第3章-37 守護精が食事をしない理由
ライモンが少し不機嫌そうに言った。食べ物を粗末にするのは性に合わない。それは子供のころからの躾でもある。日々の糧だ。それを作り、食べるまでにするのにどれほどの労力がいるか、ライモンは幼いころから知っている。
「お客様、ましてや陛下にはお出ししませんよ、もちろん。でも、少し焦げたからと捨てるようなことなどできないものがいるってことです。おそらくそんな人のほうが多いでしょう。陛下が治めておいでなのは、私たちのような者たちですわ」
アカネがそう言うと、トキワは少し考えこむようだった。ライモンはそんな彼の向かいに皿を置き、大きなコップにお茶を注ぎ、それに牛乳を足した。琥珀色のお茶に白い牛乳が渦を巻く。考え込んでいたようだったトキワがそれを見て、自分の茶碗を差し出した。
「私にもそれを」
当然のような要求に、少しムッとしながらも、ライモンはそのままお茶を注いだ。それから二煎目だったことを思い出して、それを国王に出してよいものか一瞬悩んだが、牛乳を足したそれを美味しそうに口に含むトキワを見て、まあ良いか、と思った。
「おまえはどうする」
そう言って、ライモンは振り向いた。返事も、次代の姿もなかった。そういえば、うちに入った時からいなかった。常に側にいるのが当たり前になっていることに、ライモンは気づいた。
「あれ。いない」
少し呆然としたように、ライモンはつぶやいた。それを聞き咎めて、アカネもまた困ったような表情を浮かべた。
「当代さまもいらっしゃらないのよ。お昼はどうされるのかしら」
ふたりの会話を聞いていたトキワが、割り込んできた。
「ああ、気にするな。守護精は波動の生き物だ。生きるために食事をとる必要はない」
「ですが、あいつは昨日、普通に食べていましたが」
困惑したようなライモンに、トキワは肩をすくめてみせた。
「生きるために食する必要はないが、食べることができないわけではない。彼らは存在するための波動を宝剣から得ているが、食物からも波動を得ることはできるらしい。食事にも付き合ってくれる。が、人の子のように食べなければ死んでしまう、ということはないようだ。気にするな」
「知りませんでした。昨日は普通に俺たちと一緒に食べていたから」
「そなたらが事情を知らず、食事を勧めたのではないか。そういう雰囲気を察すれば、普通に食事をするぞ、守護精も。気にする必要はない」
トキワはそう言うと、再び牛乳入りのお茶を口にした。
「それと、当代はおそらくこの牧場を見て回っているのだろう。何か危険はないか」
「俺の牧場に危険などありません」
トキワの言葉に反応して、ライモンは少し声を大きくして言った。そんな息子の腕をアカネが心配そうに押さえる。