第13章-24 嫌がらせ
ため息を隠して、ライモンは応える。
「放牧するなら、一頭だけというのも、おかしな話じゃないですか。それもこんなところに、ですよ。わざわざこんなところまで一頭だけ連れてくるって、変じゃないですか?」
「そうだな、おそらく嫌がらせだろうからな」
平然と答えたライモンに、セイジュはえ、と驚いた表情を浮かべた。
「それ、どういうことですか」
「ときたまさ、うちの牧場の近くで、迷子の牛が見つかることがあるんだ。そいつを保護するんだが、このあたりで牧場と言えば、うちとフウケツのところだけだ。それで、フウケツのところに連れていけば、うちがさらったんじゃないかとさんざん言われる。保護したのにだ」
「そりゃ、理不尽ですねえ」
呆れたように、セイジュがつぶやいた。うんうん、とライモンはうなずいた。
「まあ、フウケツのところの牛だっていうのはわかってるから、相手にせずにおいて帰るんだがな。まあ、しつこいったらありゃしない。わざわざさらった牛を返しに行くか? 俺たちはそんなに暇じゃない。けど、うちに置いておいたら、それこそなにを言われるかわかったもんじゃないからな。返しに行くしかないんだけどな」
「でも、なんでそんなことをするんですかねえ」
「うちに罪をなすり付けたいんだろうさ」
へ、とセイジュは狐につままれたような表情をする。ライモンはその顔を見て、笑いを堪えるのに必死だった。
「なんで、そんなことを」
「うちの牧場が欲しいんだろうさ」
こともなげに、ライモンは言った。
「うちは俺と母さんと、ロウ爺の三人だけだろう。他の牧場の牛を盗んだとかなんとか言われて、代官にひとりでも連れていかれれば、たちまち立ち行かなくなる。それを狙ったんだろうが。うちの牛じゃなければ、フウケツのところの牛しかいないんだ。さっさと戻しに行くに決まってんだろうに」
「うちの牛じゃない……?」
セイジュが小首をかしげて、繰り返す。うん?とライモンは訊き返した。
「よく、自分のところの牛じゃないとわかりますねえ」
ライモンはそれのどこが不思議なのか、よくわからなかった。
「え、わかるだろう。うちの牛のことくらい」
「あんなにいるんですよ。他のところの牛が混じっていたら、わからなくなりませんか」
「なんでわからなくなるんだ? うちの牛は全部わかる。他のところの牛がいれば、簡単に見分けられるじゃないか」
「ええ? あの牛、全部見分けられるんですか?」
「当然だ」
ライモンは理解できない、というように首を傾けた。
「うちの牛だぞ。一頭一頭違うじゃないか。大きさも体の模様も、全部違う。それぞれの特徴はちゃんと頭に入ってる。見知らぬ牛がいれば、当然わかるだろう」




