それぞれの出発
三章開始です。
「皆用意出来た?」
自分の用意が整ったことを確認した僕は、三人の彼女へと視線を向けて問う。
「ばっちりだよ!」
最初に反応したのはやはり言葉だった。三人の中で一番テンションが高く、心做しか瞳がキラキラと輝いている気がする。いや、気がするじゃないな、輝いている(断言)。
「だろうね。今日は僕より早く起きて準備してたし。」
「楽しみだったもので、つい。」
「いや、僕としてもそう思ってくれる方が嬉しいよ。昨日急に決めたことでちょっと強引だったかなって思ってたから。」
「ちゃんと相談して決めたんだからいいんだよ。私は早く行きたくてうずうずしてるくらいだし。」
「それはよく分かる。じゃあ言葉は大丈夫だね。」
「うん。」
よし、あとはティアと聖奈だな。
「私もできました。」
お、ティアも終わったか。
「これで魔皇国に行く準備は整ったね。」
「家族に会うのが楽しみです。皆元気にしているでしょうか。」
「多分ティアが顔を見せれば元気になるんじゃないかな。」
「そうだといいですね。」
「きっと大丈夫だよ。子どもが可愛くない親なんてそうはいないんだから。」
僕がそう言った瞬間、ティアが悲しげな表情になった。
「ツヅリさん……」
「あ、そういうつもりで言った訳じゃないから気にしないで。」
実際の事例を知ってるから絶対とは言えなかっただけなんだよ。虐待とかはニュースでも沢山聞いたからね。
「……分かりました。」
「うん。今は何よりもご両親への挨拶っていう重大なイベントをどう乗り越えようか考えてるからそれどころじゃないんだ。」
僕にとってはそっちの方が一大事だ。これに関しては過去に経験が無いから上手くやれる自信が無いんだよな。
「大丈夫ですよ。娘の命の恩人なんですから、きっと受け入れてくれます。」
「そうだと良いんだけど。まあ、頑張ってみるよ。」
「はい。」
ティアに背中を押され、少し気持ちが楽になった。よ〜し、頑張るゾイ!あれ?
「おまたせ。私も準備出来たよ。」
「あ、うん。聖奈は今日から学院だよね。」
「ええ。また会長に戻った感じがして不思議な気分。」
「口調も会長になってきてるしね。」
「そうね。なんだかその方がしっくりきて。長く一緒に過ごしたキャラだから結構馴染んでるのかも。」
「キャラって言っちゃうんだ。でもそんな聖奈も大人っぽさが増して好きだな。」
そう言うと聖奈が一瞬照れたような顔をしてから、
「そう?じゃあたまには貴方の前でも会長になろうかしら。」
そう言いながら小悪魔な笑みを浮かべた。
「切実に待ってます!」
「ふふっ、楽しみにしてて。」
「うん。」
僕は期待に胸を膨らませた。
やっぱりそういうお姉さん系も魅力的じゃん?しょうがないだろ、男はそういう生き物なんだ!
「こういうの見ると綴理くんも男子高校生なんだなって思い出すよ。」
「ツヅリさんもオトコノコなんですね。」
横で二人が何か言ってるみたいだけど、引かれてる訳じゃなさそうだからいっか。とにかく、
「これで皆準備出来たね。それじゃあ行こうか!」
「うん!」
「はい。」
「ええ。」
僕たちは全員で城の前に転移した。
「ここからは一旦別行動だね。」
「少し寂しいけれど、夜には会えるものね。」
「必ず迎えに行くから。」
「待ってるわ。」
「聖奈さんまた後でね。」
「ええ、言葉ちゃんも楽しんできて。」
「もちろん!」
「ティアちゃんもね。」
「はい。帰ったら色々お話しますね。」
「楽しみにしてる。」
聖奈がそれぞれと言葉を交わし、あとは城に入るだけとなったので、僕は予定していたことを行動に移す。
「じゃあ最後に、聖奈。」
「あっ。」
僕は聖奈に近寄って抱き締め、至近距離で聖奈の瞳を見つめる。すると聖奈も僕のすることが分かったのかゆっくりと目を瞑った。それを確認して僕は、
「んっ。」
そっと唇を重ね、少しして離れた。
「ありがとう。これで今日一日頑張れそう。」
「なら良かった。」
「うん。じゃあ行ってくるね。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
「あ、行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃい、セイナさん。」
「ええ、行ってきます。」
聖奈はこちらを振り返りつつ、段々と城の中へと消えていった。
「僕たちも行こうか。」
「そうだね。にしてもまさか急に目の前でキスするなんて。流石綴理くん、大胆だね。」
「愛することに恥ずかしいさなんてないからね。」
「そうだったね。じゃあ私にもしてくれる?」
言葉がそう言うので、
「いいよ。んっ……」
僕は迷わずキスをした。
「んっ、んんっ……っはぁ。ありがとう。」
「僕はいつでも構わないよ。したくなったらいつでも言って。」
「ははっ、綴理くんにはかなわないや。でも、うん。その時はちゃんと言うね。」
「あ、でしたら今私からお願いします。」
「うん、いいよ。んっ…」
言葉に続いてティアにもキスをした。
「んんっ、あっ、んっ……はぁ。……ありがとうございます。せっかくだからと思って言ったんですが、思ったより激しくて身体の力が抜けかけました。」
「ごめん、こうも立て続けにキスするとついそういうスイッチが入りかけて。」
「しょうがないですね。その辺りも考えて言うようにします。」
「節操なしでスミマセン。」
「大丈夫!そんな綴理くんも私たちは大好きだから、ね?ティア?」
「はい、勿論です。」
「そっか、うん。ありがとう。」
改めて彼女たちのことが好きだと思った。
「じゃあ今度こそ、出発しようか。」
「魔皇国の方向ってどっちだっけ?」
言葉がそう聞いてくる。でも、
「その点は大丈夫。国境付近までは僕のスキルを使うから。その後はティア、お願いね。」
「任せて下さい。人生の殆どを過ごした故郷ですから道案内はお手の物です。」
珍しくティアが自信満々だった。これに関してはまず間違いないもんね。
「なら私は気にしなくても良さそうだね。」
「はい。コトハさんは道中を存分に楽しんで下さい。」
「そうする。それじゃあ綴理くん、お願い。」
「うん。」
『舞台は変わって』
こうして僕たちは再び転移した。今度は国境付近へと。
その頃城に戻った聖奈は何事も無かったように自室に戻って時間が過ぎるのを待った。少しして集合時間になった為自室から出て広間へと向かった。
「あ、おはようございます会長。」
広間についてすぐ昨日話した子に声をかけられた。
「おはよう。」
「今日から学院ですね。どんなところなんでしょうか。」
「魔術学院というからにはおそらく魔法の授業があるんじゃないかしら。」
「やっぱりそうですよね。私たちのいた学校とは違って新鮮な気持ちで授業に臨めそうです。それにしても私達が使ってるのは魔法なのになんで魔術学院なんでしょう?」
「それは調べてみないと分からないけれど、私個人の考えとしては目標なんじゃないかと考えてるわ。」
「目標、ですか?」
案の定彼女は首を傾げた。
「ええ。魔法を解明し魔術へと落とし込むって。」
「どういうことですか?」
「簡単な例でいえば火や発明じゃないかしら。初めて火が齎された時、それを使う存在にとっては魔法のように見えるけれど、今の私たちはどんな過程で火が生み出されるのかを知っているから火を使うことは技術の一つとして扱われている。同じように、この世界の人にとって魔法は使えはするけれどどうして使えるのかが分からないものだから、その原理を解明して広く応用出来る技術、つまり魔術にしようって目標を掲げてるんじゃないかって。」
「ん~なんとなくですけど分かりました。」
「まあ、案外なんとなくでつけられただけかもしれないけれどね。」
「それはあるかもしれませんね。」
「そこは気にしてもどうしようもないし置いておいて良いんじゃないかしら。」
「それもそうですね。それよりこれから行く寮ですよ!城ほどではないにせよ綺麗な所だといいなぁ。」
「そうね。」
まあ私の場合は殆ど寮にいないからあまり気にならないんだけど。
そうこうしているうちに全ての勇者が集まりきったようで、出発の指示が出された。固まって城の入口に向かい、そこに用意された馬車に順番に乗っていく。私もそれに従ってそのうちの一つに乗った。
いよいよ私の方も出発だ。綴理君たちは今頃もう魔皇国に入ってるよね。帰って話を聞くのが楽しみだな。そうだ、学校が休みの日は一緒に連れて行って貰おう。やっぱり実際に見た方が楽しめるし。はぁ、なんだか学院の方に全然意識が向かないな。気付いたら綴理君のこと考えてる。学院についたらちゃんと会長モードに切り換えないと。頑張れ、私。
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