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牛飼いと守護精と  作者: 久保 公里
第1章
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第1章-5 見つけた……

 なんとなく、ほっとしたような、寂しいような、複雑な思いがライモンの胸の内に湧き上がる。もう一度、見てみたいような。だが、ライモンのようなものが国王一行に会うことなどもう二度とあるまい。あるいは、国王が還御するときにまた見ることはできるかもしれないが、ライモンには牧場の仕事がある。そうそう街に出てくるわけにはいかなかった。


 国王一行が通り過ぎると、人々も三三五五に動き始める。ライモンはそれに気づいて、慌てて店の準備を始めた。荷車から板を出して、その上に布を敷き、自家製のチーズを並べる。その様子をちらちらと横目で見ていくものはいるのだが、わざわざ立ち止まって品定めしようとするものはいなかった。


 周りでは、この人出を当て込んで、ライモンと同じように自分で作って野菜や果物を売る店が並んでいる。だが、お祭り気分を味わっている人々は、歩くのに邪魔になるものをまだ買う気分ではないらしい。たまに冷やかしが値段の交渉をしている姿は見かけるものの、どこも売れ行きは芳しくない。


 その一方で、飲み物や軽食を売る店には人がとりまいている。国王の行列が通る間は、そちらに夢中になっていた人たちが、空腹やのどの渇きを覚えたのだろう。行列になっているところもあるようだ。


 それが羨ましくはあるが、羨んでも仕方がない。ライモンは少しため息をついて、ゆっくりと体の向きを変えた。と。


 「見つけた……」


 かすかな声が目の前からした。いつの間にか、見知らぬ若者が立っていて、ライモンをまっすぐに見つめている。その距離の近さに、ライモンは思わず後ずさるほど驚いた。


 「な、なんだ。お前はいったい……」


 ライモンの疑問には応えず、彼が開いた分だけ間を詰めながら、若者はライモンに迫ってくる。


 「やっと見つけた。このようなところにおられようとは。わが主よ」


 「はあ?」


 なんだ、こいつは。


 思わず、ライモンはそう思い、まじまじと若者を見やった。


 まったく見たことがない青年だった。


 年のころはライモンと同じくらい、十七か十八か、そのあたりに見える。整った顔立ちに、灰色にも見える瞳と、同じ色の髪をしている。灰色と言っても、光が当たると硬質の輝きを放つ、不思議な色合いだった。背格好もさほど変わらない。


 だが身にまとう服は、ライモンが到底着られないような上等なものだった。それが自然に似合っている。今日のために着てきた一張羅という感じはしない。


 「やっと会えた……」


 感極まったように瞳を潤ませて、若者はゆっくりとライモンに近づき、その手を彼の腕に触れた。その瞬間、ライモンは何かしびれるようなものを感じ、邪険にその手を振り払ってしまった。


 若者のきれいに整った顔に傷ついたような表情が浮かぶ。その表情にライモンは罪悪感にさいなまれ、それが彼を苛つかせた。ちょっと手を振り払ったくらいで、全力で拒否されたような顔をされて、まるでこっちが悪者のようじゃないか。


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