第12章-37 間接的な
「なんと言いますか……」
「つまり、姫さまは用を足したいとおっしゃってたんですよ」
直接的な物言いを避けているかのようなハシドイに代わり、その場に残っていた若者が言った。
「セイジュ」
ハシドイがコホンと咳払いして、若者の名を呼ぶ。それでライモンはようやく彼の名を思い出した。
それから、彼が言ったことを考えて、顔を赤く染めた。口元に手を当てて、焦ったようにつぶやく。
「あ、ああ、そうか。それならそうと言ってくれれば……」
「次期さま」
ハシドイの咎めるような声音に、ライモンははっと顔を上げた。騎士は厳しい表情でライモンを見つめていた。
「姫さまはうら若い女性でいらっしゃいます。そのようなことを口に出すことははばかられるものです。それゆえ、湾曲な表現を用いられたのです。女性はそういうものではありませんか」
その言葉に、ライモンは考え込んだ。
ライモンには女性の知り合いは少ないが、そう言われれば、母のアカネもはっきりと口にしたことはないように思う。エニシダからも、聞いたことはない、と思う。
「ああ、うん。そういうものかもしれないな」
戸惑ったようなライモンに、ハシドイはほうっと吐息をついた。
「ほかにもいろいろ表現はあります。これに限らず、王宮においては、直接的な表現よりも、間接的な表現が多く用いられます。次期さまには迂遠とお思いになられるかもしれませんが、言葉通り受け取っていれば、恥をかくこともございましょう」
「恥?」
「はい。次期さまを傷つけることは守護精さまのお怒りを受けることになりますゆえ、直接的に手を出すものはおりません。ですが、次期さまの出自はすぐにでも王宮内に知れ渡るでしょう。言葉のままに受け取って、陰で嘲笑うことはできます」
ハシドイの隣で、セイジュがまじめな表情でうなずいている。
ライモンにはわからないことだが、そう言われれば、昨日の領主館で貴族たちの目に、まるで汚らわしいものでも見るかのようなまなざしをしているものがいた。不快気に見てくる視線があることにも気づいていた。ただ、知らぬふりをしていただけだと、今ならわかる。
ライモンはごくりとつばを飲み込んだ。
「ありがとうございます。俺がもの知らずでした。これからはそういうことも、学ばなければなりませんね」
ハシドイの唇から、安堵にも似た吐息が漏れた。
「はい、わかっていただければよろしいのです。王宮にはさまざまなものが出入りいたします。笑顔の下で、誰がどのような思いを持っているか、今の次期さまでは想像もつかぬことでしょう。ですが、次期さまには次代さまがいらっしゃいます。あの方から少しずつでも学んでいかれればよろしいかと存じます」




