第1章-17 何か問題でも?
そして、守護精が選ぶのは、初代国王セイリュウの血を引くものだということも、だ。
次期国王で、初代国王の血筋。それはすなわち、貴族たちの世界の話であって、ライモンたち庶民とは縁がない、雲の上の話ということだ。
だが、守護精を名乗る若者のまなざしはゆるぎない。否定されて悲しげではあるが、ライモンが主だということに確信を持っているかのようだ。
アジロは困ったように二人を交互に見やった。それからやや大げさにため息をついてみせる。
「まあ、今のお前は牛飼いだよ。それは間違いない。けど、それだけじゃないだろう」
ぴくり、とライモンの肩が揺れる。彼の周りが触れれば切られるような、すべてを拒むような雰囲気をまとっている。
「俺には彼が嘘をついているようには見えない。ちゃんと話を聞いたほうがいい」
「アジロには関係ないだろう」
ライモンは頑なに受け入れようとはしない。やれやれ、というようにアジロは若者に向かって肩をすくめてみせた。
ライモンは貴族になにかわだかまりがあり、嫌悪感にも近いものを持っているかのようだ。それが若者の言葉を真っ向から受け付けてないように見えた。
「ライモン様」
若者は小首をかしげて、ライモンに話しかけた。
「ライモン様」
「なんだ」
重ねて呼ばれて、ライモンは渋々と答えた。
「ライモン様が今現在、牧童であることは間違いございません。そして、ライモン様が私の主であることもまた間違いようのない事実です。それに何か問題がございますか」
「問題?」
思わぬ問いに、ライモンは驚いて繰り返した。予想だにしない問いだった。
「はい。ライモン様が牧童であり、またわが主であることに、何か不都合でもございますか」
にっこりと若者は笑った。彼の背後でアジロが小さく笑っているのが目の端に映る。だが、それに文句をつける余裕はライモンにはなかった。
「いや、だから、不都合とか問題とかではなくて」
「問題がないのであれば、ライモン様が私の主でよろしいではありませんか」
若者は無邪気に微笑んでくる。無邪気さを装って、というべきか。
「いや、そもそもの、俺が主だということが間違いだと」
それでもライモンは自分の意見を主張する。それに若者はふるふると首を振って否定した。
「間違いではありません。ライモン様はまこと、私の主です。私が間違えるはずはございません。 ライモン様が私の主であることは、まごうことなき真実。これを変えることなぞできません」
どこまで行っても、話は平行線のままだ。ライモンは思わずため息をついた。