第2章-21 当然でしょう
「うーん、そんなはずはないんですがねえ」
納得のいかないような物言いだった。
ライモンはと言えば、幾分ぬるくなったお茶を流し込んで、たん、と音を立てて茶碗を置いた。その音で、アカネとロウゼンが彼のほうに向く。
「ロウ爺がもてたのはわかった。でも、今はその話じゃないだろう。なんでふたりとも、守護精が俺の元に現れたことに疑問を持たないんだ」
ライモンは茶碗を置いた時の格好のまま、母とロウゼンを交互に見やった。それに困ったようにアカネが苦笑する。
「だってねえ」
アカネはロウゼンをちらりと横目で見やりながら言った。その視線の向こうでロウゼンがゆっくりとうなずく。まるでアカネが何を話すのかわかっているかのように。
「あなたはおばあさまのひい孫なんだから、守護精さまが現れたっておかしくはないでしょう」
うんうん、とロウゼンがうなずいている。それを見てライモンは首を振る。
「いや、おかしいだろう。俺は貴族でもなんでもなく、ただの牧童だぞ。なんで、そんな俺の元に守護精が現れる」
「あら、私の息子ですもの。当然でしょう」
親ばかにも程がある。そう思って呆れて顔を上げれば、ロウゼンが再び頷いていた。
「儂なんぞは、よくぞ領主の若君のところに現れずにいてくれた、と思いましたぞ。さすがに守護精さま、見る目がございますなあ」
「ロウ、そんなことを言わないの。噂で人を判断してはいけないわ」
すかさずアカネが穏やかにロウゼンをたしなめる。ロウゼンは髪をかきながら、器用にも頭を潔く下げた。
「これは失礼を、奥様。かの御仁はあまり良い話は聞きませんのでね。つい。申し訳ない。まあ、うちの坊ちゃんのほうが守護精さまにはふさわしいというのは、撤回はしませんがね」
ライモンは呆然として口を開いたままだった。顎が外れるかと思うほどだ。
「なんでそうなる」
がっくりと、ライモンは肩を落とした。だが、ロウゼンは平然とみっつめの菓子に取り掛かっている。
「若君は今、学び舎におられるが、今回の行幸で一行の案内を兼ねて戻っていると聞いています。つまりは、守護精さまの目に触れる機会もありましたでしょう。それでも現れなかったのですから、まあ幸いですな。うん、守護精さまは見る目がおありだ」
ぺろりと菓子を平らげると、ロウゼンは視線を守護精の皿に視線を移した。守護精の前に置かれた皿は、まったく手が付けられていなかった。それに気づいた若者が、どうぞと笑いかけながら彼に菓子を譲る。それを遠慮せずにロウゼンは自分の前に置いた。
「そう、それだ」
ライモンは思い出したように言った。