桜は儚く、そして温かく
僕は桜というものが嫌いだ。
春のほんの短い時間しか咲かず、すぐに散ってしまう。
エルフという長い時を生きる僕からしたらそれは人間の人生ともとれる。
今日は会社の同僚たちと花見というのもあって、綺麗な桜が並ぶ公園にやってきた。
皆は立ち並ぶ桜を見て、「綺麗だねー」とか「散ってなくて良かった」とか言って写真を撮っている。
確かに桜はとても美しい。
でも、それでもただすぐ散っていってしまうのは儚く、悲しいものだ……
そんなことを考えていると花見の予定地に着いた。
先に場所を取っていた人がいたため、もうブルーシートとかも敷いてある。
そして、皆思い思いの場所に座って、お酒を開けて乾杯をする。
皆でワイワイと騒ぎながら、飲むのはとても楽しい。
その感覚は、その空気は何十年も経っても変わらない。
そんなこんなで皆の酔いが大分回ってきた頃、誰かが僕に話題を振った。
「そういえば、暁さんってエルフなんですよね?」
「え、えぇ、そうですけど」
「もう何年以上生きてらっしゃるんですか?」
「そうですね、もう400年でしょうか」
「ほえー、400年!それは凄いですね。」
短い人生を生きる人間からしたらそれが当たり前の感想なのだろう。
特段それを誇る気も無いし、そもそも起きない。
それよりも彼が持っているビールの缶が手から落ちないか心配だ。
「まぁ、エルフでは普通ですよ。長いと1000年以上生きるエルフもいるそうですから」
「へー、そりゃすげえな。人間の俺らからしたら考えられないよな」
いつもこの話をしたら、皆から凄いと思われる。
まぁ、もう何十回と話してきたことだから、流石に慣れているが。
そして次に来る話題も分かっている。
「それならそうと暁さんって今までに結婚とかってしたことがあるんですか?」
「……そりゃあ、ありますよ」
「それは何回ぐらい?」
「……5回、ですかね」
「えぇー、5回、はぁー、凄いですね。やっぱり長生きしているだけありますね」
「あはは、そうでしょうか」
「そうですよ。あっ、もしかして離婚とかした事あるんですか?」
何かを探るような感じではなく、完全に興味だけによる視線を向けられるが内容が内容なだけに僕は少し言い淀んでしまう。
「り、離婚は無いですね。……全員最期まで見送りました」
「最後まで、こりゃすげえや、ワハハハハ!」
「あ、あははは……」
流石に何度もこういう話をしてきたから慣れてきたが、やはり……
ふぅ、嫌な慣れだ。
そんなことを思っていたら、
「ちょっとあんた達、そういう話は暁さんに失礼でしょ!」
隣に座っていた同僚の茜さんが憤怒の形相でこの話をしていた男たちに、そう声を荒らげた。
「そんなことを聞いて一体何になるんですか!暁さんの気持ち考えたことあるんですか!」
「あ、茜さん、お、落ち着いて下さい」
「こんなことを聞いて落ち着けませんよ!暁さんもどうして反論しないんですか!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて、ね?」
僕はそう言いながら茜さんの肩に手を置いて、座らせる。
「はいはい、これでも飲んで少し落ち着いて」
そして、水を渡して落ち着かせる。
「……すいません、ありがとうございます」
「落ち着いた?」
「体は落ち着きましたが、心は落ち着きません。だってそうじゃないですか。あんなデリカシーの無い事を言って、暁さんのことをバカにしてるじゃないですか!」
「うぅん、でもまぁ、長生きなのも5回も結婚してるのも事実だから。あんまり気にしないで」
「それでもですよ。長生きなのは種族の事ですから仕方が無いですが、5人の人を愛し、最期まで見送ったのってとても素敵なことじゃないですか」
「――ッ!」
「暁さんに最後まで愛されて、皆さんきっと幸せだったでしょうね。あぁー、私もそんな最期まで愛してもらえるような相手が欲しいな~」
茜さんはそう零しながら屈託のない笑顔を浮かべた。
僕は彼女のそんな姿を見て、心が温かくなる。
多分、この温かさは……
桜というものは儚く、悲しい。
だけど、いつか失うと分かっていても、僕はまた人に恋をしてしまうのだろう。
そう考えながら、上を見上げると桜の花びらがヒラヒラと綺麗に舞っていた。
皆さんこんにちわ 御厨カイトです。
今回は「桜は儚く、そして温かく」を読んでいただきありがとうございます。
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