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5.養父母の憂いと陳腐な小説

イレーネさんとウォールさんにアロマキャンドルを試してもらって、許可が出れば店に置こうと思って、アロマキャンドルを全種類一つずつ購入し、店員に連絡先を聞いて帰ってきた。

そして二人にザックさんから聞いた話と、兄からの手紙の話を伝え、ルーファスが描いた人相描きを見せた。

てっきり人相描きを見て大爆笑されると思っていた私の予想は裏切られ、二人は深刻な表情で顔を見合わせている。


「ねぇ、ティア。ウォールとも話してたんだけどね。ティアは、早めに誰かと婚約してしまった方がいいと思うの」

「勿論ティアの希望は聞くし、別にティアのことが邪魔な訳じゃない。ティアの安全の為にどうか前向きに検討して欲しい」


二人の真剣な言葉に、私は言葉に詰まる。

二人の性格からして、私を邪魔に思ってのことでないことはよく分かる。

ルーファスとの婚約は無効になったし、拘っているのがルーファスだけなら相手に迷惑をかけることもまずないだろう。

けれど…。

誰かと婚約…と言われても、私がウェルネシアに来てからまだそんなに経っていない。

知り合いも幾らもいないし、婚約するような相手がまずいない。

それに、身分を偽る為とはいえ、孤児から雑貨屋夫婦の養子になったような女を婚約者に欲しがるような人間って…。

私のそんな考えを読んだように、ウォールさんが言葉を継ぐ。


「孤児だとか平民だとか、そこら辺は気にしなくても大丈夫だ。この国も基本アダスティアと同じで身分違いでも結婚は許されている。何なら孤児が皇族と結婚したって大丈夫なくらいだ。まぁ人物は重視されるがな」


まあ、それは分かる。

幾ら自由と言っても皇族と結婚するなら、中身のしっかりした人間でないと無理だ。

皇族が碌でもない相手と結婚した為に折角の良い国が滅んでしまっては困る。

しかしまあ、皇族の相手が孤児でも良いって…。


まあ、とりあえずそれは置いておこう。

私が皇族に嫁ぐとか有り得ないから。


んー。でも、婚約かー。


ウォールさんとイレーネさんみたいな、一夫一妻の素敵な夫婦になれるなら、それは本当に素敵なことだと思う。

愛する人に、自分一人だけが愛される。

アダスティアにいれば、殆ど夢のまた夢だ。

そんな人に出逢えればいいな…。

そう考えて、ふと先日のギルの言葉が頭を過る。


『なあ、ティア。お前、俺の婚約者にならないか?』


ピキッとこめかみに血管が浮く感覚を覚える。

あいつだけは絶対ない。

私はふるふると頭を振って、二人に応えた。


「でも私、ウェルネシアで人脈もないし、こんな身元の知れない人間、相手になる人も困るでしょ?大丈夫よ。ルーファスのこんな人相描きで見つけられっこないから」


心配してくれる二人には悪いけれど、どう考えたってあんな人相描きで私に辿り着けるとも思えない。

兄にさえ行き先を伝えていないのに、数多くある国の中からどこへ行ったか探し出すなんて、王族並みの権力でも行使しなければ無理だろうと思う。


「でも、でもね?薬を使ってでも貴女を手に入れようとするような人なんでしょ?だったら、形だけでもいいから誰かと婚約しておいた方が向こうも手が出しにくいと思うのよ」

「そうだよ。最初ティアの話を聞いた時には、まさか本当に薬を使ってまで…なんて考えていたけれど、実際そんな物を用意するような人間、何をするか分かったものじゃない。できることは何でもしておいた方がいい!」


私の否定の言葉に、二人は必死の様相で詰め寄ってくる。

まあ、確かにあの下衆は本当に危険を感じる程に頭がオカシイ。

けど、そんなに必死にならなくても…と思う私は楽観的過ぎるのだろうか。


「いえ、でも。本当に、こんな面倒な人間と形だけでも婚約なんて、了承してくれる人間もいないでしょうし、私は大丈夫だから」

「いや、それなら相手は私達で探すから────」


実際面倒な人間でもあるし、そんな人間と婚約を望む人間はいないだろうと思う。

それと同時に、私自身あんな下衆(ルーファス)の婚約者として五年間も置かれていたことで、婚約することに抵抗もあるのだ。

そう思って二人を説得しようとしても、二人も必死に私を説得しようとしてくる。

そんな攻防を繰り返していると、ノックもなく無遠慮に突然扉が開けられた。


「何?探し物?俺も一緒に探してやろうか?」


なぜ、お前が、いる。


扉を開け、挨拶より先に話に加わりながら部屋へ入ってきたのは、銀髪を肩に流したチャラ男。

「「ギル!」」「…ギル…」

ウォールさんとイレーネさん二人の声と、私の声が重なる。

この話をしているこの場に、一番姿を現してはいけない人間だと思う。

案の定、ウォールさんとイレーネさんの顔に喜色が浮かぶ。


「ギル!ちょうど良い所へきた。お前、ティアを婚約者にしてやってくれないか?!」


きたよ、コレ。


「うん?いいけど、何で?」

いいのか?

そんな簡単でいいのか?

というか──

「いや、こんな仕事してるかも分からない平民では、腐っても伯爵家嫡男が強硬すれば婚約してても意味ないでしょ」

思ったままを口に出してしまった私に三人の視線が集まる。


「ああ、まあ確かに腐ってるが伯爵家嫡男だな」

「あら、ギルはちゃんとした身分の───」

「イレーネさん!」


ウォールさんのツッコミどころはそこなのね。

その横からイレーネさんが何か言おうとしたけれど、ギルに止められてしまった。

なに、ちゃんとした身分て?

気になってギルに視線を向けるけれど、ギルは首の後ろをガリガリと掻きながら私から視線を逸らし、ウォールさんへ言葉を向けた。

「で、何の話してた訳?」

その言葉に、ウォールさんとイレーネさんが必死で説明を始める。


「────そんな、薬まで用意してティアを手籠めにしようとするような奴、見つかったらどうなるか分からないだろう?!」

「だから、もし見つかっても無理に手出しできないように、誰か婚約者をって──」

二人の説明を黙って聴いていたギルは、イレーネさんが言葉を切ると「あー」と納得したような声を漏らした。


「それでか。じゃあ仕方ないな。ティア、お前を俺の婚約者にしてやる」

かっこつけたように前髪をかき上げながら、立ったまま私を見下ろし(のたま)う。

それに条件反射で言い返しながら私は彼を睨み上げた。

「いや、だから、仕事してるかも分からない平民なんて───」

しかしその言葉は途中で遮られてしまった。


「いや、俺、皇族だし」

「────は?」


間抜けな声を漏らし、ギルを見上げる。

こいつは──

チャラいだけじゃなくて大ホラ吹きなのか?

バカなのか?アホなのか?

ルーファスと同類なのか?


私の頭の中を駆け巡る言葉が聴こえたかのように、ギルが顔を顰める。

「お前、今物凄く失礼なこと考えてるだろ?」

睨み下ろされて思わず視線を逸らす。

そんな様子にギルは大きく溜息を吐くと、静かな声音で言葉を紡いだ。


「ギルバート・フォン・アンザム。俺の本当の名だ。現皇帝の弟が俺の父親で、ついでに、商船の船長をしているザックは俺の兄だ」

「………はぁーーーー?」


皇弟殿下の息子?

ザックさんが兄?

兄ってことは、ザックさんも皇弟殿下の息子?

なにその設定。

どこの陳腐な小説ですか?


全く信用できない私の向かいで、ウォールさんとイレーネさんはうんうん頷いて「実はそうなんだ」「そうなのよ」とか言っている。


「いや、いや、いや。皇族の人間が商船の船長とか。フラフラしてる八百屋の息子とか…」

頭痛がしてきそうな頭を振りながら私が言うと、相変わらず立ったままのギルは腰に手を当て、指で頬を掻いている。


「いや、お前には全て隠してたけど、一応俺、これでも騎士団で隊長も勤めてるんだけど?」

言って、彼は緩く結んで肩の上に流していた髪を解き、頭のてっぺんで括り直した。

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