第12章-40 アカネとフヨウ
アカネが微笑んで馬車のほうに向かいはじめた。フヨウもつられるように、彼女の隣をゆっくりと歩きはじめる。
「ライモンさまは、それは確かに王城の礼儀作法には通じておられませんが、それは学べばよいことです。それよりも相手に対して礼儀を尽くしておられる、そのほうが重要かと存じますわ」
ほほ、とアカネが小さく笑う。その笑みに、フヨウはなぜか懐かしさを感じた。
「お城の姫君にそのようにおっしゃっていただくなんて、光栄ですこと。まだまだ未熟ものですけど、よろしくお願いしますね」
その言葉に、フヨウは目をしばたたいて隣の女性を見つめた。
「そのような……もちろん、わたくしにできるお手伝いはさせていただきますが……」
フヨウは一瞬、ライモンが向かったほうを見やり、それから再び前を向いた。
「大丈夫ですわ。ライモンさまなら、わたくしだけでなく、多くのものから手助けを得られましょう。それを素直に聞きいれる度量もお持ちかと。お話させていただいて、わたくしはそう確信いたしましたわ」
アカネはくすくすと笑う。
「それはずいぶんと買っていただいたもの。あの子がねえ。そんなものですかねえ。ありがとうございます。あの子のそばに、あなたのような方がいらっしゃると思えば、私も少し安心できます」
そう言って、アカネは深々と頭を下げた。フヨウは驚いて手を振った。
「そのようにおっしゃらないでくださいませ。わたくしはわたくしにできることを為すだけですわ」
アカネは苦笑するかのように微笑んだ。それからすっと先に立って、馬車のほうに歩きだす。フヨウは一瞬驚いたように眼を見開いたが、すぐに微笑んで小走りにアカネのあとを追い、その横に並んだ。
「あの子は……」
つぶやくようにアカネは言い、フヨウは歩きながらその横顔を見つめた。
どこかライモンに似た横顔。むろん、アカネは女性だし、年相応に老けてはいる。だが、確かに血のつながりを感じされる面影があった。色は異なるが、眼のはし、口元、鼻の先、そんな些細なところが似ている。
「ライモンはここで生まれ、育ちました。幼いころから人よりも動物たちと接することが多かったのです。人もたいていは私やロウゼンのような大人ばかり。街には私の実家の取り合いの商家があり、そこの子供とは幼馴染として育ちましたが、年に一度会えばいいほう。それゆえか、あまり人との接し方を知りません」
フヨウに聞かせるでもなく、アカネは淡々と言った。まるで、ひとりごとのようだった。ゆっくりとその隣を歩きながら、フヨウはそれを聞いていた。
「今まではそれでもよかったのでしょう。ですが、モエギが、次代さまが現れたのですから、これからはそれではすまなくなります。人の数も、街とは段違いでございましょう。ライモンが王都になじめるか、母として心配なのです」




