第3章-15 気づかぬ思い
「ええ、ふたりにもライモンが牧場主としてひとりで決断を下そうとしているのを知っていて、だから何も言わないのですが、それでも彼らとてあなたに相談したいことがあったり、頼ってもらいたいと思っていたりすることは、考えたことはありますか」
「いや」ライモンはわずかな沈黙の後、かぶりを振って言った。「いや、考えたこともない。俺はずっと、俺が決めなくちゃいけないと思っていて、相談しなきゃ、とか考えたことはない」
それを聞いて、守護精は静かに微笑んで言った。
「ライモン、あなたが頼ってほしいように、ふたりもあなたに相談してもらったり、頼ってもらったりしたいのですよ。あなたが悩んでいれば、その悩みを分かち合いたいと思っていると思います。あなたがふたりから相談を持ち掛けられたいと願ったり、頼られたいと思ったりするように」
「俺から、頼られたい……」
ライモンは片手をあげて、髪の中に手を突っ込んだ。後悔とも、情けなさともつかぬ表情がその顔を覆っている。それから、彼は大きく息をついた。
「情けないなあ。俺はそんなことは思いもしなかった。俺は早く一人前になって、ふたりを助けなきゃとだけ、ずっと思っていた」
「アカネもロウゼンも、あなたの思いはわかっていますよ。ふたりはあなたがしたいようにさせているのではないですか」
守護精のおだやかな言葉に、ライモンはうなずいた。
確かに、ふたりはできるだけライモンの思うようにさせてくれている。時折、反対されることはあっても、それはライモンの無茶や無理を諫めているだけだ。
「ふたりとも、ライモンを認めているのですよ。あなたがこの牧場の主であり、ひとりの男として。そうではありませんか」
ライモンは驚いたようだった。顔を上げて守護精を見やる。そして、そこに守護精の整った顔と、鋼色の鋭くも暖かい光を放つ瞳があった。それは彼を静かに見守っている。
ライモンは再び頷くと、ため息をついた。
「そうだな。そうなんだよな。俺は認められたくて一生懸命だったけど、本当はちゃんと認められてたんだ。俺がそれに気づかなかっただけのことなんだな」
呟くようにそう言って、彼は柵に寄り掛かるように空を見上げた。風がライモンの髪をそよがせていく。
振り仰いだ空は、先ほどよりも青さを増したようだ。薄く刷いたような雲がアクセントになっている。