第2章-2 ライモンの疑問
ちらりと後ろの若者を見ると、のんきそうにどこぞで摘んだか草の葉をもてあそびながら、かすかに鼻歌を歌っているようだ。なんだかんだ若者を連れ帰ることになってしまっている。そのことがライモンを苛つかせた。
若者の周りには、行くときに持ってきたチーズの代わりに、ライモンが街で買い物とめたものや、エニシダが帰り際に持たせたものが置いてある。特にエニシダとアズ小母さんがアカネのためにと持たせた食べ物や珍しい食材などが荷物の大半を占めている。二人では持ち切れず、料理人の一人が一緒に荷車まで持ってきてくれたほどだった。
それにライモンが市で買い求めたものがある。生活の必需品やライモンにとってはちょっとしたぜいたく品だ。それだけ売れた、ということでもあったのだが。
若者にもお金を渡してあるので何か買うのかと思ったが、珍しそうに、面白そうに店先をのぞくだけで何も買わなかった。ライモンが値切ったりすると、自分の金を渡そうとしようとしたりする。交渉も買い物の醍醐味の一つだと言うと、きょとんとした表情をしていた。
つくづく、変わった若者だと思う。いまだに名前もわからない。それでいて、ライモンにずっとついてきた。
ライモンを主と呼び、宝剣の守護精だという。それがライモンには解せない。
宝剣は王都にあり、その守護精というのに宝剣と離れていても問題はないのだろうか。王都ははるか彼方、ライモンがいまだ行ったことのない想像の向こうだ。
それに、守護精といえば人の子ではない。波動の生き物だ。人の子と同じような姿かたちを持ちながら、だが全く違うものだという。
ライモンが波動について知っていることは少ない。まわりに波動を扱えるものがいない、というのもその理由の一つである。
この世の全ては、波動から成り立っている。その波動に働きかけ、動かすことができるものが稀にいた。それを波動師と呼ぶ。
その才を見出されたものの多くは、王都のある学びの塔に行き、波動師として各地に散っていく。 波動師の中でも多いのが、治療師として地域に根付くものだ。人の身体にも及ぼせる波動で人々を癒し、塔で学んだ知識で薬を調合する。
だが、波動師自体の数が少ないので、治療師も少ない。めったにお目にかかれないわけである。
そして、その波動の生き物がここにいる。本当に若者が守護精ならば、そういうことになる。
だがなぜライモンの元なのか。それがわからない。貴族とまったく縁がないかというとそうでもないのだが、守護精が現れるほどの縁かと言われれば、首をひねらざるを得ない。