第12章-35 成長
「それを欲張りとは思いませんわ。誰しもが、そのような思いを抱くことはあるでしょう。わたくしだとて、そうですもの。もっともっと知りたい。知らねばならぬことがある。それを、そうですわね……」
言葉を探すように、フヨウは宙を見つめた。瞳がかすかに揺れている。
「それをたぶん、人は成長と呼ぶのではないでしょうか」
フヨウにしては珍しく、自信なさそうな物言いだった。わずかに頬が赤く染まっているようだった。
ライモンははっとしたようにフヨウを見やり、それから笑みを浮かべてうなずいた。
「そうですね、きっとそうだと思います。フヨウさまは、よい言葉を知っていらっしゃるのですね」
そんな、とフヨウは恥じらうようにかすかに首を振った。それから、ふたりは再び顔を見合わせて、笑いあった。小さな笑い声を、風が運んでいく。
「成長かあ。うん、できるといいですね。俺はもっともっと知らなければいけないことがたくさんある。これから大変だろうな、と思うけど、そんなときはフヨウさまの言葉を思い出すことにします」
「まあ」
フヨウは口元に手を当てて、小さく笑った。
「それは光栄ですこと」
少しの間、フヨウはくすくすと笑っていた。ライモンはそんな彼女を眩し気に見つめる。
やがて、フヨウは笑い収めると、まっすぐに牧場を見やる。まじめな表情の中にも、その口元に笑みが宿っていた。
ライモンは不思議そうに彼女を見やり、声をかけた。
「フヨウさま」
だが、フヨウは何も答えなかった。ゆっくりと牧場の中を見回していく。
彼女の瞳の中に何が映っているのか。牧場なのか、それとも別のものを見ているのか。
ライモンにはわからなかった。彼の瞳に映るのは、幼いころから変わらない、いつもの風景だった。見慣れた、ずっと変わらないその光景。
「わたくし……」
ややあつて、フヨウは吐息をついてから言った。ライモンははっとしたように彼女を見やる。その横顔はどこか晴れたような表情があった。
「わたくし、ここに来れてよかったと思いますわ」
誰に聞かせるでもない、ひとりごとめいたつぶやきだった。だが、それは風に乗ってライモンの耳に届く。
フヨウはゆっくりと首を巡らせて、ライモンのほうに向きなおった。そしてにこっと笑う。
「わたくし、ここに来て良かったと思います。ライモンさまとお話しできて、うれしかったですわ」
ライモンは目を細めて彼女を見つめた。太陽を背にしているわけでもないのに、フヨウはどこか眩しかった。
「俺も、俺もフヨウさまが来てくださって、うれしかったです」
ふたりはどちらからともなく、同時に笑みを浮かべた。それが声になるのに時間はかからない。くすくすと、ふたりは笑いあった。




