第13章-26 訪問者
牧場に近づくと、ざわざわとした雰囲気が伝わってきた。普段とはあきらかに違うざわついた雰囲気。
「ん? なにかあったか」
ライモンがひとりごちる。それをセイジュが聞き取った。
「ライモン?」
「いや、なんかおかしくないか?」
「なにがです?」
牧場に来てまだ日が浅いセイジュには、この雰囲気は感じ取れないようだ。モエギはわかるようだが、なにも言わない。
入り口の門までくると、馬車と馬が何頭か見えた。それも飾り付けられた立派な馬車と、馬もこの辺ではめったに見ない軍馬のようだ。
「どなたか来ているようですね」
モエギがすぐに状況を見て、ライモンに問いかけるように言った。ライモンは、ああとうなずく。
「誰が来たんだろう。まさか、陛下や姫さまじゃないよな。もうとっくに王都に帰ってるんだろう」
その言葉に、モエギが小さく笑う。
「ええ。陛下や姫さまはすでに王都に戻られていますよ。だから、別の方でしょうね」
「別の方……」
いぶかしみながら、ライモンは門をくぐって牧場の中に入っていった。馬のそばには何人かの騎士らしきものがいて、ライモンがそばを通ると、彼が誰か気付いたのか、すっと一礼するものもいた。
「あら」
シラフジが楽しげな声を上げる。彼女の視線を負って、ライモンは母屋のほうを見た。入り口のあたりにロウゼンと、こちらに背を向けている男がいた。その背に隠れて、かすかに見えるのがアカネだろう。
その背に、あまり見覚えがなくて、ライモンは首をひねった。かなり高価そうな服をまとっている。背は高いが、どちらかと言うと痩せ気味だ。
「坊ちゃん」
ロウゼンが彼に気づいて声をかけた。ライモンは軽く手を上げてそれに応え、その手がそのまま宙に止まる。
「おや、お戻りですか、次期さま、次代さま」
振り返ったその顔に、ライモンは覚えがあった。それは、先ほど話題の出たばかりの人だった。
にっこりと笑いながら、アイネズは優雅に一礼した。ライモンは小走りに彼に近づく。
「アイネズさま」
「ご無沙汰しております、次期さま」
間近でアイネズは手を胸に当てて、軽くお辞儀をした。
「どうしたんですか、ご領主さまがこのようなところに来て、いいんですか」
「ええ。このような機会を私が逃すとでもお思いですか」
「いや、ご領主さまなら、呼び出せばいいんじゃないかと……」
「私が? たかが地方領主の私が次期さまを呼び出すのですか? ありえませんね。そのようなことをするくらいなら、足を運びますよ。当然ではありませんか」
それにしても、先に知らせてくれれば、とライモンは思ったが、アイネズの笑顔を見ると、なにも言えなくなった。




