休息と皇都観光
僕は今ふわふわした空間にいる。正確には身体中がふわふわした感触に包まれている。それはつまり………どういうことだ?
目を瞑ったままではよく分からないままなので、取り敢えず目を開ける。そして、
「oh………」
僕の背は高品質なベッドに支えられ、上から言葉が、左からティアが、そして右から聖奈がそれぞれ抱きついている。もちろんあれから服を着た覚えは無いから皆の素肌が直に触れている。道理で全身がふわふわしている訳だ。最近は忙しくてベッドに入ってすぐに寝てしまっていたから感触が久々ですぐに気付かなかった。それにしても、
「いつも言葉は僕の上で寝てるけど、身体痛くならないのかな?」
絶対ベッドに直に寝た方が良いんだけど、こだわりでもあるんだろうか。後で質問してみよう。
「さてと、無理に起こすのも悪いからじっとしてようとは思うけど、動けないとすることもないんだよな。どうやって時間潰すか。う〜ん………よし、せっかくだからこのままじっくりこの心地良さを堪能させてもらうとするか。」
視界の殆どを占める美少女たちとその美しくも可愛らしい魅力的な肢体、それが皆彼女たちが自分に心を許しているが故に見られるのだという事実に否応無しに胸が高鳴る。僕は邪な気持ちで事に及んでいる訳ではないから寝ている相手に手を出そうとは思わないけど、それでも多少は身体が反応してしまう。早く起きてくれないかな。そうじゃないとただの獣になりそうだ。生物としての三大欲求を軽んじる訳ではないけれど、僕が彼女たちとする時はなによりも心が繋がった状態でいたいんだ。寧ろ心が繋がってあたたかさに包まれているのならその先は無くてもいい。今の状態で十分だ。
「本当に、あったかいなぁ………」
暫くぬくもりに身を任せているうちに、いつの間にか僕は再び眠りに就いていた。
「綴理くん、起きて。もうそろそろお昼だよ。もう、昨日無理させ過ぎちゃったかな。でも今日は学院も休みで皆揃って出掛けられるんだから起きてもらわないと。」
「そうですね。せっかくの皇都観光ですから。」
「う〜ん。じゃあこういうのはどうかしら。」
ん……柔らかい感触が唇と両頬に一つずつ。これは………
「あ、起きた。おはよう綴理くん。」
「おはようございます。」
「本当に起きちゃった。やってみるものね。」
目を開けると三人が僕の方を見て微笑んでいた。
「えっ、と?」
「愛情を込めたキスをしたら目が覚めるかなって。」
聖奈が少し照れたように視線を反らした。
「毒林檎を食べた覚えはないんだけど。」
僕は白雪姫かな?
「綴理くんは毒林檎食べても死なないけどね。」
確かに。
「ははっ、いつの間にか人間辞めてる。まあそれはさておき、皆ありがとう。おかげで最高の目覚めだよ。」
愛する彼女たちのキスで起こされるなんてこれ以上ない起こされ方だ。人生充実してるなぁ。
「そう?なら良かった。」
視線を戻して聖奈が笑う。可愛いな。
「はぁ、一回起きたんだけどな。気持ち良くて二度寝しちゃった。今何時くらい?」
「十時くらいだよ。昼ご飯は外で食べることにして、朝ご飯はどうする?」
そうだな。結構動いたからなぁ。お腹は、
くぅ~
「食べよう。」
「ふふっ、昨日いっぱい動いてくれたもんね。」
「頑張りました。」
「今からだと出掛けた先で食べることになりますね。お昼も近いですし、露店で軽く済ませましょう。」
「そうだね。じゃあ一度シャワー浴びて準備しますか。」
ベッドから起き上がり、皆でお風呂に向かった。
一通り準備を終えて城を出た僕たちは、門の前で街中へと視線を向ける。
「じゃあ行こうか。」
「はい!まずは軽く食事からですね。」
ティアは自分の生まれ育った故郷を案内出来るのが余程嬉しいようで、いつになく元気いっぱいだ。
「ティアちゃんいつもは綺麗って感じだけど今日はかわいい感じだね。」
「うん。楽しそうで私も嬉しい。」
うんうん、今日のティア本当にかわいいよね。いつもとまた違った可愛さだ。
「それで、なに食べる?」
「手っ取り早くお腹を満たすなら肉系がいいでしょうか。それなら、あそこですね。」
ティアの指差す先にはそこそこ長い行列のできている串焼きの露店があった。文明が進んでもやはり串焼きは買い食いにおいて衰えない強さがあるな。
「いいね。行列の進み具合から見て作業の回転率も良さそうだ。見た目よりあんまり待たなくて済みそうだね。」
「流石の観察眼ですね。あのお店は美味しい上に待ち時間も少ないことで特に人気が有るんです。」
現代日本でもその点は結構重要ポイントだからな。個人的にも今はあまり待ちたくないし。漂ってくる匂いで余計に空腹が辛いんだよね。
「並びに行こっか。」
「そうね。」
言葉と聖奈が先を行き、それに着いていく形で列に加わる。それから程なくして順番が回ってきた。
「一人二本ずつくらいで良いですよね?八本お願いします。」
「いらっしゃい。これはまた美人さん揃いだねぇ。ってティア様!?」
何気なくティアが注文すると店員が目を大きく見開いてあからさまに驚いていた。
「はい。一昨日此処に帰って来ました。久しぶりに来ましたが、変わらず繁盛していますね。」
「ええ、お陰様で。ティア様もお元気そうで良かったです。半年程前に行方不明になったと聞いていましたがその間はどちらに?」
やっぱり気になるよな。自国の皇女がいなくなったんだから。ましてやここは魔皇国だ。皇族は皆相当慕われている筈。話している空気を見てもそれがよく分かる。でも、あまりいい話ではないんだよな。ティアは話す気みたいだけど。
「盗賊に誘拐されて王国に奴隷として売られていました。それから色々とありまして、今こうして帰ってこれています。」
「そうだったんですか。すみません、嫌な事をお話させてしまって。」
店員は気まずそうに謝ったが、
「いえ、気にしていませんよ。確かにあの期間は大変でしたけど、その代わりに大切な人に出会えましたから。」
言ってティアが僕の方を向いて微笑む。そしてそのまま腕を絡ませくっついてきた。
こう素直に表現してくれるのは嬉しいけどちょっと照れるな。
「そちらのお方は?」
「私の未来の旦那様です。彼と、彼女が私を助け出してくださったんです。」
ティアは僕のいる方とは反対側の手で言葉の手を取り、再び花の咲くような笑顔を浮かべた。
「そうなんですね。お二人共ありがとうございます。そのお礼としては少ないですが少しサービスさせてください。」
ティアの幸せそうな表情を見た店員はそう言って頼んだ本数より一本ずつ多く入れて品物を渡してくれた。
「ありがとうございます。」
「いえ、これくらいは。また食べに来てくださいね。」
「はい、近いうちにまた来ます。」
あたたかい笑顔に見送られ、僕たちは観光を再開した。
「ティアは前から結構街に出てたの?」
「はい。皇族とはいってもそこまで堅苦しいものではないですから普通に買い物もしていましたよ。あの店員さんにもよくお世話になってました。」
「さっき話してた時も仲良さそうだったもんね。もしかしてこれから行く先々皆そんな感じかな?」
「そんな気がするわね。」
そんなふうに話しながら早速買ったばかりの串焼きを頬張る。
「美味しい!僕こういうのは塩胡椒派なんだけど、このタレすっごく好きだ。料理したくなるなぁ。」
「ほんとだ。すっごく美味しい。これは余計にお腹空くかも。」
「そうね。元々そこまで空腹ではなかったけど本当にいくらでも食べれそう。」
三者三様に、されど結論は等しく串焼きを絶賛する。その様子を見てティアは嬉しそうに、
「気に入っていただけて良かったです。また買いに行きましょうねっ。」
と少し自慢げな笑顔で言った。
串焼きを食べ終えてからは、洋服店に行って王国では売っていなかったようなより現代的な服を買ったり、魔導具店で珍しい効果の魔導具を見たりと皇都を幅広く満喫した。昼食にと入ったレストランではデザートに日本で売っていても遜色ない程のケーキが食べられたりととても満足だった。
「は〜楽しかった。今日はいい休日になったよ。今度の休日もこんなふうに出掛けられたらいいな。」
「はい。私も紹介したかったところを沢山紹介出来て満足です。ですがまだまだこの街の良い所は沢山ありますから、そこも回っていけたら良いですね。」
「うん。今からもう次の休みが楽しみだよ。」
「そうね。その為にも明日からしっかり頑張りましょう。」
「そうだね。」
明日は言葉たちにも手伝ってもらって魔法の面を強化する予定だ。こっちはまだあまり実績を積んでないから上手くいかせるのはなかなか大変だろう。昨日とはまた別の方向で体力を使いそうだ。頑張らないと。
「それじゃ、明日の為に帰ってしっかり休もうか。」
「うん。明日からは私も教えなきゃだもんね。万全の状態にしておかないと。」
「はい、私もですね。しっかり準備しておきます。」
「私は学校の用意ね。」
そうして城に戻った僕たちは各々明日の計画とその用意をしてベッドに入り眠りに就いた。
最近はこうして休みの日にデートするのが普通になったけど、日本にいた時では考えられなかったことだよな。彼女が三人いることもそうだ。
この世界に来て、僕の人生は確実に変わった。それこそ物語の主人公みたいに。こうなったのに何か理由があったりするのだろうか。というかもしかして逆に日本にいる間青春してなかったのに理由があったり?色々考えられそうなんだよなぁ。
そこら辺のことあの人なら知ってると思うんだけど、そう簡単に会えないからな。取り敢えずは可能性の高い大幅アップデートを目標に頑張るか。明日からの訓練もきっとその役に立つ筈だ。しっかり考えて臨もう。
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