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牛飼いと守護精と  作者: 久保 公里
第1章
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第1章-8 チーズは売り切れました

 ライモンが出る間もなく、いつにない売れ行きでチーズが売れていく。


 元々数がさほどあったわけではない。だが、ライモンとしては昼なかばまでで売れればそれでよかった。売れ残るかもしれないと、思ってもいた。それがもう残り少なくなっている。


 噂が噂を呼んだのだろう、引きも切らずに客が立ち寄ってくる。それも若い娘が大半だ。たまに、その繁盛ぶりに何事かとのぞき込んで、売れ行きに興味を示して買っていくものもいたが。


 ライモンは口をはさむ隙すらない。最初にライモンがなじみの男性に売った値段より上がっているのだが、それを訂正する間もなかった。若者の言った値段のまま、そして値切ることもなく買っていく。それも若者に「お得ですよ」と囁かれると、二つを買っていった。確かに一つ買うよりは安いのだが、それでも少しとはいえ、ライモンの値付けよりは高い値段だが、だれ一人疑う者はいなかった。


 いつの間にか、ライモンと若者の周りはチーズを求める列ができていて、ほぼほぼ若い年ごろの娘であった。


 ライモンはただひたすら、荷車の中からチーズを取り出し、若者に渡していくだけだった。


 あっという間に、チーズがなくなっていく。ライモンは取り出したチーズを若者に渡して言った。


 「これで最後だ」


 「わかりました」


 若者はライモンに向かって頷くと、チーズを大事そうに若い娘に手渡した。


 「あなたは運がよいようですね。これが最後のチーズです。ありがとうございます」


 銅貨を受け取りながら、若者はにっこりと娘に笑いかけた。娘は頬を赤らめながら、チーズがまるで大切な宝物であるかのように抱きしめた。


 「最後ですって」


 素っ頓狂な声があたりに響く。ふと見れば、並んでいた娘のひとりが怒ったような表情でこちらを見ていた。


 「順番に並ばなくては売らないというから、わざわざ並んでいたのに、売り切れですって。では、並んでいた私はどうなるの」


 「残念だが、お嬢さん」


 ライモンは一歩前に出ると、その栗色の髪の娘に対峙した。


 「ないものはないんだ。並んでもらって悪いとは思うが、ない袖は振れない。申し訳ないが今日のところは帰ってくれ」


 「なんですって」


 娘はまなじりをきっと釣り上げた。


 「そのへんの街の娘には売っておいて、私には売れないっていうの!? 冗談ではないわ」


 娘はひょいと荷車の中を覗き込んで、布の包みを見つけた。それを見て、目を輝かせる。


 「その包みは何? それも売り物ではないの」


 「申し訳ないが、これはお嬢さんには売れない。もう売り切れだ。諦めてもらうしかない」


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