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牛飼いと守護精と  作者: 久保 公里
第1章
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第1章-4 国王陛下と守護精と

 「陛下!」


 「国王陛下!」


 「守護精さまだ」


 ささやきは次第に大きくなり、人々は口々に王を呼んだ。熱狂したように手を上げ、振り続けるものもいる。それにこたえるかのように、時折王と思われるその人は手を振り返した。


 ライモンのところからでは、国王がどのような顔をしているのかわからなかった。遠すぎるし、人々の手やどこからか撒かれている花びらにさえぎられてよく見えない。だが、濃い緑色の服をまとい、その髪が濃い金色であることはわかった。


 その隣の白っぽい色の髪の男性が、おそらく守護精だろう。


 ここノルカ王国には建国以来ひと振りの宝剣が伝わっている。大波動師であったセイ=カイハが鍛え、初代国王のセイリュウが持っていたと伝わる宝剣だ。宝剣は精霊を宿し、その精霊は守護精と呼ばれ、守護精はおのれの主を自ら選び、選んだ主が王になると言われている。


 それは、ノルカの民であれば誰しもが知る話だった。


 一人の守護精はひとりの主に殉じるとも言われている。主たる王が亡くなると、その守護精もまたいなくなるという。それゆえ、王が立ってからしばらくすると、次の守護精が現れ次期国王を選ぶ、という話だ。


 まるで御伽噺だな。ライモンはひとりそうごちる。


 そう思いながらも、国王と守護精から目が離せない。なにか引き付けられるように、彼はふたりを見つめ続けた。


 と、守護精が何かに気づいたかのように主から目を離し、ゆっくりと首を巡らせた。その眼差しが、ライモンに照準を当て、見入る。まるでその瞳が極間近にあるかのように。


 ライモンは少しの間、その眼差しに縫い留められたように動けなかった。


 視線が絡み合う。どちらもが相手を見て、目があう。


 自分が見つめられているなど思えるはずのない距離だが、だが、実際に守護精の瞳の力にからめとられたかのようだった。守護精は間違いなく、ライモンを見ていた。


 あたかも、空中で見えない火花が散っているかのようだった。


 やがて、守護精が国王に話しかけられて、視線を外した。その刹那、呪縛が解けたかのように、ライモンはようやく大きく息をついた。


 長いような、短いような時間だった。守護精に見られていたのは、時間にして瞬間にも等しい時間だっただろう。だが、永遠にも近い時間に感じられていた。


鼓動が早いのがわかる。どくどくと音を立てているかのようだ。


 なにがあったのだろうか。何故、守護精は自分を見ていたのだろう。どこか驚きの表情を浮かべてはいなかっただろうか。


 とはいっても、そんな表情がわかるような距離ではない。だが、まなざしと共にその思いが伝わってきたような気がした。


 ライモンはふと顔を上げようとして、守護精が何かを探すかのように当たりを見渡しているのに気付いた。とっさに見つからないように、しゃがみ込む。この人垣だ。こうしていれば見つかることはないだろう。反対に、ライモンも国王一行を見ることもできないが。


 歓声が徐々に動いて小さくなっていく。それでようやくライモンは立ち上がった。人々越しに見れば、国王と守護精の背中が遠く小さくなっている。その後ろに続く騎士たちもまた最後の一騎が目の前を通ったところだった。


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