第3章-2 牧場の仕事
確かにやることは山ほどあった。ランプをいくつか牛舎の柱にかけて明るさを確保すると、三人は仕事にかかった。ロウゼンは何も言わずとも彼のやるべきことはわかっている。ライモンは守護精と共に仕事に取り掛かった。
驚いたのは、昨日ライモンが守護精にした指示を、彼がほぼ覚えていたことだ。昨日やったことは、ライモンが一言指示しただけですぐに理解して取り掛かる。そのうえでわからないことがあれば、素直に訊いてきた。汚れ仕事も、力仕事も厭わない。ライモンの牧場で、たまに一時的に人を雇うこともあったが、その誰よりも真面目に一生懸命に、若者は仕事をしていた。
守護精に果たしてこのような仕事がふさわしいのか、というのは置いておいて。
牛舎を掃除し、新しいエサをやり、それから搾乳にかかる。初めは戸惑っていたような守護精も、ライモンが根気よく教えるとコツを覚えたのか、器用に乳を搾り始めた。これなら任せても大丈夫だろうと、ライモンは自らも搾乳を始めた。
桶にいっぱいの牛乳を貯めると、それを樽のところまで運び、樽に移す。再び搾乳して桶に牛乳を貯め、と同じことを何度も繰り返す。樽がいっぱいになると、蓋をしてアジロの店のものが取りに来るのに備えた。
仕事は、牛舎だけではない。ライモンの牧場には馬房もあるし、豚舎もある。牛に比べれば数は少ないが、それでも世話は欠かせない。ライモンとロウゼンは手分けをしてすべての世話を行う。
今日はそれに守護精が加わった。ライモンとロウゼンがさくさくと仕事をこなしていく。守護精はふたりの指示で動いていた。それでも三人で行うためか、いつもより早く朝の仕事が終わる。いつの間にか夜が明けて、太陽はすでに空高く、外はまばゆい朝の光に包まれていた。
「終わった、かあ」
牛舎の外に出ると、ライモンは腕を上げて大きく伸びをした。それを見ながらロウゼンが笑う。
「まだ鶏舎が残っていますがね。私より年寄りみたいですよ、坊ちゃん」
「はいはい、年寄りで構わないよ。早く終わって何よりだ」
「そうですねえ。若いのがよく働いてくれましたから」
「そうだな」
ライモンはうなずいた。ロウゼンが言うことを認めるのはやぶさかではない。よもや守護精が、あれほど仕事ができるとは思っていなかった。見た目が華奢だし、最初着ていたものが貴族のような贅沢なものだから、てっきり見た目と同じように働くことに慣れていないものと思っていた。
だが、守護精は動くこと、働くことを厭わなかった。むろん、初めてのことだから戸惑ってはいるようだったが、できることはしようと動いていた。その姿勢に好感が持てる。