第五十話△知ってる場所
森の中を真っ直ぐ駆け抜ける。あたしはなぜかこの道を知ってる。なんでだろう…?
20分ほど走り続けたところであたしは足を止め、ゆっくりと前に手を伸ばす。何も無いと思われたそこに手を触れた瞬間、薄い壁のようなものにぶつかり、触れたところから振動が波紋のように伝わっていく。
「………いける。」
あたしが手にグッと力を入れた途端目の前に広がっていたはずの森が消え、代わりに木々に囲まれた集落が現れる。吸血族の里に到着したのだ。
「ここは………。」
あたしはこの景色を知ってる。ずっと前から。
あたしはその中でも一番大きな建物に向かって一直線に進んだ。歩いていた吸血族の人の何人かがあたしの方を見て驚いた顔をしていたけれど、誰もあたしを引き留めようとしなかった。
一番大きな家にたどり着く。その家の二階の窓のついたお部屋。ずっと前、あたしはあそこにいた気がする。すごく暖かい場所。大好きな人と一緒に。
あぁ……何でずっと忘れてたんだろう。
少しの間その家の前で立ち止まっているとその家から姉と吸血族の男性が出てきた。
「「……え。」」
姉と目が合う。
なんでこの家から姉が出てくるのだろう。
動きの止まった私たちを見て、男性が声を出す。
「メルリーナ様、こちらの方とお知り合いですか?」
あたしは自分の名前に反応し、顔を上げた。返事をしようとその男性の顔を見ると、不思議なことに男性の視線は姉に向いていた。でも、名前を呼ばれたのは自分だ。
「あたし、妹。」
あたしの言葉で場の空気が凍り付いたのを感じた。でも、あたしは事実を言っただけ。
緊張して、言葉が足りなかったかも知れないけど、後は姉が説明してくれれば上手くいくはず。あたしはそう信じて疑わなかった。
「メ、メルリーナ様……。妹君がおられたのですか…?」
「メルリーナ様?」
周りに集まってきた人が次々に声を上げる。でも、それよりあたしが気になったのは名前の呼び方。
みんな姉を見て「メルリーナ様」と言う。
どういうこと…?
とにかくあたしは状況が掴めなかった。姉の名前は……。あれ…何だっけ?
姉の名前って何だろう。そういえばずいぶん前に聞いたとき、「メルリーナにはお姉ちゃん、って呼んでほしい。」とだけ言われた。でも、あたしはなぜかお姉ちゃんと呼びたくなくて姉のことは一度も呼ばなかった。状況が全く分からない。あたしはとにかく姉の方を見て、助けを求めた。
その時、姉はバッと視線を逸らした。そして、姉は両手に抱えたあたしが読みたいと言っていた絵本を強く握りしめながら言葉を紡ぎ出す。
「……し…らっない………あんな子、私知らない!!!早く追い出して!!」
このとき丁度、姉はメルリーナのところに行くつもりでした。昨日行ったばかりで普段ならもう少し日を開けるのですが、メルリーナが欲しがった本を早く届けてあげたかったのです。




