第12章-39 フヨウとアカネ
「フヨウさま」
「はい?」
呼びかけに、フヨウはやや上目遣いでライモンを見上げる。なんと言っていいのか迷った後。
「フヨウさま、先ほどはすみ……」
言いさしたライモンだったが、服の後ろを突然引っ張られて驚いて口を閉ざした。いつの間にか隣に来ていたモエギが、何気ないように引っ張ったのだった。だが、フヨウやアカネたちからはモエギはにこにことして、いつもと変わらないように見えた。
「モエギ、なにを……」
ライモンが文句を言いかけると、モエギは小さく頭を振った。それにライモンはふっと黙り込む。どうやら、モエギはライモンが言いかけたことを察して、それを言わせたくなかったようだ。それゆえ、ライモンは先を続けることができなくなった。
「ライモンさま?」
不思議そうに見てくるフヨウに、ライモンは慌てて言った。
「あ、なんでもないです」
おそらくだが、モエギが止めたのは、先ほどハシドイが言った理由と同じなのだろう。
フヨウは少しきょとんとした表情を見せたが、すぐに小さく笑う。
「あ、そうだ」
ふと、ライモンが思いついたように手を叩いた。
「フヨウさま、もう発たれるのですよね」
その問いに、フヨウは戸惑ったようにうなずいた。
「え、ええ。そろそろ発ちませんと、父との約束に遅れてしまいますわ」
「ですよね。フヨウさま、先に馬車のところまで行っておいてください。すぐに行きますので」
「え」
フヨウは少し手を上げて、ライモンのほうに差し伸べたが、彼は気付かぬように踵を返して、母屋のほうに向かって駆けだした。それにモエギが続く。
ハシドイがセイジュにくっと顎を引いてみせると、セイジュは心得たかのようにひとつうなずいて、ふたりのあとを追った。
それを見送って、ハシドイはフヨウに向き直った。
「姫さま、次期さまがおっしゃったように、馬車にてお待ちしましょう。そろそろお立ちになりませんと」
「え、ええ。ハシドイ。でも、ライモンさまはどうなされたのでしょう」
突然のことに、フヨウは困ったように頬に手を当てた。ライモンの行動に戸惑っているようだった。
そこへ。
「不躾な息子で、すみませんね」
横からアカネがフヨウに声をかけた。フヨウは手を降ろしてアカネを見やり、ふるふると首を振った。
「いえ、そのようなことは……」
「田舎育ちなものですのでね。礼儀作法もろくに知りませんから。教えようにも、日々の生活で精一杯でしたし、ここではあまり必要とされませんから」
「そのようなことはございませんわ」
再びフヨウは優雅に首を振った。長い髪が背中で揺れている。




