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牛飼いと守護精と  作者: 久保 公里
第1章
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第1章-3 期待に満ちて

「で、お袋さんは大丈夫なのか」


 その問いに、ライモンは微笑んで頷いた。


 「ああ。最近は少し調子がいいんだ。ただまあ、今日は朝が早いし、人が多くて気疲れするだろうから、と来なかったんだ。お前によろしく言っておいてくれと言われたよ」


 「ああ、それならいいんだ。一緒にいなかったから、どうかしたかと焦ったよ」


 「うん、ありがとうな」


 ライモンは微笑んで、アジロの肩を小さくたたいた。アジロは何か言いたげに口を開けたが、遠くから名を呼ばれているのに気付いて、そのまま口を閉ざした。


 「ああ、すまない。あとで来るから俺のチーズは絶対売るなよ」


 「わかった、わかった。店のほうに持って行こうか」


 「ああ、いや、今日は店のほうも立て込んでいるはずだから、もし俺が来れなくても誰か寄越すよ。じゃあ、また後で」


 片手を上げながら、アジロは人混みの中に消えていく。それにライモンも片手を上げて応えながら見送った。


 そんな彼にどん、と人がぶつかってくる。ますます人が増えてきているようだ。人々はライモンだけではなく、荷車の机にもぶつかり、そのたびに荷車はゆらゆらと揺れる。チーズが落ちてしまいそうで、ライモンは慌ててチーズを荷車の中に仕舞った。その中には、布に包んだチーズがある。それがアジロとの約束のチーズだった。アジロはなぜか、このチーズが大のお気に入りだった。


 やがて、衛兵たちがやってきて、人々を街道の端に追いやり、中央を開ける。国王一行が通るために道を開けたのだとわかる。人々がいる場所がますます狭くなり、身動きが取れなくなるほどに込み合う。どこかで押された子供の泣く声がした。


 まもなくだ。その期待が人々の興奮を静かに掻き立てる。


 再び頭上でポン、ポンと花火の音がして、大門のほうで歓声が起こった。国王一行が街に入ってきたのだと知れた。そして、歓声が徐々に近づいてくる。


 どよめきがさざ波となって伝わってくる。時間がゆっくりと流れているかのようだった。


 そうして、ライモンの視界にもようやく国王一行が見えてきた。それは先触れの騎士たちだったが、周りの者たちはわっと声を上げた。騎士たちは二列になって粛々と進んでいく。陽の光に騎士たちの鎧がきらきらと輝いている。


 ライモンの位置からは人々の色とりどりの髪や、様々な帽子の向こうに騎士たちの胸より上が見えるだけだ。だが、ライモンとて興味がないわけではない。しっかり見て帰って母やロウ爺に話してもやりたい。幸い、ライモンは人よりも少しばかり背が高く、頭越しでも見えないことはない。ところどころ、肩車されている子供に遮られてはいるが。


 騎士たちの列は長いように思えたが、じきに馬車が続いた。この辺ではあまり見ることのないりっぱな天蓋馬車だ。領主が持っているが、それが見劣りする豪華さだった。さすがにライモンの位置からは乗っている人の姿は見えない。だが、前のほうから「王妃様だ」「お姫様だ」という声が聞こえてくる。王家の女性たちが乗っているのだと知れた。


 歓声がひときわ大きくなる。それにつられて、サイモンは振り向いた。馬車の列が途切れ、再び騎馬の列が現れた。そのなかに、鎧を着ていない者たちがいる。


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