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甘える

思ったより更新に時間がかかりました。すみません。

 あれから二週間、魔法師団には無詠唱魔法の助言をし、騎士団では一人一人の癖や潜在能力を考慮した指導をして、最初に任された精鋭部隊の強化に励んだ。訓練時間中、頭とスキルをフル稼働させた甲斐もあって無事後は各自に任せられるという段階まで完了することが出来た。伸ばすべきポイントと訓練方法も伝えたし、人によっては武器の変更もあった。恐らく訓練を始める前に比べて格段に戦力は向上しただろう。


「次は範囲を広げて一般の騎士たちもか。人数も増えるからなかなか大変になるなぁ。」

「綴理くん大丈夫?最近は全力で騎士団の人たちと訓練して、休みの日は私たちに付き合って貰ってるから結構疲れ溜まってるんじゃない?」


 指導の進行状況と今後の進め方について考えていると、言葉が心配そうな顔でそう言った。


「言葉と聖奈が治癒魔法かけてくれてるから問題無いよ。それに休みの日に出掛けるのは楽しいし。何より僕は言葉たちがいてくれるだけで十分癒やされてるから。」

「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり頑張り過ぎだよ。治癒魔法で疲れは取ってるけど、それとは別にしっかり休む日があった方がいいと思う。」


 そんなものなのかな?確かに日本にいた頃の僕は休みの日は一日中布団に籠もりきりっていう日も多かったけど、今は言葉たちがいるからな。魅力的な彼女に囲まれてたら布団に籠もりきりになる選択肢は無いと思うんだけど。


「う〜ん。でもなぁ、なんか時間が勿体無い気がして。」

「じゃあこういうのはどうかな。一回試しに丸一日甘やかされてみない?」

「と言いますと?」

「綴理くんは基本的に私たちがこれやりたいとかこれ欲しいとか言ったら全部いいよって言うじゃん?」


 確かにそうだな。それが生きがいみたいなところあるし。


「そうやっていっつも甘やかされてるからたまにはその逆があっても良いんじゃないかって。」


 成程、甘やかされる、か。僕としては十分甘えているつもりだけどそうでもないのか?


「ティアと聖奈はどう思う?」


 追加の判断材料が欲しくて少し離れた所でゆっくりしている二人に尋ねると、


「そうですね。私は言葉さんの言うことに賛成です。ツヅリさんはもっと私たちに甘えてくれてもいいと思います。」

「そうね。私もそう思う。綴理君も甘えてない訳ではないけど圧倒的に私たちの方が甘やかされてるのは確かだから。」


 という答えが返ってきた。どうやら皆同じように思っていたみたいだ。母の本質に気付いてから言葉たちに会うまでの間甘えるということから離れていたせいか、甘えるということを無意識に制限していたのかもしれないな。


「そっかぁ。でも甘えるにしても具体的に何すればいいんだろうか。」

「綴理くんがされて嬉しいこと、何かないかな?」


 三人が期待を込めた眼差しでこちらを見つめている。う〜ん、決めづらいなぁ。


「されて嬉しいことかぁ………あ!……いやなんでもない。」


 危うく男子高校生の煩悩が溢れてしまうところだった。いや多分頼んだら快く引き受けてくれるんだろうけども、ねぇ?流石にそれは変態が過ぎるので自粛自粛。 


「えっち。」

「ツヅリさん……」

「えっちね。」


 あっれぇ?なんでバレてるんでしょうかねぇ!


「なんでバレたって顔してるけど、私たちといるときの綴理くんって結構分かり易いんだよ?」

「確かに言葉たちの前では気を抜いてるしそうなるか。」


 言葉たち相手に表情を偽る必要も無いしな。


「うん。その調子で沢山甘えちゃおうよ。綴理くんが考えてたようなことでも喜んでしてあげるよ?もう全部見られちゃってるから今更ダメなんて言わないし。」

「そうですよ。遠慮はいりません。」

「私も恥ずかしいけど綴理君が望むなら。」


 う〜ん。ここまで言ってくれてるけど、多分それやったら身体休めることにはならないんだよな。間違いなく訓練以上に本気出す、というか止まれない。それは完全に本末転倒なので、間を取って?マッサージとかその辺をお願いしようかな。うん、そうしよう。


「それだと逆に身体酷使しそうだから、マッサージとかそれ系のでどうかな?」

「それもそうだね。私も甘やかすどころじゃなくなると思うから、そっちの方向性でいこっか。」

「では早速」

「始めましょう。」


 こうして僕がただただ甘やかされるだけの時間が始まった。



 まず最初はベッドに横になり全身マッサージをしてもらうことになった。


「綴理くんはいつも訓練で戦って身体を酷使してるからしっかりほぐさないとね。」


 そう言って言葉が上に乗って、首と肩から背中にかけてじっくりと揉みほぐしていく。


「ツヅリさん、どうですか?」

「気持ち良く出来てる?」


 その横で左右の腕をティアと聖奈がそれぞれ担当し、僕の上半身が徹底的に癒やされていく。


「うん、凄く気持ち良いよ。ありがとう。でもこれって……」

「ツヅリさんが訓練している間に練習したんです。私だけまだでしたから。」

「そっか、よく頑張ったね。」

「はい、早速役立てる場面が来ましたから頑張ったかいがありました。」


 いつの間にかティアも治癒魔法を覚えていたようで、三人共が治癒魔法を織り交ぜてのマッサージをしているから万が一にも揉み返し等が起こることはなく、普通よりずっと身体が楽になっている。


「凄いな。前にしてもらった時より上手くなってる。このまま眠れそう………」

「寝ちゃってもいいよ。ゆっくりしてもらう為にしてるんだから。」

「そうですよ。我慢せず寝ちゃってください。」

「じゃあお言葉に甘えて、おやすみ。」

「おやすみなさい、綴理君。」


 皆に見守られながら僕はゆっくりと意識を手放した。




「ん………おはよう。」

「おはようございます。気分はどうですか?」


 後頭部を心地良い柔らかさと適度な弾力に支えられて目が覚めた。これは……


「膝枕?」

「はい、寝づらくはないですか?」

「いや、気持ち良いよ。出来ればもう少しこのままでいたいかな。」

「いいですよ。気の済むまでゆっくりしてください。」


 膝枕か。前に言葉にしてもらって以来だな。今回はティアだけど、ティアのもまた違った良さがある。なんかまた寝れそう。


「いいなぁ。私もしたかった。」

「私もしたいけど、次の機会まで我慢するわ。」

「そんなにしたいものなの?」


 人の頭って結構重いから膝枕ってねだられなかったら自主的にあんまりやりたいものじゃないと思うんだけど。


「したいよ。だって寝てる綴理くん可愛いんだもん。膝枕は一番近くで独占出来るのと一緒なんだよ。」

「そ、そうなんだ。」


 割と熱のこもった主張と可愛いの一言に少し複雑な気持ちになったが気にしないでおこう。


「さてと、十分癒やされたしそろそろ起きるかな。」

「そう、ですか。名残惜しいですが今日はツヅリさんのしたいことをする日ですからね。」


 僕が身体を起こそうとするとティアが少し残念そうにそう言う。


 う〜ん、そんな顔されると後ろめたい気持ちになるんだけど。……そうだな、せっかくこの状況だしあれ頼んでみよう。


「ティア、一つお願いしてもいいかな。」

「え?はい、なんでしょうか。」

「このまま耳かきして欲しいんだけど。」


 やっぱり膝枕と耳かきはセット感あるよね。ティアもまだこのままでいたいみたいだしどうだろうか?


「ふふっ、いいですよ。」

「あ、それだったら私もやりたい!」

「私もいい?役割分担すれば皆で出来ると思うのだけれど。」


 おぉ、予想以上に皆やる気だ。それなら僕も遠慮なくしてもらおう。


「じゃあ皆でお願いします。」

「分かりました。まずは私が右耳からしますね。」

「うん、してもらう間おなか側向いてていい?その方が安心するから。」


 人によっては外側向く場合もあると思うけど、どうもこっちじゃないと落ち着かないんだよね。おなか側向いて手を腰の方に回してくっついてると物凄くあったかくて心地良いんだ。


「いいですよ。ツヅリさんのしたいようにしてください。その上で私がしっかり気持ち良くしますから。」

「ありがとう。」


 そうして彼女たち三人による耳かきが始まった。




「痛くないですか?」

「ん……あぁすっごいきもちぃ………」


 私の目の前で綴理君が恍惚とした表情でビクビクと小さく震えている。


「ここまで蕩けてる綴理君初めて見たかも。」

「聖奈さんは耳かき初めてだもんね。綴理くんってすっごく耳敏感だから耳に触れたり息吹きかけたりすると今みたいになるんだよ。普段とギャップがあってかわいいでしょ?」


 確かに普段の綴理君からはこんな表情は想像出来ない。なんか赤ちゃんみたい。


「かわいい。でもなんでここまで敏感なのかしら?」

「ああそれは……」


 言葉ちゃんは綴理君から聞いた話を私にも教えてくれた。


 前に本人から聞いたように綴理君の家は自然体で過ごせる家庭じゃなかったから、お母さんの声が聞こえたらすぐに反応して自分を偽れるように気を張って過ごしていたことで声や音に対して物凄く敏感になったみたい。その影響で、逆に安心出来る人に対してだと今みたいになるらしい。まあ元々敏感ではあるらしいんだけれど。


「お母さんに甘えられなかった代わりに私たちが沢山甘えさせてあげなくちゃね。」

「そうだね。まあそれがなくてもかわいいからついつい甘やかしたくなるんだけど。」

「ほんと、自分の番が待ち遠しい。」


 それから暫く、珍しく可愛らしい綴理君を愛でたい衝動とティアちゃんの邪魔をしてはいけないという気持ちの間で葛藤しながら時が過ぎるのを待った。




「次は私の番だね。」

「ぁ、うん。」

「あはは、完全に力抜けちゃってるね。」


 ティアの耳かきで骨抜きにされ横たわっている僕を見て、言葉が少し眉を下げて笑った。


「ごめん、自力で動けない……」

「いいよ。私が全部してあげる。」

「ぁりがとぉ……」

「これから私と聖奈さんが残ってるけど大丈夫なのかな。」


 されるがままの僕を自分のふとももの上にのせながら、言葉は困ったようにそう呟く。


 面目ない。でもどうしようもないから許して。


「それじゃ、反対側いくよ。」

「ぅん、ふぁ………っあ。」


 言葉の耳かきはティアの何処までも優しいやり方とまた違う方向性で、時に強めに、時に撫でるようなタッチでするというような緩急があり、悉く翻弄されてしまった。結果言葉のスイッチが入ってしまい、無駄に息を吹きかけられたり、軽く擽られたりしてただでさえ残り僅かだった体力が完全に空になってしまった。


「はぁ、はぁ………はぁ…はぁ………」

「あ〜ちょっとやり過ぎちゃったかも。やったらやった分だけ反応してくれるからつい。ごめんね綴理くん。」


 ちょっとだけ、本当にちょっとだけ反省した様子の言葉が謝罪してくるが、僕にはそれに応える余裕は微塵も無かった。


「聖奈さんどうしよう。綴理くんぐったりしちゃった。」

「そうね。じゃあ私は少し緩めに落ち着ける方向にしましょう。」


 僕は未だ動けないまま、言葉のふとももから聖奈のふとももへと移された。




「やっと私の番ね。」


 ティアちゃんと言葉ちゃんの耳かきが終わって遂に私にも綴理君を甘やかす権利が回って来た。二人の施しを受けて綴理君はぐったりとしているから、私はあまり刺激強めにならないようにしないと。


「綴理君、耳かきは十分されたと思うから私は頭と耳のマッサージするわね。」


 僅かに開いた目だけをこちらに向けて反応を示す綴理君に微笑みかけながらそっと耳に触れる。綴理君は一瞬ぴくっと身体を震わせたけれど、それからはじっと私の手を受け入れていた。


「痛い所はない?」


 ふるふる


「それじゃあ気持ちいい?」


 こくっ


 かわいいっ!小さい子にしてるみたいなんだけど。母親になるってこんな感じなのかな?


 そうして暫くマッサージしていると、段々と綴理君の瞼が閉じていき、安らかな寝息が聞こえてくるようになった。


「ちゃんと癒せたみたいで良かった。寝顔もかわいいな。」

「そうだね。こうも無防備だと悪戯したくなっちゃう。」

「だめですよ。せっかく気持ち良さそうにしてるんですから。今日は甘やかして癒やす日なんですからそっとしておいてあげましょう。」

「そうだね。さっきもやり過ぎちゃったから反省しないとね。」


 そんな会話をしながら皆で綴理君の安心しきったような寝顔を眺めた。それから少しして、


「綴理くん寝ちゃったし、私たちも寝ちゃう?」

「そうですね。夕食の時間までまだありますし、私たちも少し休みましょうか。」


 二人の意見に私も頷いて三人並んで横になると、思っていたより体力を使っていたらしく皆すぐに眠りに就いた。




 二時間程が経ってベッドから起き上がり周りを見回すと、三人も僕の横で一緒に寝ているようだった。色々としてもらったからな、流石に疲れさせてしまったか。夕食の時間までまだもう少しあるからこのまま寝かせておいてあげよう。

 

「はぁ、たまにはこうして甘やかされるのもいいな。途中かなり恥ずかしい格好晒すけど、言葉たちなら別にいいよね。なんか普通に楽しんでたし。」


 途中言葉にだいぶ弄ばれてた気がする。スイッチ入ると言葉は容赦ないからなぁ。


「とにかく今日は沢山甘えさせてもらった。明日からはまた全力で甘やかさせてもらおう。」



 少しして夕食の時間になったので三人に声を掛けると、言葉はうんと伸びをし、ティアはすっと、聖奈はもぞもぞとして半ば寝惚けながらゆっくりとベッドから起き上がった。


 こういうところにも個性が出て面白いよな。言葉は標準的で、ティアはこういう時もしっかりしてる。聖奈は皆のイメージとは違って意外と寝起きはふわふわしてて、起きてる時のしゃんとした雰囲気とのギャップがかわいい。なんかマスコット感があって無性に抱き締めて頭撫でたくなるんだよな。


「いいや、撫でちゃお。」


 本能のままに聖奈を抱き寄せて頭を撫でる。


「ん……えへへ〜綴理君のにおいだぁ。」


 完全に寝惚けモードだ。あぁ本当にかわいいなぁもう。


「あ〜聖奈さんだけずるい!綴理くん私も〜。」


 言葉が横からくっついてきたので腕を言葉の背中に回して抱き寄せ、ついでに頭も撫でておく。


「よしよし、言葉もかわいいよ。」

「んふふ、ありがとぉ……」


 そうするとティアもして欲しそうな顔をするから、


「ほら、ティアもおいで。」


 そう言って言葉とは反対側の腕を広げてみせる。


「はいっ!ふふっ、あったかいですね。」


 ティアが嬉しそうに腕の中に入って、結局皆で暫くくっついていた。



 それから夕食の為に部屋を移動し、いつも通りに家族皆揃って食事をした。その際にユリウスさんから、


「君たちはいつ見ても仲睦まじいな。これは近いうちに孫の顔を拝めるかもしれないな。」


 という言葉をもらった。その場では色々と事が落ち着いてからとは言いつつ成程子供か、と内心色々と考えていた。この世界ではこの年で子供を産んでもなんらおかしいことではないから、そういうことも考えた方がいいのかもしれない。


 僕自身、ティアと離れるつもりは微塵も無いので言葉と聖奈とも相談はするが基本的に元の世界に帰るつもりは無いんだよな。だから当然子供もこの世界で作ることになる。それならあまり年齢のことは気にせず、育てられる環境と資金、そして覚悟が揃ったならそういうことも考えていいのではないだろうか。まあこれは僕一人で決定すべきことではないから、しっかりと時間をかけて皆で決めていこう。そのうえで皆の気持ちが決まったら、その時はユリウスさんたちの期待に応えられるよう今以上に励もうかな。



 夕食を食べ終わり、お風呂を済ませてまたベッドに戻って来る。それから少し待って、皆が寝ついたのを確認し今日一日を振り返る。


 今日は本当に休みらしい休みだったな。何処にも出かけないで一日中ゴロゴロしたりイチャイチャしたりして本当に幸せだった。皆もそこまで負担になっている訳ではなさそうだし、寧ろ結構乗り気だったから、一月に一度か二週に一度くらいこういう日があってもいいかもね。



 この世界に来てから本当に人生が充実してる。前の世界では味わえなかったこの幸せは、きっと青春、なんだろうな。まあどんな名前だって関係ない。大事なのは、今最っ高に楽しい人生を過ごせてるってことだ。まだ王国とかの不安要素もあるけれど、今よりもっと力をつけて必ずこの人生を守り抜いてみせよう。やっと掴めた、何よりも大切な、今の僕の全てなんだから。

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