第12章-33 うらやましい
「わたくしたちは知らないことが多くて。でも、それはこれから知ることが、学ぶことができます。知らなければ、知ろうとすればよいのですから」
「そうそう」
ライモンは少しおどけたように言った。
「知らない分だけ、俺たちは成長できるんです。そう思えば、知らないことが多くても、知ることがたくさんあって得だと思いませんか」
「そうですわね」
フヨウはうなずくと、ライモンを少しまぶし気に見やった。そのややすねたような、うらやまし気なまなざしに、ライモンはちょっと首を傾げた。
「フヨウさま?」
「わたくし、ライモンさまがうらやましいのですよ」
「俺が?」
フヨウがこくりとうなずく。
「ライモンさまはここで生まれ、暮らしてきた中の体験や知識をお持ちです。それは、わたくしにないものですわ。とても貴重なものをお持ちですのね」
「俺の?」
ライモンは心底驚いたように彼女を見つめた。目が丸く見開かれている。
「でも、俺にはなんていうか、教養とか学問とか礼儀作法とか、そういった多分王宮で必要となるものは、なに一つ持っていませんよ」
「いいえ」
フヨウは静かに首を振った。それから優しいまなざしでライモンを見つめる。
「わたくし、ここをほんの僅か、のぞいただけですが、ここでの体験がとても貴重で、大切なものと感じましたわ。ライモンさまにとっては、ここでの暮らしは生活でしかないのかもしれません。ですが、王宮のもの誰一人として、そう、学びの塔の教師たちですら持ちえない知識と経験をお持ちです。これは得難いものだと感じておりますの」
「俺の暮らしが?」
「はい。父もわたくしもそうですが、王宮でいるものたちは誰ひとりとしてこのような暮らしをしたことがあるものはおりません。むろん、ここの領主のように地方に領地を持って、そこで暮らすものもおりますが、民に交じって暮らすものはいないでしょう。ライモンさまのように、大地に根差して生きることを知るものは、いないのですよ」
フヨウの言葉に、ライモンは返す言葉を持たなかった。
「それが良いとか悪いとか、そういう話ではないのですよ。ですが、国を支える民がどうやって生きるのか、実際に知っていることは、ライモンさまにとって強みとなりましょう」
「強み?」
「ええ。誰も知らないことを知っているというだけで、ライモンさまは有利、ということですわね。それは将来、政を行うときに生きてくるかと思います。ですから、わたくしはライモンさまがうらやましいのですわ」
そういって、フヨウは小さく笑う。ライモンは少し呆然としたようすで彼女を見つめていたが、やがて髪をかきながら首を横に振った。




