこかの森にでも迷い込んだ景色が広がっている。



後ろを振り返るとさっきまで住んでいた家もなくなり、辺り1面が森になっている。



神隠しという言葉は知っているが、自分が経験するとは思ってもいなかった。



リードを持っていたのでペロも一緒にいるのが不安を少しだけ軽くしてくれていたが、ペロも急に周囲が変化したことに気付いているようで、周りをキョロキョロと見渡していた。



「ペロ・・いったいここはどこなんだろう・・?」

わしはしゃがんでペロの頭を撫でながら言った。



「あれあれ~こんな所に人間がとばされちゃったっすね?失敗っすか~。ショックすね~。」



なんだ?急に声が聞こえたけど、周りを見渡しても姿は見えない・・。わしは耳までおかしくなったか・・?



「こっちっすよ~。あなたの上っす~。」


上と言われたので見てみると、木の枝に立っている人の姿があった。


「そんなところでなにしてるんですか?」


訳が分からない・・。



「あれ!?ここはどことか聞かれるかと思ったっすけど、自分の事を聞かれたっす。別に何をしてるってこともないっすよ。実験の結果を見にきたっす。」



「実験ってなんの実験ですか?できれば首が痛くなってきたので、降りてきてもらいたいです。」



年寄りにはきつい角度じゃ。



「おっと失礼。お年寄りはいたわらないとっすね。」



木の上から飛び降りてきた人物は近くで見ると30代ぐらいか・・?あの高さから飛び降りてきて怪我もしないのかと驚いてしまう。木の高さはマンションの4階か5階ぐらいの高さはありそうなのに・・。



「さて実験の説明っすね。実験は至って単純っす。

狙った場所にちゃんと転移させることができるかっす。」


「転移?」


「あれ!?転移って知りません?

テレポーテーションは分かるっすか?瞬間移動っす。」


「それなら分かる。」


「その瞬間移動を使った実験っす。

ちゃんと狙った場所に送ることができるかの練習っすね。自分、神の見習いなんっすけど、ここで練習してるっす。」


「はぁ?」



からかわれているのだろうか?

昔話であった狸に騙されるというやつか?



「あっ!!その目は信じてないっすね?これでも本当に神の見習いっすよ。せっかくなんで覚えたての魔法を使って証拠を見せるっす。」



どこからか取り出した杖を振り回しだした・・。



「時の流れに許しを請う。世界の理をこの人物から奪うことを。若返り魔法 リリスター」



突如 杖から白い煙がこっちにむかってきた。

なんなんだ?これは・・?



「ゲホッゲホッ」息をするのが苦しくなりむせてしまった。


わしはここで死ぬのか・・?



「その煙は体に害はないので安心するっす。害どころか体の悪い部分を治して活性化させるっす。お爺さんの一番体が活発だった時期を思い描いていいっすよ。その時期に戻るっす。」



体が熱い・・。



神の見習いを名乗った人物が何か言っているが、

聞こえない・・。



全身が燃えるように熱い・・・。





どれぐらいの時だったのか分からない。熱さが少しましになってきた時に、わしを包んでいた煙が薄まってきた・・。




「気分はどうっすか?」


「いいわけあるか!殺す気か?わしは死ぬかと思ったぞ!」


「自分が殺すわけないっすよ。神の見習いっすよ。信じてもらうために若返らせたのにひどい言い方っすね?軽くショックすよ・・。」


「若返らせた・・?」



「そうっすよ!落ち着いて自分の体を観察するといいっす!」



何を言っているのかと思ったが、言われた通りペロのリードを持っていた手を見てみた・・。



えっ・・?


手のしわがなくなっている・・?


慌ててわしは自分の顔を触ってみた。



顔にあったしわも感じられない。


肌も弾力がある?



わしは何度も自分の顔を触って感触をたしかめていた・・。



「どうっすか?理解してもらえたっすか・・?」



「本当に、若返ったのか・・?」



「本当っすよ。お爺さんだけ若返らすつもりだったすけよ。煙を見て慌てて逃がすかと思ったっすけど反応鈍いっすね・・。さすが人間のお年寄りっす。リードを握っていたためそこにいるワンコも一緒に若返ったっすよ。」



わしは慌ててペロを見た。



ペロもさっきまでの老犬ではなくなっていた・・。



落ち込んだようになっていた目も

輝きを取り戻したようにキラキラ光って見える。



「どうやら本当に神様じゃな・・。信じるしかあるまい。」


「神様じゃなくて、まだ見習いっすけどね。」



老い先短い命を若返らせれる人物が見習いと言われても

にわかに信じられない・・。まぁ自分で言ってるのだからそうなのだろう・・・。



「それで見習いさん。わし達はどうしてここにやってきたのですか?ここはどこなんです・・?」



「ここっすか?ここは地球とは違う別の星っす。

どうしてかというと・・自分がミスったみたいっすね。」


「はっ?・・・ミスった?」


「ええ。このあたりの木は全部自分が他の場所から持ってきてるっす。今回も木を狙っていたはずが、どうやらあなたの家の玄関につながってしまったようなんっすよ。本当ショックっすわ・・。こんな事が神様にしれたら、また罰を受けるっすよ。」



肩を落として落ち込んでいる見習いさんを見ていると、

文句を言う気も失せてしまう。



「まぁ間違えたのなら仕方ないですね。神様でも・・、違った。神様の見習いさんでもミスをしてしまうとは勉強になりました・・。それでわし達はどうやったら戻れるのですか?」



「無理っすね・・。」


「えっ・・?」



「座標と時間軸を指定して運んでくることはできるっすけど、こちらから送っていくことはできないっす。今からその魔法を研究して完成させたとして、実験を繰り返し行い、安全に移動できるようになるまでに、100年程かかるっす。あきらめるしかないっす。」



膝を落として座り込んでしまった。住み慣れた場所から見知らぬ星に連れてこられて、帰ることもできない事実はさすがにショックだ・・。



「自分が言える立場じゃないっすけど、そんなに落ち込まないでくださいっす。住んでみたら案外ここもいい星っすよ。強い魔物がわんさかいる場所でもないっすから。」



「魔物が出るんですか!?」


「ええ。このあたりにはいませんが、ドラゴンとかも存在している世界っすよ。ちなみに魔法も存在してるっす。冒険者になるのも、魔法使いを目指すのもあなた次第っす。どうっすか?ちょっと楽しそうに思えてこないっすか?」



この人の喋り方は詐欺師のように思えてしまった。

都合の良い事ばかりを述べて契約をさせ金を奪うひどい人間に思えてしまった。



「わしは別に冒険者も魔法使いも憧れん。普通の暮らしを続けていけたらそれでいい。危険を冒してまで、そんな職業に憧れたりせん!」



「そうっすかぁ・・。まぁ田舎に住んでる人っすもんね。でも安心してください。ちゃんと人間の集落もいくつも存在しているっす。きっと元お爺さんが住める場所も存在するっすから。」



「簡単に言ってくれるな!見知らぬ土地でわし1人でどうやって生活していけというのだ。知ってる人もいないこの世界の金も無いのに・・。」



心を許せる相手もいない世界での暮らしなんて不安しかない。わしは生まれた時から、あの田舎に住み続けてきたのじゃ。毎日同じ顔しか見ないような村で暮らし続けて死んでいくのもわしの最期らしいと思っていたのに・・



「う~ん・・。たしかに喋る相手がいないのは不安っすよね。そうだ!!そこのわんこに喋れるようになってもらうっす。一緒に生活してきた方がいたら元お爺さんもきっと励みになるっす。」



「えっ!!わんこ・・?ペロをどうする気じゃ・・?」



「まぁ黙って見ていて欲しいっす。」



また見習いさんは杖を振り回し始めた。なにか魔法を使う時は杖が必要なようだな・・。



「世界の理に許しを請う。我は人ならざる者を人にする。語れないものに言葉を授ける。変化(へんげ)魔法 ヘンリー」



またしても杖から煙が出てきた。今度はペロだけが煙に覆われている。苦しそうにキャンキャン鳴く声が聞こえてきた。



「ペロ!?大丈夫か!!」


「危ないっす!!今触ったらおかしなことになるっす。

少しだけ待ってほしいっす。」




わしは待った。



家族同然の犬がキャンキャン苦しそうに吠えているのに

何もできないのは正直辛い時間だった。



少しして煙は先ほどと同じく薄まり始めた。


しかし、どう見ても柴犬のシルエットではない・・。

幼い女の子のようだ・・。



「コホコホっ。まったく今日は変な日。見知らぬ場所にくるし。変な人に煙で攻撃されるし。じいじも急に若返っちゃうし。いったい何なのさ?」



咳をしながら、人の言葉で文句を言っている・・。

本当にペロなのだろうか・・?


完全に煙が無くなり見えた姿はお尻のあたりにクルっと丸まった可愛いしっぽが存在している。頭の耳もそのままだけれど・・、それ以外はほとんど人の子供と同じだった。少し黒ずんだ鼻と丸まったシッポが元は犬だったと象徴しているようだった。



「じいじ。どうしたんだろ?ずっとおらの事見て固まってるけど?」



「ペロ・・?体なんともないか・・?その・・姿が・・変わったから・・。」



「あれ!?じいじがおらの声を理解してる・・?

体?どうしたんだろ・・・?

えっ・・?


えっ・・・?


ええええっ~~~!!!!」



ペコは自分の手や足を見つめて叫んだ。

森に響き渡るような声で・・。わしは着ていた上着を脱いでペロにかけてあげた。ペロは一糸まとわぬ裸だったから・・・。


「じいじ!?」


「ペロ。この人のおかげでペロは喋れるようになったんだよ。この人のおかげで今の姿になったようなんだ・・。嫌か?」


ペロは首を振った。


「おらじいじと喋れるようになった。嬉しい!

いつも喋れたらいいと思ってた。今のままでいい!」



ペロはわしに抱き着いてきた。孫にも抱きつかれたことがないのに、まさかペットだった犬に抱き着かれるとは思わなかったな・・。



「この人のおかげっすか?うんうん。

いやぁ~いいことをすると気持ちがいいっすね。」



感動しているところで水を差された気分だ。



「ペロ。この人のせいでわし達は元の場所に帰れなくなったんだよ。」



ペロの鋭い視線が見習いさんに向いた。

ガウゥゥゥゥと喉を鳴らすように威嚇し始めた。



「そ、そんな言い方ひどいっすよ。だからこうしてワンコを人の姿にして、喋れるようにしたっすから。どうか許してほしいっすよ。」


「そう言ってるけどどうする?」


「う~ん・・。おらじいじと喋れるようになったの嬉しい。だから許す。」



ペロの鋭い視線から解放された見習いさんはホッとした様子でひと息ついていた。



ペロはまたわしに抱き着き顔をうずめてきた。

なんて可愛いんだろう・・。わしに孫はいないが目に入れても痛くないと思う。



育てた子供も可愛い時はあったが、立派に大人になり仕事が忙しいそうだ。結婚はしているが孫はまだ生まれていなかった。



孫が抱き着いてきてくれたら今みたいな感情になるのだろうか・・?



うん。どうでもいいことを考えすぎたな・・。



もうあの世界には戻れない。



この世界でペコと共に過ごす決意をしないと。



わしがしっかりしてペロを守っていかないといけないな!!


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