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皇女の帰還

少し長めです。

 冒険の街クロスハートを出た僕たちは、ついさっき借りた魔導車に乗って皇都へと向かっていた。


「ティア、ここから皇都までどれくらいかかる?」

「大体三時間程だと思います。」

「思ったより早いな。やっぱり魔導車だからかな。」

「そうですね。馬車よりもずっと速く走れますから。」


 本当に凄いよな。王国より進んでいるといってもここまでとは思ってなかったよ。


「にしてもさっきの街で借りる時思ったより高くなかったよね。この魔導車って結構普及してるの?」


 まあただの移動手段の割には高かったけど、今の僕たちに払えない程の金額ではなかったんだよね。具体的には七万ハーツくらい。


「皇都以外ではまだそこまでですが、皇都内ならお金のある人は利用するくらいの感じです。でも私がいない間にもう少し普及しているかも知れないです。」

「そっか。これは相当期待出来そうだ。」

「皇都はもっと進んでるってことだよね?楽しみだなぁ!」

「私の自慢の故郷ですから、きっと楽しんでもらえると思います。」


 皇都の話をする時のティアはいつもより少し表情が濃くなるんだよな。話の節々から本当に故郷が大好きなことが伝わってくるし、どこか誇らしげにも感じられる。普段はおとなしめの性格をしているティアだから、こういう姿を見せられるとますます好きになるんだよな。


「早く、着かないかな。」


 皇都に着いてからの楽しそうな二人の様子を思い浮かべ、僕はそう呟いた。



 暫く外の景色を眺めながら魔導車に揺られて辿り着いた先は、殆ど日本といってもいい程の街並みだった。車が止まっていち早く降りたティアが、にこやかな笑顔で言葉を紡ぐ。


「お二人共ようこそ。ここが私の生まれ故郷、皇都ハートライトです。」

「ここがティアの……」

「はい、私はあそこに見える皇城で生まれました。」


 街の中心部辺りに一目でそれと分かる大きな建物が見えた。


「大きいな。それと予想以上に現代的でしっかりした造りなんだね。」

「はい。皇城は国の象徴なのもあって、この国が持てる技術の全てが注ぎ込まれています。ここまでの城は他に無いと自信を持って断言出来ますよ。」

「そこにこれから行くんだよな。」

「はい。皇城に着いてからは私も私として入るので、お二人も中を見て回れる筈ですよ。お二人はもう立派な関係者、家族ですから誰にも文句は言わせません。」

「うん、そうだね。」

「はい。」

「あ、お城に行くんだったら服装変えた方が良いよね?流石に冒険用の服で行く訳にもいかないし。」


 確かに今の格好は城には似合わないな。丁度良さそうな服も言葉が収納してるから着替えるか。


「そうだね。完璧とはいかないまでも多少はそれらしくしておこう。」

「あまり気にしなくても良いんですけどね。せっかくですし着替えましょうか。」


 そうして僕たちは一時ホテルに戻って着替えをすることにした。


「どれがいいかな。ティアはどれがいいと思う?」

「そうですね。私はこの服にしようと思っているので、これの方が組み合わせとしては良い感じになるんじゃないでしょうか。」

「いいね!じゃあそれにする。」


 やっぱり女子の服選びは考えることが多いよな。まあ、男子も考えることは多いんだけど、生憎とこの世界での男性の正装というのはバリエーションが多くないからすぐに決まっちゃうんだよなぁ。


「綴理くん、私たちは準備出来たよ。」

「色々と考えたうえでこの服にしました。」


 二人の声に振り向くと、そこには三人での初デートで買った服で美しく着飾った二人がいた。


「初デートの時のにしたんだね。二人共、やっぱり綺麗だ。」


 そう言って僕は二人をそっと抱き締めた。


「えへへ、ありがとう。」

「ありがとうございます。ツヅリさんも格好良いですよ。」

「そうかな、ありがとう。じゃあ準備も出来たことだし行こうか。」

「そうだね。」

「行きましょう。」



舞台は変わって(シーンスイッチ)



 僕たちは皇城前に転移した。城の門の前には予想通り門番が立っていた。


「私の出番ですね。」


 ティアは一言そう言って、堂々とした様子で門番へと近付いていった。



「お久しぶりですね。」

「貴方は……」

「はい。ティア・アイズ・メルトハート、ただいま戻りました。」

「っ!……よくぞご無事で……」

「色々とありましたがちゃんと帰ってこれました。お父様とお母様にも無事を知らせなければいけないので中に入れていただけますか?」

「勿論です。どうぞお入り下さい。」

「あ、それと一緒に来ている人もいるのでその二人も入城しても構いませんか?」

「ええ、ティア様が直々にお連れになる方であれば問題ありませんよ。」

「良かった。では連れてきますね。」



 ティアが門番と話しをつけられたようで、笑顔で戻って来た。


「許可は貰えました。行きましょう。」

「遂にティアの家族に会うのか。」

「綴理くん緊張してる?」

「まあ久しぶりに会う自分の娘が男を連れて来たらあまりいい顔はしないと思うよね。」

「大丈夫ですよ。私からも言いますから。」

「私もついてるから、一緒に頑張ろう。」


 どっちにしろ行かない選択肢は無いもんな。二人もこう言ってくれてるんだし覚悟を決めよう。


「うん。……よし、行こう。」


 少しだけ緊張の解れた僕は一呼吸おいて城の門へと足を進めた。



「連れて来ました。」

「こちらのお二人ですね。中まで御案内致します。」

「はい。お願いしますね。」

「「よろしくお願いします。」」


 門番の人に連れられて城の中へと足を踏み入れると、すぐにとてもよく手入れがされていると分かる綺麗な庭園が目に入った。花の一つ一つが他の花と調和して落ち着いた雰囲気を醸し出している。機会があればこの庭全体を見て回りたいな。


「気に入っていただけたみたいですね。後で一緒に見て回りましょう。」

「分かりやすかったかな?」

「ええ、花が好きなんですね。」

「うん、落ち着くから。それにここまでの庭園は初めて見たし。」

「そうだね。日本にいた頃はこういう所に行く機会もあんまり無かったもんね。私たちの学校は都会だったから近くには高層ビルばっかりだし。」

「そうですか、ではせっかくですし是非楽しんでいってください。」

「ありがとう。そうさせてもらうよ。」


 そうして庭園を抜けた僕たちは皇城の扉の前に着き、門番の案内に従って城の中に足を踏み入れた。


 これからティアの両親に会うんだよな。どんな人なんだろう。ティアとのこと認めて貰えるといいな。




 綴理達が城の門を抜けた頃、案内した方とは別の門番からティアの帰還を伝えられた伝令役が王の執務室へと走り、その扉を開いた。


「失礼致します!緊急の用件です!」


 息を切らせながらそう口にした彼に、ティアの父、魔皇ユリウス・カイエン・メルトハートは少し驚きつつ詳細を尋ねる。


「珍しく慌てているな。何があった。」

「はい、ティア様がお帰りになられたと。」


 その言葉を聞いた瞬間、そこに居たはずの落ち着いた王は跡形もなく消え、後には一人の父親だけが残った。


「なに!?それは本当か!であれば今すぐ玉座の間を準備してくれ!」

「既に準備を始めています。ティア様はもう城内に入るところのようですので、王もすぐにでも向かわれた方がよろしいかと。」

「分かった。妻にはもうこのことは?」

「メイドが既に向かっております。今頃はもう伝わっている頃でしょう。」

「よし、では私は玉座の間に向かう。」


 そう言うと同時に彼は執務室を出て足早に玉座の間へと向かった。一言言葉を残して。


「やはり本当だったのか……」




 また別の部屋ではティアの母、皇妃レイ・ソフィア・メルトハートの下にメイドが情報を伝えていた。


「ティアが、帰って来たのね。やはりあのお方は………」

「?……王は玉座の間へ向かっております。皇妃様も向かわれますか?」

「もちろんよ。長い間行方不明だった愛娘が帰って来たんだもの、出迎えてあげなくちゃ。」


 そうして彼女も自室を後にし玉座の間へと向かう。


「あれはやっぱり……そういうことよね……」




 城内に入った僕たちは扉の先で門番と代わった長年仕えていそうな老年の執事らしき人物に連れられ、そのままの流れで階段を上り玉座の間へと案内された。


「王がお待ちです。」


 彼はそう一言言って扉に手を掛けて押し開く。


「!!……これが、玉座の間……」


 開かれた扉の向こうにあったのは、発展した文明とはまた違う、想像にあるような玉座の間らしい空間だった。その奥中央にはこれまた絢爛な椅子が誂えられており、そこに王と言うには些か若い様にも思える落ち着いた雰囲気の男性と、なるほどティアがこうも美しくなる訳だと納得する様な妖艶な魅力を放つ大人の女性が座ってこちらを見ていた。


「遂に帰って来たんですね。……行きましょう、私の両親が待っています。」


 そう言ってティアは僕たちに明るい笑顔を向ける。


「そうだね、行こう。」

「うん。」


 そうして僕たちは三人で部屋に足を踏み入れた。そのまま玉座へと続く道の半ばまで歩いて行き、立ち止まる。それからティアが一歩前に出て軽く微笑みながら口を開く。


「ティア・アイズ・メルトハート、ただいま戻りました。」


 その声を聞いた目の前の男性は心からほっとした様に声を震わせて言った。


「よくぞ……無事に、帰って来てくれた。お帰り、ティア。」


 それに続いて隣の女性が目尻に泪を浮かべて言葉を紡ぐ。


「本当に、ティアなのね……。良かった、本当に良かった。……おかえりなさい、ティア。」


 そんな二人の様子に感化されたのか、ティアも瞳を潤ませそれに応える。


「はい、御心配をお掛けしました。」


 そうして三人はゆっくりと近付いていき、そっと抱き合った。それは優しく、それでいて二度と離さないという様な意思を感じられる抱擁だった。


「時間はかかっちゃったけど、ちゃんと再会出来て良かった。」

「うん、もっと早くこうしてれば良かったかも。」

「そうだね。この光景を見てると本当にそう思うよ。」


 抱き合った三人だけでなく、その周りで見ている護衛の兵士たちも皆嬉しそうに涙ぐんでいる。


 本当にいい国なんだな。国の象徴とも言えるこの場所が、こんなにもあたたかさに溢れているんだから。



 それから暫くしてゆっくりと三人が離れ、こちらに向き直る。


「すまない。君たちを放置してしまった。」

「久しぶりに会えたから、つい感極まってしまったわ。」


 ティアの両親はそう言ったが、当然そんなことは気にしていない。


「良いんですよ。その為にここに来たんですから。僕も皆さんの笑顔を見られて本当に嬉しいんです。」

「私もずっと家族に会わせてあげたかったから、本当に良かったです。」


 僕たち二人は心の底からそう言った。


「そうか。君たちのこと、聞かせてもらってもいいかな?どうやらティアは君たちをとても信頼しているようだから。」

「お二人がいなければ私は今ここにいませんでしたから。是非私からも話させてください。」


 それから僕たちは部屋を移して今までのことを話すことになった。僕たちと出会うまでのティアの生活、僕たちがどうやって出会ったのか、その後どんなふうに暮らしてきたかなど順番に出来るだけ詳しくティア自身の説明も交えて話していった。


 途中、ティアが誘拐されてから僕たちに出会うまでの話では両親二人共とても悲しそうで辛そうだった。


 無理もない。自分の大切な娘が人としての尊厳をまるで無視した扱いを受けていたのだから。挙句の果てにはゴブリンの巣に連れて行かれ散々玩ばれたんだ。その間どうすることも出来なかった悔しさは容易に想像出来る。これでもし再会した姿が死体だったなら目も当てられない。本当に、あの場で助け出すことができて良かった。


 それから暫くして粗方話を聞き終えた二人は僕と言葉の方に向き直り、深々と頭を下げた。


「娘を救ってくれて本当にありがとう。なんと礼をすれば良いのか。」

「僕はただ目の前にある不幸が許せなかっただけで、したいことをしただけです。僕としては今こうして笑って過ごしてくれているだけでこれ以上ない見返りだと思っています。」

「それでも、ありがとう。この恩はどうかしっかりと形にして返させて欲しい。」

「私からもお願いします。大切な娘の命を救っていただいたんです。何もしない訳にはいきません。」


 そう言われてしまうと僕としては断ることは出来ない。言葉の表情からも同じ意思が伝わってきている。それを踏まえて少しの間考えた僕は、兼ねてから予定していた、僕としての本題に入ることにした。


 やっぱり緊張するな。今のところ印象はプラスだと思うけど、それとこれとは別だからな。


 さて、ティアとのこと認めてもらえるだろうか。


 意を決して口を開く。


「こういう形で口にするのは良くないとは思いますが、一つ、僕からお願いしたいことがあります。」

「なんだろうか。私にできることなら最大限協力させてもらおう。」


 その声と、隣で優しく見守る二人の視線に後押しされて、続きを紡ぐ。


「ありがとうございます。では……娘さんとの婚約を許可していただけませんか。」

「っ!……そうか。やはりそうだったのだな。先程からのティアを見ていて予想はしていた。」

「そうね。ティアが貴方のことを話す時の表情を見たらすぐに分かったわ。」


 まあ、なんとなく予想はつくよね。一緒に生活もしている訳だし。それで、それを踏まえたうえでどういう気持ちで話を聞いていたのだろうか。表情を見るに、もう殆ど気持ちは決まっているようにも思えるが。


「どう、でしょうか。」

「…………私からもお願いする。どうか娘を幸せにしてやってくれ。君はきっとそれが出来る人だ。」

「私も、貴方になら娘を安心して送り出せると思っています。この子がここまで信頼しているんですもの。それに、御告げもありましたから。」

「御告げ、ですか?」


 これまた予想外の単語だ。どういうことだろうか。


「ええ。実を言うと、ティアが生きていることは知っていたんです。ただ、実際に目にするまでは信じきれていませんでしたが。」

「そう、だったんですか……」


 それは本当に予想外だな。


「ええ。それで、その御告げのことなのですが、ティアが行方不明になって暫くした時、時期で言えば丁度貴方方とティアが出会った頃のことです。その日はティアが居なくなった心労で眠れない日が続いていたせいか、体力に限界がきて久しぶりに深い眠りについていました。その時に夢の中で神を名乗る女性に出会い、彼女からティアの無事を聞いたのです。彼女曰くティアは運命の相手に出逢い、救われたのだと。それだけではただの夢ではありますが、彼女の発する空気が、『啓示』を使った時に感じる空気と同じものだったのです。『啓示』は神の意思を授かるスキルですから、それと同じならきっとこのお方は神に違いないのだと。それで私は彼女の言うことを信じることにしたのです。」

「そんなことが……」


 これは予想以上にすごいことが起きていたみたいだな。まあ後々それは考えるとして、


「では、そのことも踏まえて婚約を許可していただけるということでよろしいですか?」

「ああ、是非。」

「ええ、娘をよろしくお願いします。」


 良かった。これで僕としての最大の目的である御両親への挨拶と婚約の許可を達成出来たな。


「さて、他には何かあるだろうか。」

「いえ、僕の望みはそれだけです。僕にとっては何にも代えがたいことですから。」

「そこまで娘を大切に思ってくれているなら何も言うことはないな。ではこの後は何か予定はあるだろうか。」

「いえ、夕方に少し迎えに行かなければならない人がいますが、幸いスキルがあるので時間は殆どかかりません。どうかされましたか?」

「いや、せっかくなら是非もてなさせて欲しいと思ってな。義理の息子とその家族になるのだから。」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて。」

「そうか。では城の敷地内を見ていってほしい。私の自慢の場所なのでな。案内はティアに任せる。きっとその方が良いだろう。」

「分かりました。私の家でもありますからね、先程の庭園をはじめ色々と案内します。」

「よろしく頼むよ。」

「はい。」


 こうして僕たちは城の敷地内を見て回ることになった。


「楽しみだね。」

「うん、本当に楽しみだ。」

「ふふっ、まずは何処から行きましょうか。」


 せっかくの城だ、目一杯堪能するぞ!

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